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槍とカチューシャ  作者: カーネーション


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第67話『さよなら』

 確かに挨拶はきっちりと済ませたはずなのに、団長さんはお城の出入口までついてきた。「仕事はいいんですか?」と聞いたら、「多少は平気だ」と真顔で返されてしまった。


 本当だろうか。前みたいに、アーヴィングさんに怒られそうな気がするけれど、本人がそう言うなら仕方ないか。


 大きな体に隠れるように、頭1つ分低い夏希までいた。「訓練はどうしたの?」とたずねれば、「抜け出して来ちゃいました」と教えてくれた。後で先輩からこってり絞られることになるらしい。


「ふたりとも見送りなんて良かったのに」


「いや、無理だ」団長さんは素早く否定してくる。


「そうですよ。最後だっていうのに何を言っているんですか。僕は少なくともマキさんのことを友人だと思っているんですから」


 「友人」なんてくすぐったくなるような言葉、久々に聞いた。あんまりわたしのリアクションが薄かったせいか、夏希は眉尻を下げて困ったような表情を作る。青い瞳をうかがう限り、潤んでいるようにも見える。


「あ、そう思っていたのは、もしかして、僕だけですか?」


 心配させて悪いことをしたかもしれない。わたしは夏希を安心させたくて、首を横に振った。


「違うよ。わたしも夏希くんのことは友だちだと思ってる。大分前から心のなかでは『夏希』って呼び捨てにしてるしね」


「呼び捨てですか」


「うん、ずっと呼び捨て」


 しかも、夏希よりもわたしのほうが年下という事実もある。そこは今さらだ。教えなくてもいいかと思った。


「マキさんならいいですよ。心の外でも呼んでみてください」


 そこまで言ってもらったら、意を決して名前を呼んでみるしかないだろう。


「夏希」


「マキさん」


「マキでいいよ」


「いえ、団長にも叱られてしまいますし、マキさんと呼ばせてください」


 団長さんの顔を見上げてみると、鋭い視線が容赦なく夏希に突き刺さっていた。確かに、ふたりの力関係を考えても難しいだろう。


「じゃあ、夏希。本当にありがとう」


 手なんか差し出してみたりして、ずいぶんと柄にもないことをしている自覚はあった。でも、夏希の傷とマメだらけの手が握ってきたので、そんなことは小さくてどうでもいいことに感じられた。


「マキさん、ごめんなさい。気の利いた言葉が浮かばなくて……」


 夏希は顔を崩して笑っていながら静かに泣いていた。「うわ、涙出てる」と言った。情けない自分が嫌なのか、頬を乱暴に腕で拭う。日差しのあたたかさを浴びながら、夏希はわたしとの別れで涙を流してくれる。気の利いた言葉なんかなくても嬉しかった。


「また、会おうね」


「はい」


 今度はフィナと一緒にシャーレンブレンドの街並みを散策してみたい。夏希とフィナの間にわたしがいるのは邪魔かもしれないけれど、楽しそうだ。そんな未来を期待してほほえむ。


「団長さんともまた会えますよね?」


「無論だ」腕組みをして、難しい顔をしながら、団長さんは即答した。


 わたしはありがとうの気持ちをこめて、ふたりに頭を下げた。この世界で生きられたのも、何だかんだでふたりのおかげだし、本当にお世話になった。お城にも深々と頭を下げてから、顔を戻した。


「いってきます」


 夏希は「いってらっしゃい」と送り出してくれた。団長さんは「俺の気が変わらないうちに早く行け」なんて、自分勝手なことを言う。


「わかりましたよ」


 ふてくされた振りをして、ふたりから背を向ける。もう後ろは振り返らない。特に団長さんからは離れよう。そう決意したのに首の辺りに太い腕が回された。


「アイミ」


 未練がましい団長さんにため息が出る。何か言ってやろうと拳を握りしめたら、耳元で小さく、「がんばれ」が届いた。


 感情がこみ上げて来そうで、唇を噛み締めて、ぎりぎりなところで踏ん張る。


 ――泣くな。涙がこぼれ落ちそうで、ギブアップするようにわたしが腕に触れると、団長さんは体を離してくれた。


 目の前に入るものが新しい道しかないように、顔をできるだけ上げる。おかげで涙がどうにか引っこんでくれたことに感謝する。


「がんばります」


 もう絶対に振り返らない。団長さんのぬくもりが体から消えていくの感じながら、ようやく足を一歩前に出せた。

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