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槍とカチューシャ  作者: カーネーション


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第56話『あの場所』

 “あの場所”というのはどうやら森のことだったらしい。シャーレンブレンドの街から離れたところに、こんな大きな森があったなんて知らなかった。


 森の入り口付近には先に到着していた団長さんが待っていた。愛馬の黒い背を撫でる手つきは優しい。表情の強ばりが無くなって、やわらかい感じなのも意外だった。


 馬が相手ならこういう顔もできるのだなと、ちょっと感心する。案外、団長さんは動物好きだったりするのかもしれない。わたしたちに気づいた団長さんは、不機嫌な顔にわざわざ戻して白馬に近寄ってくる。


 馬の横まで来て足を止めた。何か言うかと思ったら、口を閉ざしたまま、さっと目の前に手を差し出してきた。会ったときには人を荷物のように扱っていたのに、どういう心境だろう。もしかして、ジルさんに叱られたからだったりして。


 戸惑いながらも、大きな手のひらの上に自分の手を重ねる。彼の手を借りて地面に足を下ろした。この先に何があるのか知らない。ジルさんにたずねてみると、「森の奥に湖があるのよ」と答えてくれた。


「湖?」


「すごく綺麗なの」


 湖を見るのは久しぶりだ。元の世界では旅行なんてほとんどしなかったし、最後に湖を見たのはいつだったか記憶にない。馬に乗った後で足はガクガクだけれど、「すごく綺麗」と言われたら進むしかないだろう。


 団長さんは白馬の手綱を太めの幹に結んだあと、「行くぞ」と声をかけた。わたしも足を進めようとした。だけど、ジルさんはその場で足を止めてしまう。


「ジルさん?」


「少し疲れたわ。とても歩けそうにないの」


 ジルさんは取り出したハンカチで額の汗を拭う。よっぽど疲れたのだろうと想像がつく。ジルさんが行かないのなら、わたしもその場にとどまろうと思った。それなのに、


「マキさんとジェラールは行って」


「えっ? でも、ひとりにするわけには」


「わたしは大丈夫。少し休んだら追いかけるし、道もわかっているから」


 ジルさんは切り株に腰を落ち着かせて、にこっと微笑んだ。それでもいいのかなと悩んでいたら、団長さんが「わかった、行くぞ」と強引に腕を取ってきた。


 何か、心がすっきりしない。それでも、ジルさんまでが「さあ、行って」と促してくるから、とどまるのはやめるしかない。


 ――団長さんとふたりきりってどうなんだろう? そもそもジルさんと出かけるはずじゃ。疑問に襲われつつも、わたしは団長さんとともに森に足を踏み入れることにした。

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