第5話『馬車のなかで』
やっぱりと言うべきか、わたしの体は振り子にされたあと、馬車に投げ落とされた。本当にジャックは人間の扱い(特に女性)がわかっていない。突然、現れたわたしに対して、馬車のなかの視線が集中した。
辺りを見回すと、みんな若い女性ばかりだった。肌は北欧系のように白かったり、南米系のように褐色だったりする。髪色も金や赤で様々だった。彼女たちもわたしのように売られる運命なのだろうか。
馬車のなかには対面式の長椅子が設置されていて、そこに彼女たちは座らされている。みんなの足元に目を向けると、足かせの穴に鎖が通っていた。つまり逃げないために、重りが繋げられているのだ。
ジャックは慣れた手つきで、わたしにも足かせをつけはじめた。もちろん抵抗したのに、その太い指が足首を強く固定する。かせの穴に鎖が通されれば、もうその場から動くことはできなくなった。犯罪者のように手かせもつけられた。つまり、わたしの人生は、おしまい。
薄情者の夏希も馬車に乗ってきた。通訳としてなのか、ひとり鎖に繋がれていないくせにわたしのとなりに座りやがった。唯一、出入りできる後ろが閉ざされてしまうと、もはや、どこにも逃げ場はない。馬車が上下に揺れながら走り出す。
「大丈夫ですか、マキさん?」
「大丈夫なわけがあるか」
これからわたしは売られてしまう。もしかしたら、でっぷりと太った脂肪のかたまりの成金男に見下されて生きなくちゃならない。ここにいる彼女たちも同じ末路をたどるかもしれないのだ。
夏希はそれに対して何にも思わないのだろうか。わたしはイラッと来て、膝の上で拳を作る。
「あんたさ、何で同じ異世界人なのにこんなことするの? そうまでして、あんな“旦那様”に仕えて意味があるの?」
「ありますよ。同じ異世界人だからこそ、やりとげなければなりません。あなたにはわからないでしょうけどね」
言葉の意味がわからない。奴隷を売る手助けが、やりとげなければならないことなんて、本当に思っているのか。夏希の表情を見ても、真実なのか嘘なのか、まるでわからない。
「とにかく、あなたは大人しくしていてください」
大人しく、か。そんなの絶対に無理だ。わたしは怒りのあまり、手かせごと夏希の肩にぶつけた。
「いって……」
「うるさい。あんたの指図なんか受けない」
「これは指図ではありません。大人しくしておいたほうが安全だと言っているのです」
そうかもしれない。だけど、わたしは夏希の言葉を素直に受け入れられないでいた。