第4話『旦那様』
テントの中に入ると、ジャックはわたしを乱暴に地面の上に落とした。少しは慎重に扱ってくれればいいのに、加減を知らないらしい。
テントの中にはおっさんが3人。どこにも“旦那様”らしき人はいない。いるのは奴隷服にズボンをはいただけのみすぼらしい姿のおっさんたち。
どいつもこいつも何がおもしろいのか、ニヤニヤしている。無遠慮に人の体をじろじろ眺めてくるから、思っていることはおそらくろくなことではないのだろう。その視線が下に向けられているのに気がついた。地面に落とされたときに開いてしまった足を見ていたのだ。最悪。慌て閉じた。
立ち上がっておっさん3人と対峙する。何でこんな面倒な事態に陥ったのかは知らないけれど、抵抗するなら今しかない。夏希はわたしと3人の間に立つから、おそらく通訳の代わりをしてくれるのかもしれない。
ひげ面のいかついおっさんが夏希に向けて何かを話した。やっぱり、ジャックが使っていた言葉と同じで、わたしには聞き取れない。おっさんが話し終えてから、夏希はわたしに顔を向ける。
「“歓迎する。お前のような胸の大きい女は男受けが良く、価値が高い。できるだけ、愛想よく媚びるようにしろ”と言っています」
「胸の大きさ」は自信を持てるけど。
「嫌だって言ったら?」
夏希がなかなか通訳してくれないので「速く」と促した。通訳が終わると、いかついおっさんが近づいてきて、左胸を捕まれる。その指には一切の手加減がなくて痛い。逃げ出そうとするけれど、後ろから太い腕で羽交い締めにされる。ジャックがわたしを押さえつけているのだ。
「“ずいぶんと威勢がいいな。買い手のなかにはこういう強気な奴隷をいたぶり従わせるのが趣味なやつもいる。あんまり調子に乗るなら、中でもたちが悪いやつに売りつけてもいいんだぞ?”」
脅されている。でも、脅しに屈したくはない。まだまだ言ってやろうと口を開いたら、分厚い手が顔を覆ってきた。またまたジャックがわたしをはばんだのだ。
「んー!」
足をじたばたさせても、腕に爪を立てても全然、効果なし。
「“話は終わりだ”」
おっさんはまたニヤニヤしながら、わたしから離れていった。まだ話は終わっていない。言い足りないのに、何やら命令を受けたようなジャックは、わたしをテントから引きずり出す。
ようやく手が離されたときには、また荷物のように抱え上げられた。
「放せ!」
叫んでもジャックは聞いてくれない。次に行く場所は、言葉が通じなくても大体わかっていた。奴隷たちの末路は詰めこまれた馬車へと続くはずだ。