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槍とカチューシャ  作者: カーネーション


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第39話『楽しいこと』

 うめいたり、悪態のようなものをついたりしながら、倒された騎士たちが次々と起き上がっていく。夏希もフィナとのおしゃべりをやめて、「すみません」と謝りながら先輩たちに手を貸して回る。倒した人に手を貸すのは騎士のルールだったりするのかもしれない。


 体勢を戻した騎士たちの目線が、わたしやフィナに注がれているのがわかった。フィナに対しては顔を赤らめたり、視線が熱っぽかったり様々である。わたしにはなぜか、恐る恐る見てはそらすという感じだ。こそこそ内緒話までして、何だというのか。


 そんな不思議な様子を眺めていたら、団長さんが隣に立っていた。無言でこちらをにらんでくるのはちょっと怖い。わたしに用なんてないだろう。そう希望を抱きつつ少し離れてみると、すぐさま開いた距離を詰めてくる。訓練場のすみまで繰り返し、騎士たちの視線から離れると、とうとうわたしは諦めた。


「何か、ご用ですか?」


「……なぜ、来た?」


「え?」


「ここは危険だ」


「わかってます」夏希にも言われたし。


「わかっていない」


 団長さんはこれでもかというくらい眉間にシワを寄せる。かなり不機嫌らしい。


 それに、わたしの手首をひねるかのような勢いで掴んできた。本当に痛くて、「痛い」とはっきり伝えれば、意外にも力を抜いてくれる。


 しかし、「離して」と、わたしが手を引っこ抜こうとしても離れてはくれなかった。抵抗は諦めたけれど、団長さんに大人しくされっぱなしは嫌だ。


「何が言いたいんですか?」


 男ならはっきりと言ってみればいい。わたしは挑戦的な気持ちで次の言葉を待った。団長さんは確かに答えてくれた。でも、わたしの耳には「俺の女」としか聞き取れなかった。


 ――俺の女? はあ? なにそれという感じだ。まるで、団長さんのものみたいな言い方じゃないか。絶対に違う。あなたの女になったことは一瞬だってなかった。


「それ、違いますから! わたしはあなたの女ではありません!」


「俺の女だ」


「違います!」


「違わん」


「違う!」


 まただ。団長さんとの不毛なやり取りがはじまる。しかも、団長さんは不機嫌になるかと思いきや、眉の間が開いていく。微妙に口元が上がっているような気がしないでもない。


「団長さん、楽しんでます?」


 聞かれた本人は目を丸くして、片手で口元を覆うように確かめたようだった。そして、自分の笑顔に気づいたのか、「ああ、楽しいらしいな」と答えた。


「らしい? 自分のことなのに」


「楽しいと感じたのは久々だ」


 わたしには楽しさのない日々なんて考えられなかった。団長さんが責任のある仕事をしているためなのか、わたしよりずっと大人だからなのかわからないけれど、楽しさを感じることがないなんて、どんな生活しているのだろう。


 わたしのなかの世話を焼きたい気持ちがふつふつとわいてくる。


「いつもは楽しくないんですか?」


「騎士の仕事に楽しさなど必要ない」


 確かに団長さん、仕事は完璧にこなしそうだ。騎士の仕事は楽しさより、緊張感の方が強そうな気がする。それなら、「女遊びとかは?」と聞いてみた。男ならやりそう。


「しない。絶対にしない」


 何でそんなに強調してくるのだろう。


「しないんですか?」


「ああ、するわけがない」


 断言されると、これ以上は聞けない。団長さんの楽しさはいったいどこにあるのか。迷った挙げ句、「それじゃあ」と提案した。


 1つだけ確かなことがある。先ほど明らかになったばかりの団長さんが楽しいと思うことは。


「わたしと、お茶しませんか?」


 これは腐ってもナンパじゃない。ただ、団長さんにはいろんなものをもらっているし、それのお返しみたいなものだ。他意はない。今日、話してみて、そんなに嫌だと思うこともなかったし。


 団長さんはというと、ただただぎこちなくうなずいた。驚きすぎたのか、あれだけ離れなかった頑丈な手が力なく落ちていたのが可愛らしくて笑えた。

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