第3話『信じてくれ』
わたしはいつしか荷物のように抱えられて、ジャックの肩にかけられた。どうせ引きずるのが面倒になったのだろう。
まあ、さすがに、わたしも抵抗するのに疲れていたし、大人しく肩に引っかかっていた(階段を上がるときのガクガクする感じはあんまりよくなかったけれど)。
「マキさん、申し訳ありません」
そう言って、夏希もジャックとわたしの後についてくる。
「謝るぐらいなら、助けろ!」
「……申し訳ありません」
夏希は目線を落とす。そんな申し訳ない感じを出されても許してやらない。
階段を上がりきると黒い装飾がされた扉が行く手をはばんだ。たぶん、鉄でできている。重そうな扉でもジャックは片手を突きだして軽々と開けた。
扉の隙間から明かりが差してくる。完全に開いて、久しぶりの日差しに慣れるまで少し時間がかかる。どれだけの間、こんな牢屋で寝ていたのかは知らないけれど、ずいぶん長かったはずだ。
旦那様のところに行くというくらいだから、歩くのも大変な広々とした屋敷を想像していた。
でも、目の前にした“旦那様のお屋敷”は移動式のテントみたいな造りだった。周りは森で囲まれていて、テントの前には鉄格子付きの馬車と小型の馬車が止まっている。よく見てみると鉄格子の間にのぞいたのは、人間の顔、顔だ。
もしかして、これって……。わたしは夏希に顔を向けて、たずねてみることにした。できれば、否定してほしいとの願いをこめて。
「夏希くん。もしかして、わたし、売られるの?」
夏希は「申し訳ありません」とただただ謝った。謝るとは肯定しているということだ。冗談じゃない。足をばたつかせる。拳でジャックの固い背中を殴り付けるけれど、びくともしない。全然ダメ。
「マキさん。どうか、落ち着いて」
「落ち着いてなんていられるか!」
どこに売られるかなんてわかったものではない。もし、変な性癖のおっさんに買われたらどうするの? 折檻されたりしたら? お先真っ暗だ。ここが別の世界だろうが何だろうが生きている限り、わたしは抵抗する。
「マキさん」
目を伏せていたはずの夏希が視線を上げた。不思議なことにその時には自信満々というようにほほえんでいた。
「大丈夫です」
なぜ、「大丈夫」なんて無責任なことが言えるのか。わたしは売られて、誰かの奴隷になるしかないのだ。それなのに悔しいくらいに「大丈夫」が心に染みた。期待して裏切られたら落ちこむとわかっているのにどうして。
「どうして大丈夫なんて言えるの?」
「詳しくは言えませんが、僕を信じてください」
詐欺師も「信じてくれ」と言うだろう。
「人身売買に加担するような男は信じない」
自分だって奴隷の服を着ているくせに、助けるばかりか、“旦那様”の言いなりになっている。そんな男を目の前にして言えることはそれだけだ。