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槍とカチューシャ  作者: カーネーション


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第112話『大事な話』

 薄暗くなって、ろうそくの明かりが頼りとなる頃、使用人のひとりからお知らせを受けた。団長さんが帰宅したらしい。


 わたしはとっさに全身鏡を探した。直しようがない服装なのだけれど、一応しわがないように正す。ひとつにまとめた髪の毛もざっと見て、ほつれを直した。


 団長さんを出迎えようと、燭台を手にして部屋を出る。団長さんはすでに階段を上がってくるところだった。重たそうな体が疲労感を漂わせている。早く上着を脱がせて、くつろがせてあげたい。


「団長さん、お帰りなさい」


「ああ、ただいま帰った」


 とはいっても団長さんは足を止めず、わたしの腰を抱え上げた。


「や、やめてください」


 人が見ているし(特に執事が)、恥ずかしくて肩を押して離れようとするけれど、びくともしない。団長さんはそのまま歩きだす。わたしはバランスが取れずに、団長さんの太い首に腕を回すしかなくなった。不可抗力なのに耳元で笑う気配を感じる。誰のせいだ。


 まるで荷物のように抱えられたまま、団長さんの部屋へと連れこまれた。強引に抱き上げたくせに、ソファーに下ろすときは慎重に扱う。しかも、未婚の女性の扱いとして、ちゃんと部屋の扉を開いたままにしてくれている。その気づかいが嬉しい。


 見上げるようにして団長さんに笑いかけると、影が差した。わたしの顔の横に手をついて、ソファーに体重を預けてくる。そんな時間はかからずに、頬にあたたかくやわらかい感触が降ってきた。


「アイミ」


 胸焼けしそうな甘い声だ。わたしもその声に応えたくて、「団長さん」と呼ぶ。


 この状態で脱がせと言うので、騎士団の上着に手をかけた。熱い視線を感じながら、上着を肩から外す。脱がした上着をソファーの背もたれにかけてから、また見上げた。団長さんの今の状態を見て、もう胸が高鳴りすぎておかしくなりそうだ。


 シャツだけのラフな格好となった団長さんは、太い首もとがのぞいて色っぽい。額には汗がうっすらと浮かんでいるし。わたしは指で汗を拭ってあげた。好きな人の汗も輝いて見えるのだから、恋とは恐ろしい。じっと見上げていると、団長さんの視線がそらされた。顔までも別方向に向けられてしまう。


「まずいな」


「まずい?」


「いや、こちらの話だ。それより、真面目な話がある」


 団長さんは真剣な顔でわたしの腕を取って引いてくれる。今さらながら、自分がソファーに仰向けの体勢になっていたことに気づいた。


 慌てて起き上がり、スカートの裾を撫でつける。団長さんは反対側のソファに腰をかける。ふたりで向かい合うかたちになると、わたしが「話とは?」と促した。


「ああ、明日、お前に連れていきたいところがある」


「連れていきたいところ?」


「どうしてもお、お前に会わせたい人がいる」


 団長さんは詰まりぎみになりながら、わたしに大事な言葉を伝えてくれた。「どうしても会わせたい人」なんて。


「会わせたい人って、団長さんのご両親?」


「いや、両親には後できちんと会わせる。それよりも前に、どうしてもお前に会わせたい」


 両親ではない人? ぱっと頭に浮かんだ人はいない。


「誰なんですか?」


「お前となら話が合うかもしれない」


 なぜか、団長さんは答えを教えてくれない。含み笑いが憎たらしい。たずねてみても、「秘密だ」の一点張りだ。どうしても教えてくれない団長さんに意地悪をしたくなる。


「へえ、秘密ですか。でも、わたしは秘密とか作りたくないんで、言いますね。そろそろガレーナに戻ろうと思います」


 もっとちゃんと言葉を選んで伝えたかったのに勢いのままになってしまう。


「戻る、のか?」


 何でそんなに固まってまで驚くのだろう。一度はガレーナに戻らないといけないことは、団長さんにだってわかるはずだ。肩を落として落ちこんでいるような姿を見て、意地悪をしたいという気持ちがしぼんできた。


「ほら、きちんとお世話になったのだから、一度はガレーナに戻って挨拶をしないと」


「そ、そういう意味か」


 なぜか、安心したように長く深い息を吐く団長さんに首を傾げる。「いや、何でもない」と言われた。どうやら詮索はされたくないらしい。


「わかった、行ってこい。馬車を出してやろう」


 馬車を出すって。確かにお屋敷には小型の馬車があるけれど、わたしのために出すって。気持ちは嬉しいけれど、恐れ多かった。


「団長さん、(お屋敷でのことも含めて)わたしを甘やかしてどうすんですか? あなたの妻になったとき、何にもできない女になりますよ」


 ソファーに横たわって「おかえり〜」なんて言うような妻になりそうだ。好きなクッキーを食べまくって体重が増えるかもしれない。


「今から馬車に乗ることも慣れておいたほうがいいと思うが」


 それは一理あった。団長の妻として馬車に不慣れだと困る。これから、馬車を使う機会も増えるだろうし。


 団長さんに言いくるめられたような気がしないでもない。だけど、わたしはその提案に「お願いします」と頭を下げた。団長さんは満足げに「よし」とわたしの頭を優しく叩いた。

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