僕はきっと・・・
(僕は誰なんだろう?)
時々そんな事を考えていた。
別に、嫌なことがあったわけじゃない。
毎日楽しいし、いい友達もたくさんいる。
けれど、フッと自分の存在意義がわからなくなることがあった。
そんな時、僕のまえに彼女が現れた。
とても明るく、元気な転校生の女の子。
それが、彼女に対する第一印象。
そして彼女はその通りの人間だった。
いつもニコニコと笑っていて、彼女の周りには、いつも誰かの笑顔があった。
「はじめまして。これからよろしくね!」
僕のとなりの席に座った彼女の第一声。
「君は、誰?」
僕はそう言った。
「さっきの自己紹介聞いてなかったの?」
彼女は、唐突な質問に気を悪くした様子もなく、キョトンとしてた。
「聞いてたよ。僕が言っているのはそうゆうことじゃなくてさ。」
「アハハッ!キミ、面白いね!」
「そうかな?」
彼女は、その質問には答えずにこう言った。
「私は、私だよ。他の誰でもない。」
その回答にもなっていないような、一見すると、適当に返されたような、そんな彼女の言葉は不思議と僕の心に空いた穴を埋めてくれた。
それから、僕たちは、よく一緒にいるようになった。
遊ぶときも、勉強をするときも、怒られるときまで一緒。
周りに付き合っているんじゃないかと疑われるぐらい。
彼女に出会って、僕は変われたような気がする。
よくわからないけど、少しだけ前を向けるようになった。
けれど彼女はいなくなった。
僕の目の前で車に跳ねられた。
何故?
何故、彼女が?
みんなに好かれ、責任感も強く、いつも周りを照らす太陽のような存在。
そんな彼女が何故?
いなくなるべき人間は他にもっといるはずだ。
いや。
そもそも、何故あのとき僕の体は動かなかった?
何故助けにいかなかった?
すぐそばにいたのに。
彼女が危険な目に遭っていたのに。
僕はなんのためにあの場所にいた?
僕はなんで、ここにいる?
(また昔の自分に、逆戻りだ。)
その日から僕は、学校に行かなくなった。
外にもでなくなった。
所謂、「引きこもり」というやつだ。
友だちや先生、当然親も心配してくれた。
けれど、僕には届かない。
埋まったはずの穴がまた開いたようだった。
そんな時、
「私は、私だよ。」
えっ?
「他の誰でもない。」
彼女の声が聞こえた。
いや、正確には、彼女の声が聞こえた気がした。
そう、彼女はもういない。
けれど、そんな僕の空耳かも知れないような、幻のような声は、確かに形をもって僕の心に空いた穴を再び埋めてくれた。
そうか。生きてる意味なんて関係ない。
「僕は僕だ。」
彼女の言葉と同じ言葉を発したとき、彼女が背中を押してくれたような気がした。
「私は、大丈夫だから。」
そういっているような気がした。
それから数年、僕は大人になった。
今日は、彼女の命日だ。
彼女のお墓に行く。
自分の存在意義
それを見つけたとき、それを、彼女へのお供え物にしようと決めている。
今は、まだ線香だけだ。
けれど、それを見つけたとき、僕はきっと、心から彼女の言葉を口にできる気がする。
「僕は僕だ。他の誰でもない。」
体は、彼女のお墓へ。
心は、未来へ。
僕は、止めていた足をまた動かし始めた。