黒とクロの流星弾
『涙色の世界だっていつかは、』
「ダーメだこりゃ。らしくねーぜ」
闇しかない空に浮かび上がる、ファイアレッドの魔法陣を吹き消す。『ロウの涙』の属性を持たせた魔法だからこそ成せる技だ。いや技でもなんでもないけど。
「……またそんな魔法か」
振り返ると、変なのがいた。
「よぉ。元気してたー?」
「そう言う貴様は魔砲使いなどと抜かしてやがるが、よく殺られずに生きてこれたな……レリーユーズ」
「君こそ何人もゼツボーさせて苦しくない訳?えーと……シーズー?」
「シーズグリオンだ!!」
女の子にしてはやや低めの声で彼女は怒鳴る。つり目が更につり上がっていて、痛くないのかなーと心配になった。
地味な学生服の上に黒いマント。世間では銀河の様だと絶賛される髪も、俺氏にかかれば白髪混じりな紺色の短髪にしか見えない。
お揃いにしたかったのか、俺氏と逆の目を髪で隠していた。よく見るとブーツまで一緒だ。
「はいはい。ツンデレシオンちゃんは絶賛世界構築中の俺氏に何の用かなぁ?」
「ツンデレ……?意味が分からんが、まぁいい。良い事を教えてやろう」
「知ってる。……消したんだろ、俺氏の『諦めた花々の世界』を」
愉悦に歪められた顔を睨み、指先に念を込める。赤黒いエネルギーが小さく渦巻いた。
「その通り。怠惰に取り憑かれた貴様の構築した世界なんて、皆クズ同然だ。貴様自身も、あれを滅ぼそうとしてたんだろう?私が消してやっただけ、有難いと思わないか?」
シオンが懐から銀色の銃を取り出す。確か名前は……デザートイーグル、だっけ。
「思わないねぇ、俺氏は自分の事は自分で決めたいし、自分の事は自分で終わらせたいのさぁ。
……例え、自分の命でも」
「彗星」
蒼い銃弾が閃き、俺氏の放った刃(正式名は『指銃術式・闇顎刃(アンガクハ)』。天井破壊も楽々です)を打ち消す。2つの衝撃は散り散りになり、闇の中を一瞬だけ照らすとすぐに消えた。
「はっ、なんだかんだ言って自殺希望者じゃないか。鬱病を引きずり過ぎだぞ、__」
「案外昔とは違うもんさ。つーか、その攻撃的なとこも変わってないね。__ちゃん」
……お互いの真名は、奇妙にも同じだった。海に関連していて、幸せになって欲しいと言う心にもない浅はかな願いの下付けられた、
……自己紹介が面倒な名前。
歩んできた運命も一緒、趣味も一緒、なのにシオンの目は憎しみしか映していない。
俺氏の目は、ただ偏り過ぎた愛しか映していないけれど。
……恐らく、彼女は俺氏の闇と因果が生み出したシャドー。格好良く言うなら、運命が創りし双子の片割れ。
光が消えれば、影も消えてしまうだろう。
それでも互いを憎み、共存し、競争する。我ながら皮肉だ。
「ねぇハニー、いい加減諦めない?」
「黙ってろ、口を開けば薄っぺらい事ばかり言いやがって」
刃と魔弾、雑言の撃ち合いは続く。全てを閉じ込める様なこの闇も、きっと永遠に続く。
「考えが変わったのさ。ちょっとでも、君の事愛してあげないとってね」
__そう、考えを改めない限りは。
「……何を、言うか」
「やっぱり2人一緒が良いと思うんだよね。ほら、君の魔弾綺麗だし。見てて飽きないじゃん?」
「黙れ……そんな事を言われて嬉しい訳ないだろうが」
わざと離していた距離を詰め、銃を奪った。山猫を嘗めるでないぞ、人間め。
「ここの闇は強くて光がまともに見えねーんだ。君んとこも眩しくて、自分の流星群もなーんも見えねーだろ?」
「……は?」
「だから一緒にいた方がぜってー良いって!流星群見たいし!むちゃくちゃ見たいし!なぁいいだろ?頼むってー……」
とりあえず思った事を言ってみた。シオンはぽかんとして、真っ白に燃え尽きそうになっている。
……のも束の間、いきなり笑い転げ出した。
「何だってんだ!!笑うなんてひでー!!」
「はっ、ははははは!!相変わらず貴様は妙な事ばかり言うなぁ!!その頭だけは称賛に値するぞ!!ははははは!!」
「ぜってー許さねー」
不満を訴えると、いつもの暗い怒り顔に戻った。
「……だが、回りくどい言い方をする奴は死ぬほど嫌いだ。何をして欲しいのかはっきり言え。クズめ」
「あー、分かった。じゃあ一緒に暮らせ。で、俺氏が好きな子にもっと好かれる為に手伝え!……これでいい?」
指さしてズバッと言ってやった。
「………………っ」
シオンは途端に赤面し出し、俺氏から顔を背ける。
「どした?」
「そんなつまらん事で……わ、私がっ、貴様の側にいなければならんのか」
「うん」
シオンの真似をしたみたいにぽかーんとしていると、銃を奪われた。
「……馬鹿馬鹿しい、何でそんな事のために……」
「いや、だから……」
「嫌とは言ってねぇだろうが……!!」
向き直ってから、彼女は小声でそう言った。やはりツンデレさんだったか。
「ありがとねー、じゃあ目玉焼き食うー?」
「バイオテロに人を巻き込むなクズが!!」
「えー……」
繋がりを取り戻しても、まだ暗闇まみれの夜は明けない。
けれどいつか夜が明けた時には、無数の流星が空を埋め尽くすハズだ。
その日まで、目の前の彼女をいじり倒してやろう……と俺氏はこっそり誓ったのだった。