桜の季節の紅葉の葉
読みやすくなるように考えながら書きました。
高校の入学式、1人1人名前が呼ばれていく。その中で俺、十季 紅葉も返事をする。
「十季 紅葉。(トオキ コウヨウ)」
俺は大き過ぎず、小さ過ぎず普通の返事をして席を立った。
それからしばらくして最後のクラスで
「桜岡 澪。(サクラオカ ミオ)」
さっきまでの眠気が、一気に吹き飛ぶような凛とした声で返事をした女子生徒がいた。
振り返ってみると、すっきりとした美人顔の少し背の高い女子が目についた。
入学式ではそれが一番印象に残っていた。
それから一年の月日は流れ2年生になり、今に至るまでの間一度も桜岡と話すことは愚か、見ることもできなかった。
どうやら彼女は入学式の後、すぐに引きこもりになったらしい。
何か原因で引きこもったのか分からない。もう学校を辞めたと言われたこともあった。
高校ではバイトを始めるようになった。
帰りが遅くなった時は近所のスーパーで割引きの弁当を買って済ますことが多い。
今日もそうしようとスーパーへ向かう途中、
見てしまったのだ。
辞めたと言われていたあの桜岡が公園でガラの悪そうな高校生に囲まれている所を。
遠目から見ても明らかに桜岡は怖がっている様だった。
「桜岡!」
そう叫ぶと、3人くらいに囲まれていた桜岡の手を掴んで俺は全力で走った。自分で何をやっているのか理解不能だ。
公園から離れた住宅街で
「離して!」
急に掴んでいた手を振りほどかれた。
「あなた、どっかの小さな会社の御曹司とかなんでしょ!私に恩売っても何にもならないわよ。」
「違う!
俺はお前と同じ学校の十季紅葉だ。」
「…は?じゃあ、なんで私を助けたのよ!」
「困ってそうだからだ。それにお前じゃなくても多分助けていた。」
嘘だ。面倒事には関わりたく無い俺は、絶対見て見ぬふりをして通り過ぎるだろう。
どんな奴だろうと。
「訳わからない。そんなくだらない正義感。私と十季とでは住む世界が違うからだわ。
あ、あと私の事をお前って呼ぶのやめなさい。」
そう言い残して桜岡は行ってしまった。
くだらない正義感か…確かに正論だな。
いや、俺に至っては嘘の正義感だろうな。
次の日、俺はまた桜岡と会っていた。いや、この場合桜岡に昨日と同じ公園で待ち伏せされたと言う方が正しい。
「なんだ?」
「昨日はありがとう。あと色々失礼な事言ってごめん。」
桜岡は昨日とはうって変わって態度が違う。
「昨日、付き合ってた人にいきなりキスされそうになって、それで拒んだら仲間呼ばれて…」
「そ、そうか。それは怖かっただろうな。」
これ以上何も言葉が浮かばない。
やがて、桜岡は急にうつむいて泣き出してしまった。
「え、おい、どうした?
大丈夫か?気分が悪くなったのか?」
慌ててしゃがみ、様子を伺うと
「違…う…の…。
心配してくれる人初めてで、嬉しくて…」
ベンチへ二人で座り、俺はただひたすらに無言で桜岡が泣き止むのを待っていた。
こんな時に優しく慰める事が出来たら…
そんな考えが痛いほど頭によぎった。
「ありがとう。もう、落ち着いたから大丈夫…」
目を赤く腫らして、涙を拭きながら桜岡は言ってきた。
「なんで、あの時俺をどっかの御曹司とかと間違えたんだ?」
桜岡はうつむいて答えようとしないから
「別に無理に答えなくていいんだ。悪かったな。忘れてくれ。」
「私の父が洋服のブランドの会社を経営してるの。」
「桜岡は社長令嬢って事か。」
「うん、そう言う言い方もあるね。私の事を知ってる人はみんな父の会社が目当てで近づく人がほとんどだから、あなたもその1人だと思ってた。
…でも、その父は病気で亡くなってしまったの。」
「そうか…」
「本来ならね、私が会社を受け継ぐことになっていたのだけど、高校生だからと言う理由で義母が受け継ぐことになった。
そして、義母は私を裏切った。」
「え…?」
桜岡はそれ以上は何も話すことなく、
ありがとうと言い残して去っていった。
さびしそうに、作ったような笑顔で。
俺は彼女を励ますことも、共感し涙を流してやることも出来ず、黙って話を聞くことしか出来なかった。ただ彼女の寂しそうな背中を無言で見送る事しか出来ずにいた。
やがて、彼女は学校を辞めた。
俺はあの時、彼女を励ましてやればこんな結果にならずに済んだと激しく後悔した。
初投稿です。
平凡な男子高校生の趣味です。
1人でも読んでくれる事を期待しています。