叫喚!不意打ち攻撃
槍田さんは笑顔で言った。
「友達なんだよねっ!?」
鬼切さんと男子達とツインテールの子の視線が刺さる。
「…うん」
もうどうにでもなれと力無く頷いた。
「えっマジで」
ニヤリと冬村が腹の立つ顔を歪ませた。
「お前こんなムキムキなのとダチなのかよ」
「尾野原さん…」
鬼切さんが、私に助けてとばかりに視線を送ってきた。
「こいつ昔からこんなだった?」
「知るか」
「は? 知らねぇの?」
「知らねーよ」
相変わらずニヤニヤしながら聞いてくる、そもそもこいつは中学生にもなって、女の子をからかって何が楽しんだろう。
「何キレてんのお前」
「いや、キレてねえし」
冬村が馬鹿にしたように見てくる。
別に鬼切さんが馬鹿にされてたから、イライラしてるんじゃない。
この冬村とかいう奴の、自分が一番偉いといわんばかりの表情、纏わり付くような声、爬虫類に似た目、全てが生理的に受け付けない。
「お前こそ人からかって楽しいの?」
「は? 何言ってんのお前」
「あ!? 話ずらすなや!」
「ふ…二人とも…」
私がメンチを切りながら冬村に近づこうとすると、鬼切さんが私の肩を押さえた。
「鬼切さん、大丈夫。すぐ終わらせるから」
「いや、そういうことじゃなくて」
「何なんだよお前、やんのか?」
冬村がまだニヤニヤして聞いてくる。
「やってやろうじゃねぇか…」
「な…何この展開」
鬼切さんが慌てながら言った。
多分周りにいる男子達と女子二人もそう思っているだろう。
掃除時間が終わり、解散してから私と鬼切さんと冬村は体育館裏へ行った。
「…ここは正々堂々カバディで勝負や」
「おぅ、いいじゃっ……って、カバディ!?」
「なぜカバディ…」
私がカバディと言うと二人とも変なリアクションをした。
もちろんカバディで戦う気はない、相手を慌てさせるための嘘だ。
「カバディって…」
「スキあり!!」
「あがっ」
冬村が何か言いかけようとしたところで手刀を食らわした。
ドサっと冬村は地面に倒れた。
「うぐぅ…」
「おとといきやがれ…よし、終わったから帰ろう」
「な、何か色々すごいね尾野原さん」
「鬼切さんの方が凄いよ。あんなに言われても平気なんて」
「いや…言われなれてるから…」
鬼切さんは俯きがちに言った。
顔を見ると哀しそうな表情をしていた。
シリアスな雰囲気だけど、体のせいでむしろシュールな雰囲気になる。
つい何時間か前に知り合ったばっかりだけど、鬼切さんは図体の割にはおとなしい性格をしてる。
こんなに筋肉がついているのにもったいない。
私がもしこんな体だったらアメリカにでも渡って、金網デスマッチでボクサー被れの輩を倒しまくるだろう…
「言われ慣れてる?」
「え…あぁうん」
「じゃあ、いままでからかわれても何も言わなかったの?」
「…うん」
「そっか…」
鬼切さんは暗い声でこたえた。
からかわれて言い返せないなら、殴ったり叩いたりして脅せばいいだろう。
この筋肉を使わないのは才能の持ち腐れ…いや筋肉の持ち腐れだ。
「軟弱者め!!」
「!?」
私が目を見開いて言うと、鬼切さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「それだけの肉体があって、なんで対抗しねえんでい!!」
「尾野原さん…?」
「黙れい! ワシが鍛えたるわっ!!」
私はつい勢いで、鬼切さんのくるぶしに手刀をくらわしてしまった。
「ぐあぁぁ…」
「その程度でやられるようじゃ、この学校のトップは狙えんぞ…」
思ったよりもダメージが大きかったようで鬼切さんがうずくまり唸った。
勢いに任せて言ったけど、学校のトップって何だろう。
いまさら自分の言ったことが恥ずかしくなってきた。
尚もうずくまっている鬼切さんに話しかようとすると、いきなり不敵に笑いながら鬼切さんが起き上がった。
さっきまでの気弱な雰囲気は一切なくなり、山の中のヒグマのような恐ろしいオーラを放っている。
「……学校のトップ? いいじゃない…なってやんよおぉぉぉお!!」
「え?…あ、いや…そ、その意気だ! 鬼切さん」
予想外のことを言い放ったので、少し怯んだがすぐ気を取り直した。
「じゃあ…さっそく私とカバディ勝負だコラ!!」
「おっしゃあああ、バッチ来い!」
かくして鬼切さんを鍛える作戦が始まったのであった。