超絶入学式
4月8日
待ちに待った中学校の入学式だ。
前日は興奮して2時間ぐらいしか眠れなかった。
「死ぬ…眠い…」
私は青白い顔をしながら学校へ向かっていた。
前にはこれから一緒のクラスになる可能性がある人達が歩いている。
嫌な人と一緒のクラスになりたくないなあと思った瞬間、地面がぐらりと揺れた。
「あべし!」
私はバランスを崩して転んでしまった。ついでに変な声も出してしまった。
「大丈夫ですか!」
上から女の子の声が聞こえた。
「あ、大丈夫でっ…」
私は振り返りながら相手を見て固まってしまった。
「どこか怪我はないですか?」
声は可愛い女の子が出しそうな声だった。
「あら、顔色が悪いですよ!」
顔も物凄く可愛い、きっとモテるだろう。
「保健室行きます?」
だが、体が有り得ないほど、ムッキムッキだった。
ボディビルダーのような屈強な筋肉をまとっている。
「いやーハッハッハ、大丈夫ですよ」
私は急いで立ち上がって笑顔で答えた。
「そうですか?」
「ええ、ちょっとバランス崩しただけです。じゃ、さよなら!」
そう言って走って学校へ向かった。
後ろでムキムキな子が何か言っていたけど、私の耳には聞こえなかった。
私が混乱してたからだ。
あんなに可愛い声なのに、可愛い顔をしてるのに。
「なんであんなムッキムキなんだ!」
私は思わず叫んでしまった。
入学式の前からこんな変な出会いがあるとは思わなかった。
周りの人達がなんだなんだ?とこちらを見てるが、お構いなしに学校へと走った。
学校についたらいくらか落ち着いた。きっと寝不足で幻覚を見たんだろう。
一年生の階に行くと、皆自分の教室を探してうろうろしていた。
組分けの表は入学説明会の時に配られている。
私は一年二組だ。
「二組…二組…あ、あった」
教室に行こうとすると、またぐらっと床が揺れた。
驚いてきょろきょろするとさっきの筋肉少女が廊下を歩いていた。
歩くたびに床が揺れている、周りの生徒は大きく口を開けて呆然と2メートル近くある少女を見上げていた。
「うおぅふ!?」
あれは幻覚じゃなかったのか!と心の中で思った。
揺れをかんじて教室に入っている子達も廊下にぞろぞろとでてきた。
混みそうな予感がして、そそくさと教室へ入った。
あんな子と一緒のクラスにはなりたくないな…
急にガラリとドアの開く音が聞こえた。
入口付近で話してる男子達が「ひぃっ」と言い、顔を青くした。
教室の中にいる全員がそちらを見て固まる。
「ま、まさか」
ぎぎぎと首をドアの方向へ向かせると…筋肉少女が不思議そうな顔で青くなってる男子を見下ろしていた。
「マジかYO…」
私は小さくつぶやいた。
「あっ、あなたは…さっきの」
つぶやいた瞬間筋肉少女がこっちを向いた。どんだけ地獄耳なんだ。
「なんだか更に顔色が悪いようですが」
教室の床を揺らしながら近づいてきた。
「大丈夫です、大丈夫ですから」
危機を感じて私は身構えた。
「なんでカバディの構えを…」
彼女は普通に近づいてきているだけだけど、私の本能が逃げろと告げている。
多分彼女の周りに見えるなんかオーラっぽいもののせいだ。
「マジで超調子いいですから」
「そうですか」
彼女が一歩近づくとつい後ろへ下がってしまった。
なぜか他のクラスの子達が野次馬しにきている。
皆神妙な顔をして私達を見ていた。
「あのう私、鬼切葵っていいます」
「え…」
いきなり名前を言ってきた。ここは私の名前も言った方が…
「おーい、皆教室戻れー」
「!」
先生らしき人の声が聞こえた。
野次馬に来ていた他のクラスの子達は、自分たちの教室へぞろぞろと帰っていく。
「ほらさっさと行け! まったくなんなんだよ………へっ?」
先生は筋肉少女を見て間抜けな声を出した。
「なんで部外者が?!」
「部外者じゃないですよ先生」
「ゑっ、あ、そう?」
「生徒です」
「ソ…そうか、すまん」
先生はさっきの私のように混乱しているようだった。
それにしても部外者は酷いと思う、まあ私も最初は何が何だかわからなかったから何も言えないけど。
「まあ、とりあえず出席番号順に座れよ」
教室の後ろの方にいたクラスメイト達がぎこちない動きで自分の席へ座っていく。
私はたしか5番だったから廊下側の席だ。
5番目の席に座ると筋肉…じゃなくて鬼切さんが前の席に座ろうとしていた。
まさか、まさかそんな、同じクラスなだけでもアレなのにそんな。
鬼切さんが椅子に座った途端にみしりと椅子からおかしな音がした。
「よろしくね、えーと…」
なん
「名前教えてもらってもいいかな…?」
なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
前のっ、席だとおおおおおおおおおおおおああ!!
「尾野原紗江です…」
私の普通な中学校生活が音を立てて崩れ落ちる気がした。