0,序章
たった今、午前〇時を回ったところだ。夜の町。
町、と言っても小さなもので、この時間になるともう、辺りは静まり返っている。
ある家の屋根の上に、二つの人影があった。男と女だ。二人とも若く、まだ二十代前半といったところだろう。
女の方が、ウエストポーチから何か小型の機械を取り出して、屋根に取り付けた。……と、数分後、すぐに取り外して、またポーチに仕舞った。それが済むと二人は屋根から飛び降りた。が、物音一つ立てず、軽やかに着地した。
「何してるの?」
「!?」
幼い声に二人はかなり驚いたようだ。
「こっち」
今二人がいた家の隣の家。その窓から幼い女の子がこちらを不思議そうに見ていた。
「あちゃあ……起こしちゃった?」
女が片手を頭に当てて言った。
「ううん。ずっと起きてたの」
「そうなの。……えーと、アタシたちはね、『BAKU』だよ」
「バク?」
「そ。動物で『獏』って聞いたことない?」
「えーと、夢を食べちゃう?」
「そうそう。アタシたちは夢を扱う仕事してるの」
「食べるの?」
「食べない食べない。……うーん、簡単に言うと」
「湧奈、そろそろ次の場所行かないと……」
男が言った。
「え、あっ、やばっ!」
「あっ、待って」
「ゴメン、あとはパパかママに聞いてねっ。きっと知ってるはずだからっ!」
そう言うと、二人は暗闇に消えていった。