表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

8,真実

 彼は電話を受けた。

「もしもし」

『もしもし、私』

「文佳か。捕まったって聞いたけど、電話なんてかけられんのか?」

それには答えず、文佳は続ける。

『私、もうすぐ死刑なんだ』

しかし、その声はとても落ち着いていた。

「そうか……」

男は不気味な笑みを浮かべた。

『……あのさ、私の実家に睡眠薬あったよね?』

「?」

『お父さんの遺品っていうと、あれが一番に思い浮かぶの』

「……」

『最期はそれ一気に飲んで死んだ方がいいって言ったら、許してもらえてね。でも、お母さんに探してもらったら、ないって言うの。あの睡眠薬じゃなきゃ意味ないのに、なく しちゃったんだって。だから、結局絞首刑』

「……それは残念だな。でも、遺品はなくなってねえよ」

『え?』

男はそのまま立ち上がり、側にある机の引き出しの奧に手を突っ込みながら、続ける。

「なくなったのは、お前の父さんのやつじゃねえ」

『何言ってるの?』

「お前の父さんの使ってたのは、俺が持ってる」

男はようやくそれを見つけ、手に取る。

『!?……どういうこと?』

「お前だってBAKUの社員を殺したあと、ナイフは部屋に持ち帰ったろ?同じさ」

『ってことはアンタがお父さんを……』

「ああ、だいぶ飲ませてやったからな。よく寝られただろ?」

『許さない!』

「しかし、お前はすぐ死刑。死刑になるやつの話なんて誰も聞きやしないと思うけどな」

『……』

「じゃあな」

男が通話を切ろうとした、次の瞬間、扉が破られた。

「!?」

「准太、お前も終わりだと思うけどな」

悟が言った。

「くそっ!ハメやがったな!?」


 そう、これは悟の作戦だった。前の日、湧奈たちから話を聞き、睡眠薬を調べたが、彼の指紋は見つからなかった。しかし、それを使っていたはずの被害者の指紋もないことが分かった。すり替えられていたと考えた悟は、文佳にそのことを話し、半信半疑の彼女に電話をかけさせたのだった。


 准太は部屋の奥へと逃げた。

「無駄だ!行くぞ!」

仲間たちと共に、悟はそれを追う。と、突然准太が襲いかかってきた。

「……っ!」

思わず身をひいた悟の頬を血が流れる。

「通せよ」

准太は両手にナイフを持っていた。

「通せるわけねえだろ。お前、どれだけの人泣かせたと思ってんだ!」

「知るかよ!」

再び准太が攻撃してきた。悟はそれをかわす。

が、一撃が腕を掠めた。

「ぐっ……!」

「おら、どけよっ!」

准太が、一歩踏み込んだ。しかし、悟しか見えていなかったようで、他の警官に気がつかず、回り込まれて取り押さえられた。

「くそっ!放せっ!」

「終わったな……」

悟が負傷した腕をもう片方の手で押さえながら、呟いた。


 BAKUの社員代表として、警察署に来た湧奈たちは、准太と対面した。文佳と、彼女の母親もいた。悟も准太の隣についている。

「結局、みんな、お前の計画だったってことか?」

「……」

悟の問いに、准太は答えない。

「文佳の父さんをお前が殺し、それをBAKUによるものだと文佳に思わせる。そして自分は社内見学に行き、BAKUの情報を文佳に送り、BAKU社員を、伸羅を、殺させた」

「……」

「社内見学の時の、他のメンバーは」

「あいつらは関係ねえ」

准太が口を開いた。

「……お前は、何でBAKUを恨んでるんだ?」

「BAKUに入れなかったから」

「え……それだけ……?」

湧奈が言った。

「あの後俺は何をやってもだめだった。住むところはあった。だけど、食事する金もなかった。……そんな時に、文佳会った」

「私を、殺人の道具として、使った……!?」

「ふざけんなよ……!」

湧奈は強く拳を握りしめた。准太を睨みつける。

「俺はもう満足だ。死刑で構わない」

「開き直んな!」

「うるせえ女だな」

湧奈は、我慢の限界だった。

「こっ……!」

「止めろ」

宏忠が押さえた。が、湧奈は振り解いて、准太に向かっていく。

「待てっ、だめだ!」

宏忠以外の人間は湧奈の気迫に凍りついて動けない。湧奈は強く握った拳で殴りかかった。

「会社のためでもあるんだ!」

湧奈の手が止まる。宏忠は続けた。

「君が背負っているものは、君が思っている以上に大きいんだ。君の拳は、BAKUの拳だ。それを使ったら、マスコミは何て報道すると思う!?」

湧奈は殴りかかるそのモーションのまま、答える。

「『BAKUの社員が、暴力を振るった……』」

「そういうことだ」

「でもっ、それでもっ……!」

彼女はその手を握りしめたまま言う。

「駄目だ。君のためにもよくない」

「ぐっ……あっ!」

不意に、湧奈が手を開き、その場に崩れ落ちた。

「どうしたのっ!?」

明里が声をかけると、湧奈は泣き出した。

「『恨むな』って、伸羅がっ!」

「えっ?」

「そうだな」

宏忠が納得したように頷いた。

「え、何、どういう……?」

「北郷君が笠石さんに遺した言葉、湧奈さんに『自分を恨むな』って意味で言っただけじゃなくて」

「『人を恨むな』って、もっと広い意味だったんだ……」

湧奈は泣きながら言った。

「分かった……伸羅、分かったよ……」

 数分後、湧奈は立ち上がって、准太を見て言った。

「死なせなんかしない。罪は生きてちゃんと償ってもらう」

「ちっ……!」

准太は舌打ちしたが、それ以上何も言わなかった。

「私も……」

文佳だった。

「うん。伸羅の分までちゃんと生きて償ってもらうよ。悟!しっかりやってよ!」

湧奈は涙を手で拭いながら言った。

「おう、まかせろ!」

悟もそれに強く応えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価・感想はこちらから。最新話下部にフォームがございます。
読了後の評価にご協力をお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ