足に従う散歩
学校に向かっている。
窓の外は変わらない景色だ。
いつもの様に単調な色。
高校に上がってから、電車登校になった。
最初こそワクワクした気持ちもあったが、慣れてくると苦痛以外の何物でもない。
高校の最寄り駅に到着したらしく、大勢の同じ制服を着た生徒が降りて行く。
ホームに溢れる人。
人。人。人。
それはまるで洪水のように、人を飲み込んでは巨大化してゆく。
憂鬱だ。
マッスルメモリーの力のみで立ち上がる。
楽しかった頃に獲得した習慣。
それをフル活用し、学校への道を辿る。
だが今日は何故だか、足が向かわなかった。
学校が嫌いな訳では無い。なのに何故か足が回れ右をして、好きな所へ行こうと誘ってくる。
まるで目的地があるかのように。重力の方向がそちらへ少し傾いたかのように感じる。
こうなってしまえば学校へ向かうことは不可能だ。
足が反乱を起こしたとなれば、従う他ない。
足が反乱を起こしたのに、どうして学校へ行けと言うのだろう。
なので足に従う事にした。
足はまず、同じ制服から隠れることを選んだ。
私は動悸が酷くなってきた。
足は隠れる場所をしらなかったので、 諦めて、人通りの少ないであろう道に入って散歩することを選んだ。
私は先生に連絡するべきかを悩んだ。
学校はたいして問題ではないものだと思い始めた。
第一連絡したところで何といえばいいのだろう?
足は脳みそと仲良くするする事を選んだ。
足が運び、脳が報酬を出すのだ。
だが大半は横領されていた。 この私に。
祭り囃子が聞こえてきたので、そちらに向かおうと言った。 足は賛成した。
囃子の近くまで来た。
どうやらお祭り男か何かが練習していた音だったらしく、建物の中から聞こえた。 足は深く考えなかったが、脳みそは落胆した。
足は横断歩道を待とうか悩んだ末、横断歩道が無い方向に向いた。
歩道橋を上りたくなったので、もっと歩くことにした。
歩道橋には種類がある。大きさはもちろん。自転車などへの配慮具合もちがう。
電話がかかって来た。
鬱陶しいので電源を切った。 私はスマホを見たくなかったので、むしろ好都合だった。
しばらく歩くと、不意に地球が丸い事に気がついた。
どうやら海だ。 もう来ることは無いであろう海岸で、砂浜だ。
散歩には、隠しゴールのようなものが存在することに気がついた。
明確に定義されないどこか。 その存在に気がつかれ、散歩は悔しそうに笑った。
だがここでは無いようだった。 ならばもっと歩くまでだ。
もしかして、と思い砂浜への階段を下りてみる。
大雨の時以外に沈むことがあるのか分からないような、乾いた四角い消波ブロックの、カプセルホテルのようなちょうどいい隙間に入る。
違った。だが気分は最高だ。
ならば、と 学校のある山の上に行ってみることにする。
前から気になっていたのだ。
そう思い、砂浜の階段を上ると、木が生い茂り、灰色の鳥居を持つ古い神社が見えた。
遊んでいる間に移動していたらしい。
どうにも招かれた気がして入ってみると、腑に落ちるような感覚がした。
どうやらここが。此処こそが、私の散歩の目的地だったらしい。
丁度目にはいるようなところにあったベンチに座る。
この場所こそが、求めていた場所だ。 とベンチが言っているかのように、空気も、時間も、光でさえもゆっくり進んでいる。
もう二度と来れないのだろう、と直感で分かる。
偶然出会った場所は、もう偶然には出会えない。
次はこれを求め、期待して来る。
そういうものなのだ。
家に帰れば怒られるだろう。
学校に行けば怒られるだろう。
今はそれもどうでもいい。
私が時間で、光で、大気だった。




