021 近代1
このあたりから近代になるんですが、何から話しましょうか。
そうですね、戦争の変化、ここからでしょうか。
これまで戦争とは、有力者が兵を起こしてそれに従う兵が戦うものでした。
これからの戦争は少し様子が変わります。
まず、国の主権が国民すべてに移りました。
これによって何が起きたかというと、王様が兵隊を使って国を守ってくれる体制ではなくなったんですね。
国は自分たち一人一人が守らなければいけない。
そんな時代になりました。
さらに言うなら自分が守ってるのに、ただ乗りするのは許せないねえという考えもありますよね。
平等という名目がありますから。
それに古来から参政権は戦うものが持つ権利があるという認識もありました。
さらに、新たに生まれた銃という武装によって誰でも戦闘力を得ることができるようになったのです。
王様から国を取り戻した、そんな認識の人々が、国民皆兵、徴兵制にたどり着くのは当然の帰結だったと言えるでしょう。
一生のうち数年を軍事教練を受けて全国民が予備役として控える体制です。
さらに自分たちの国を守るという意識が生まれました。
自分たちの、国です。
これは国への帰属意識を強くしました。
自国民への共感と、他国民への対抗意識、排他性が強くなります。
特に国を守るという行動が自分と、自分の家族や友人、仲間たちを守ることと直結し、目的意識が強固になり、他者の理由で戦う過去の兵よりも強力な軍を生み出した、と言われていました。
実際のところ、同じ銃を使う軍であればより練度の高い兵のほうが強いですが、大規模な戦いですと充分な威力を持った投射兵器を使えるだけで充分な戦力になります。
コストを考えても、数を用意できる国民軍は強力でした。非正規戦闘用の特殊部隊は別途用意されるのが当然ではありましたが。
そして国民すべてが兵士になりうる状況は、そうですね、農業から商業に主体が移ったのと似た影響を与えます。
つまり失敗すると全部なくなるかもしれないし、全部拘束すると国の生産力が消滅するし、しかし、いくらか失っても補填が容易ということです。
過去の軍はあんまり農村から引き抜こうとすると一揆や暴動が起きましたが、国民軍は前提が変わります。構成員に主体性があるからですね。
さらに、直接戦闘に参加しない後方で生産活動を続ける国民の意識もまるで違ってくる。
古代の偉い人が言った、国と民の方向性が一致しているのが強いし、そうあるべきという話が現実になった形と言えます。
そして、戦意を折ることが難しくなりました。
かつては、兵を集めた将、褒賞を与える人物を倒せば戦う理由が失われて兵は逃げ散る物でしたし、その前提で、軍を率いる人物の心を折るなり懐柔するなり、心がわりさせることで撤兵させることが可能でした。
しかし国民軍は心を折るべき相手が兵全部となります。
それに軍を率いるために学んできた専門家なら、ああこれは負けるから降参して力を保持して次の機会を待とう、とか判断する状況でも、兵は二重の意味で個別に判断できません。能力と権限で。
死兵になりがちというわけです。
兵だけではなく、国全体が全てをかけて戦う、そんな戦争の形態を総力戦と呼びました。
経済、生産、技術開発を戦争に最適化し、人間を人的資源と呼び労働力、兵力を管理する。
実際にぶつかり合った時。そのようになりました。
そして人的資源こそが急所であると考えられた時、最適解がどうなるか。
はい。
武器の面では、銃弾の進歩が飛躍的な強化につながりました。
爆発物と射出する金属を一つのパッケージにして簡単に装填できるようにしたんですね。
動力生産装置、機械化によって可能になりました。同じものを多数作るのに向いているので。
そして、力学や機械に関する知見が増えていくkとで、どんどん深化していきました。
高速で装填する方法がいくつも考え出され、1秒に何十発も発射する銃が生まれます。自動化の流れですね。
1発で人が死ぬ投射物がそれだけ射出されるというのは驚異の一言で、大量の兵士の命を奪いました。
銃弾の威力をあげる方法が考え出され、爆発させたり、装甲を貫通したり、体内で破裂したりと用途によってさまざまな弾頭が使われるようになります。
射程を上げる方法が考え出され、視界外の超長距離を攻撃する砲が生まれました。
当たったかどうかわからないので着弾を観測するための手段も考え出されていきます。
銃や砲の効果が上がった結果、地面に穴を掘って陣地を作るのが最適解になりました。
要塞は役に立ちますが、コストが違いすぎました。
平地に線を引くように互いに穴を掘り、膠着状態に陥る戦場がいくつも生まれました。
これが効果がありすぎて、突破するために新たな兵器が生まれます。
銃を無効化できる装甲を持ち、防衛用の穴を乗り越えられる車、戦車と呼ばれたそれは、さらに砲を装備して陸戦兵器の花形となります。
個人で携帯可能な装備ではほぼ撃破できないほどの強さになるんですね。
とはいえそうなるまでは試行錯誤と技術開発の繰り返しがあったんですが。
同時期にとんでもないおかしな兵器なども産まれており、結果的に戦車が正解だったわけですね。
先行して成功した国の兵器を見て、はじめはバカにしていた国も真似をする、なんてこともありました。
互いに情報工作員を送り合っており、命がけの情報戦が繰り広げられていました。敵国がどんな兵器を開発しているかなんてのは戦争の行方を左右するものでした。生産力が上がっていましたから、完成してしまえば量産されて投入されてしまいます。その前に対策が出来ていなければ何もできずに滅ぶ可能性もありましたから。
「それほどに早いのか」
そうですね、これまでの時代とは物事の移り変わりの速度がどんどん加速していきます。
輸送と通信の発達は、世界を狭くするのと同じと言いましょうか。
ヒト、モノ、カネを集積することが発展に重要な要素みたいなことをお話ししたかと思いますが、輸送と通信は集める範囲が広がるというか。
そして、そうやってさらに輸送と通信の技術が発展すれば、ますます加速していくわけですね。
ついでに言えば、考える頭も増えていきますからね。国民が知識と経験を得れば天才が発掘されていきますし、人口も増えて言っていますから母数も増えます。
話を戻しますが、さらに新たな発明によって、空を飛ぶ機械が生まれます。
何種類か生まれるんですが、中でも輸送量より速度重視のものが兵器として活躍しました。
まずその観測能力の高さ。
爆弾を輸送して上空から落としたり、それを護衛したり。
純粋な輸送力では船に及びませんが、速さと視界は比較になりません。
船と言えば、その積載量を生かして、砲を運用する戦艦が開発されました。
あんまり開発するものだから条約でちょっとお互い制限かけようぜとなったくらいです。
広大な海を支配するのに戦力は無限に必要なんですが、戦艦の維持費が嵩みすぎたんですね。
技術レベルに経済規模が追い付かないほどになってきたという考え方もできますが、国家予算を圧迫し続ける状況は、互いに後追いの国に追い抜かれる危険がありましたから、条約は成立しました。
経済が軍事の足を引っ張るという見方もありますが、軍事は国の要素の一つに過ぎないという実例でもありますね。
そして総力戦体制の弊害という見方もできます。必要があれば全力を傾けることができてしまうという。その先が破滅であってもですね。
そのことは敵も味方も認識しておかなければならないリスクとなりました。
砲艦が規制されたのちは飛行機気を運用する艦を作り始めるんですけど。
お互い相手を出し抜こうと必死でした。
兵器の威力が上がりすぎており、ちょっとした振りが大きすぎる被害を生むようになってきたのです。
この開発と軍事投資の競争に一旦の冷静さを取り戻させたのは、都市ひとつを焼き尽くしてさらに継続する毒をまき散らす爆弾が投入されたあとでした。
世界を巻き込んだ大戦争の末期に投入されたそれは、世界中を何度も焼き尽くせるほどの量が生産され、互いに身動きが取れなくなったのです。
爆弾を直接敵国に飛ばす技術も開発されまして。
その爆弾を使えば、反撃で自国も焼き尽くされどちらの国も残らないという状況を生んだんですね。
相互確証破壊と呼んでいました。
その爆弾を運用している国が、使用した瞬間、他の国も報復に動き、世界が焼き尽くされるような体制が構築され、そうするとさすがに使えませんから、お互い使えない切り札を大量に維持し続けることになったんです。
いつ世界が滅んでもおかしくないまま人類は暮らしていくことになりました。
と、戦争についてはこんなところでしょうか。
成功したものについてしか話せていないと思いますから、無数の試行錯誤が存在したと思います。
仮想敵の使うものとの対策合戦ですから、場合によってはまるで違う戦争が行われていた可能性もあったかもしれません。
しかし、相互確証破壊によるにらみ合いになるまでなんだかんだ軍事は肥大し続け、その後も新たな方策を求めて研究が続けられていることは事実ですから、技術の発展が加速し始めるのは、地獄の持久走の開始と同義であるんじゃないでしょうか。
圧倒的な差があるときどうなるかは、歴史が証明しているので、そうなることは必然なのでしょうね。
近代の軍事についてはこんなところで、現代のものはまた後日ですね。次は近代の技術面や思想面についてでしょうか。
※記録者注
この資料を用いる者には異世界のあまりに悲惨な末路について教えておくように提案する。
お気に入りと評価してくれたらうれしいな。




