017 近世3
今回は、外洋航海技術によって世界に飛び出した技術先進国がたどり着いた先の出会いについて話していきたいと思います。
前提として、この技術を手に入れた文化圏は世界でも有数の技術先進国でした。
かつての帝国の隣接地域で、遊牧帝国など強力な国とも接触し、彼らに負けないため、同じ文化圏のライバル国に負けないため、技術開発して得たものは、他地域との技術格差でした。
世界の多くは槍と弓、投擲武器でそれなりに安定した環境で生活していました。いつも血で血を洗う争いをしているような地域はそんなにないし、そういう場所でも安定している時期がありますからね。どこかのちょうど戦乱の時代であっという間に銃をリバースエンジニアリングして改良するような地域は例外的でした。
そして、航海先で、彼らは一つの知見を得ます。
圧倒的な技術格差があると多少の数の差は問題にならず、見たこともない綺麗なものはただのガラス玉でも珍重されることがあり、法や契約の知識格差があれば騙して搾取するのは簡単で、虐殺して自分たちで探索するより騙して従属させて利用するほうが便利である、などなどです。
「銃はそこまで強力になっていたのか?」
矢と比べて小さな弾体が高速で射出されるため視認しにくく、聞いたことのない大きな音が鳴ったと思ったら隣にいる仲間が倒れているんです。
何が起きているかわからず恐慌に陥ることが多かったようですね。
そうでなくても、見たこともない巨大な船で乗り付けてきた言葉も通じない謎の集団でした。
反撃にあったこともありましたが、先住民が虐殺されて金銀財宝を略奪されて国が滅ぼされたり、持ち込まれた感染症によって国が滅んだり、ガラス玉と金銀宝石を、あるいは土地などを交換したり、奴隷狩りにあったと思ったら船で輸出されたり、後世の視点で見るとかなり醜悪な事件が多数発生していました。
技術や知識の格差があるというのはそういうことです。
特に新大陸ではひどいものだったらしいですね。
この世界のすべての地域が探索されていないのであれば、この世界でも同じことが起きるかもしれませんし、この国が弱者側になる可能性もあるでしょう。
わからないということは恐ろしいことです。
異なる文化の出会いは往々にして悲劇を生むことになります。
この世界のどこかで攻撃的な技術大国がいつか生まれるかもしれません。それはこの国かもしれないし、他の国かもしれません。
古代の教えによると、絶対に勝てるのにやらないのは怠慢で。
弱者の命が軽いのは歴史的に見れば常識です。
さて、話を戻します。
先ほども述べましたが、航海者たちは、殺すより利用するほうが便利だということに気が付きました。
そこで、新大陸には入植し、かつて陸路でつながっていたような国は住人を残して植民地としました。
船を扱う技術は独占し、一方的に有利な立場を築き、商取引を持ちました。
軍事力を背景にしつつも、分割統治という手法を生み出します。
自分たちが支配するのは前提として、統治は現地の住民に行わせるというものです。
特権階級を作るか利用して、それらを優遇し、それ以外を支配させると、現地民は特権階級を恨み、特権階級は民を恨み、真の支配者である宗主国からヘイトをそらすことができるというものです。
過去、古代の帝国が従属国にやっていたことをより悪辣に再現したもの、と言ったところでしょうか。
これによって、本国が必要なものを生産させ、本国から商品を売りつけるシステムを作りました。
当時、本国では織物の生産が盛んだったので、繊維原料を作らせたり。
砂糖や茶など、嗜好品を生産させたりしました。
交流の規模が大きくなるにつれ、短期的な略奪から方針を変換し、継続可能な収奪機構を作ろうとしていたわけです。
一方で、新大陸に入植、移民していった者たちですが、本国とは貿易の帳尻が合いませんでした。
開拓中の土地とすでに発展している本国ではできることのレベルが違いますからね。
しかし、利益は出したい。とはいえ同じ民族、文化のものにそこまでひどいことはできない。
そこで、三角貿易を行うことで貿易の不均衡を解消することにしました。
本国、征服先、入植先の三か所で貿易を行い、本国から製品を征服先に、征服先から奴隷を入植先に、入植先から本国に製品の原料をという三角形の貿易の形です。
その結果、入植先には奴隷が大量に送り込まれ、労働力として使われるようになりました。
また、異民族の取引先には依存性薬物の輸出も行いました。
これはとても儲かりましたが、あまりにひどい所業として当時から非難されています。輸出先では非難しつつも、その依存性によって禁止したにもかかわらず密輸が横行し、大問題に発展しました。
その相手はその地域では絶対的な大国で、最終的に戦争になり、はるか遠くの遠征先にもかかわらず技術で勝る側が勝利し、有利な条件で条約を結び、植民地同然の扱いになりました。
そのようにだいたい悲劇的な様々な出来事があって、特に最も力をつけた国は、太陽の沈まない帝国とすら呼ばれました。
世界が球体ですから、世界中に植民地があれば、どこかが常に太陽に照らされているということからついた呼び方ですね。
この海の帝国はその後長い間世界のメインプレイヤーとして力を維持し続けます。
もちろん、こうまで成功したのは航海や軍事の技術格差によるだけではありませんでした。大きな要因ではありましたが、ほかにも様々な発見や発明が影響しています。
船は大量に輸送できますが、嵐などの自然災害に弱く沈んでしまえばまるごと失われるという弱点があります。
外洋航海ではこの弱点はさらに顕著になりました。単純に公開にかかる時間も長いですし、船の設備が破損したのが大洋の真ん中だと修理も出来ず渇いて死ぬだけとなります。
同等の技術を使う海賊も現れましたし、船で反乱がおこることもありました。
商人たちはこの0か100かを大きなリスクと感じました。
そこで生まれたのが保険と株式です。
保険というのはあらかじめおカネをプールしておき、被害が出たらそこからおカネが支払われるという仕組みのサービスです。
10回に1回沈むが、成功すれば1回に100の利益を得るというルートがあったとして、一人で頑張って出せるのは1回分の準備金、という場合を考えてください。
1回あたり10のおカネをプールさせることで、成功した時90の利益になりますが、被害に遭った時も保険から90のおカネをもらえます。保険側は10回で10の利益をえていることになります。
これを100の船主に対して行うというのがこのサービスのモデルですね。
今の例えは準備に必要な資金を考慮してないですが、実際はそれも込みで計算します。
このサービスは船以外のものにも採用されるようになりました。
医療費とか。家を買う時とか。
そして株式ですが、これは出資の仕組みです。
一人では船を用意できない人たちが株式を募集し、出資額に合わせて利益を配分するという仕組みです。
この仕組みも船による事業以外にも応用され、株式会社という組織が生まれます。
事業を起こす際に出資者を募集して株式を発行、継続的に生まれる利益を配当する。株式を持っている者は事業に対する監査権や意見を言う権利などをもつ。事業が上手くいってなかったら手を引くためですね。
そんな仕組みで、将来的にはごく一般的な営利組織の形になります。
具体的には、通貨、債券に準ずる価値ある証券として扱われるようになるほどです。
そのほかにも、先日述べた銀行が発達しました
遠くまで金銀を抱えて航海するのはあまりに不用意で非効率でしたから。
反乱の恐れも膨れ上がりますし、海賊にとってもより美味しい獲物になり、うっかり海に落としたら大損です。
遠隔での取引をどう行うかが検討されたことで、銀行が立場を高めていったのです。
こういった利便性の向上は、しかし失敗も招きます。
古くからある先物、現物が手に入る前に売買契約を結ぶ手法ですね。農作物が実る前に売る約束をしたり、借金のかたとして差し押さえられたり、そういうことは古くからありました。
船の荷についてもやはり行われることがあったわけです。
そして、様々な構造でおカネが勘弁かつ効率的に使用されるようになった時、この先物取引が暴走しました。
そのときはある花についての先物契約が発端でした。
当時は異国から来た珍しい贅沢品の一つでした。それ自体それなりにかちをみとめられたものではあったのです。
そして、みんな欲しがるので、より早く購入を確定したいから先物契約をするわけです。花が咲く前に花が咲いてから引き渡す契約をしたんですね。
何がきっかけか、その花の契約証書が値上がりし始めたのです。
もともと価値がある花がさらに値上がりしそうだ、みたいな噂が流れたのかもしれません。
欲しがる人が多ければ、モノの値段は上がります。
値段が上がり続ければ、差分を利益にできます。
花の契約書の値段が上がり始め、上がり続けてしまったんですね。
現物ではなく、引き渡しの証書がです。
この時、現物は別に要らないが値上がりの差額で儲けようとした人たちが大量に出ました。
みんな欲しがる。
欲しがると値上がりする。
入手して売れれば結構な金になる。
ますますみんな欲しくなる。
そうすると借金までしてたくさん買って、たくさん儲けようという人が出ますね。
そうしているうちに人々は熱狂しまして、信じられないほど高額まで値上がりしました。
年収の何倍という規模です。
「たかが花にか?」
たかが花ですが、当時の彼らにとっては無限に稼げるネタに見えていたようですね。
そしてついに、値上がりが止まります。
きっかけはよく覚えてないですが、大量に確保していた人がまとめて売ったとか、そんなところじゃないでしょうか。
買い手より売り手が多くなると価格は下がります。
これまで上がり続けていた証書の価格が突然下がりました。
その瞬間から、一気に暴落が始まりました。
証書の持ち主たちは恐慌を起こし、競って売り始めます。
だってこのまま値段が下がれば大損です。
一秒でも早く少しでも高く売り抜けなければ。
となりまして、みんなで価格を下げてしまいました。
もはや証書を買いたい人はいなくなり、その花は価格が下がりすぎて結局取引されませんでした。
無理して買った人は首を吊った人も多かったでしょう。
熱狂と容易に手を出せる環境が揃ったことで発生した不思議な現象でした。
大きくなってはじけて消える泡のようだということで、この類似現象はバブルと呼ばれるようになりました。
※記録者注
検証の際は転移者が否定的な表現をすることが多い点に注意すること。
利と注意点の洗い出しは双方念入りに。
お気に入りと評価してくれたらうれしいな。




