014 中世(余)
「末永く続く国は存在しなかったのか?」
そうですね、自分がいた時代だと、1400年以上続いていた国が一つありましたが、見方によっては続いていないかもしれないし、殿下の望む答えにはならないとは思いますねえ。
「述べてみよ。ああ、1400年以上というのはどういう意味だ?」
その国の歴史書が成立したのがその頃で、それ以前については記された時点で伝聞だったので。
歴史書の通りであれば2600年を越えて2700年が近かったはず。
自分がいた時代における最古の万世一系の単一王朝の国とされていました。
国独自の呼び方がありましたがひとまずわかりやすいように皇帝と呼びますね。
その国は、海に浮かぶ弧状列島上に生まれました。
幸いだったのは、海によって海外からの攻撃が妨げられていたことでしょう。
遊牧民の攻撃の心配がなかったことは農耕国家として大きく有利な点でした。
列島の支配を進める中で、小国の乱立の時代が終わり、多くの豪族を皇帝家がまとめる体制が出来ました。
はじめは皇帝の権力は強いものではなく。外戚が力を持ったり、皇族の弑殺が行われるような事態もあったのですが、クーデターによって皇帝の権力が固められました。
しかし、その時に活躍しその後の統治の助けとなった功臣の一族が、何代か先になって外戚として力を振るうようになりました。
疫病の流行もあり、政情不安となった時期もありましたが、最終的にその外戚の家系が皇帝の後見人として、あるいは代理人として政権を握るのが常態化しました。
なぜ外戚の家系が皇帝の座を乗っ取らなかったのか?
その理由の一つは、権力の正当性を与える権威が、皇帝によるものだったということがありました。
皇帝の家系は主神の子孫と伝えられていたのです。
宗教国家だったんですね。
権力を握った外戚家でしたが、宗教権威としての皇帝という立場を奪うことはできず、また奪う必要がありませんでした。だって権力はあるので。そして家臣のナンバーワンという権威もあったので、余計な真似をする必要はなかった。
というのが一つの建前で。
乗っ取ろうとすれば同族に足を引っ張られる理由づけになっていたでしょう。
外戚の一族内部の権力争いが忙しかったんですね。
実権のない権威だけの皇帝と実権を持つ権力者である貴族の長という形で安定したのです。
それが長く続いて当たり前になりました。
平行して、土地所有を認める法令ができて、大開拓時代になりました。開拓した土地を自分のものとしてよいというものです。
これによって貴族や宗教が力をつけていきました。
というのも、免税特権を設定したんです。
開拓した土地を、免税特権を持つ貴族や宗教に寄付することで、支払いを減らすという知恵を働かせたんですね。
これで貴族は地方に土地を得ることになったんですが。
軍閥化しました。
代官に管理させてたんですけどね。
貴族はあんまり地方に興味がなかったらしく。
任せてたら軍閥化しますよね、それはね。
「以前聞いたよう話だな」
それですね。
地方統治が放置状態となり、地方に軍閥が生まれました。
これを討伐することで、皇帝家の分家筋の家系が武家として力をつけます。
皇帝、貴族に続く権力者、武家は、その武力を背景に実権を握りました。
武家同士の争いの時代に突入し、外戚貴族も力をそがれてかつての皇帝のように権威だけの存在になっていきます。
武家の争いが落ち着くと、武家は戦地での一時的な統治をおこなう役所を作る権利があることを名目として政権を作ります。
大将軍とその幕下の府で幕府という武家政権が、何度かつぶれて入れ替わりながら続きます。
皇帝側が権力を取り戻そうとしたこともありましたが、やはり武家は暴力の専門家だったので勝ちきれず、しかし政治力によって潰されることもなく。
武家政権の正統性を保証する存在として残り続けました。
そうですね、武家政権も、かつての外戚貴族のように、皇帝を排すことはなかったのです。
権力と権威を別とすることの都合のよさを利用出来たからでしょう。
自らの正当性を証明するのは難しいです。お互いが俺が正しいと言いあったら平行線です。
しかし、別の権威に認めさせれば決着がつきます。
そして権威を貶めようとするとその権威を利用しているすべてが敵になります。
余計な敵を増やさないために権威を利用する側にいるほうがよかった。特に強い側はそうだったわけです。
そういう、政治的な綱引きの結果、皇帝、そして貴族は生き残りました。
そうしていると、局面が大きく変わる事態が起きました。
他国で技術が発達し、列島を囲う海という防壁が安定して越えられるようになったのです。
幸いに、その技術を持っている国ははるか遠くの国で、最も近い国はまだでしたが。
一度はその異国の技術を取り込んで彼らの干渉を拒んだのですが、数百年を挟んでさらに発展した技術をもって現れました。
見るからに隔絶した技術を持った相手を見て列島がひっくり返るような混乱が起きました。
局地戦で勝ったり負けたりもありましたが、結果として、内乱が起きて、当時の武家政権が政権を皇帝に返還しました。
実際のところは権威として皇帝を立てた内乱の勝者ということです。
古くから国内最大の権威であった皇帝を中心にして挙国一致で対抗すべしということで、ここから驚くような速度で技術先進国から技術や思想を学びました。
その後、当時の最新の政治体制の中で、皇帝を最大の権力者としつつも、先進国として認められる体制を作り上げました。
さらにのち、大きな戦争に敗北し、占領政策の下で皇帝が廃される検討がなされました。
しかし、そうすると国民が暴走する恐れがあるということで、皇帝は権限を奪ったうえで残されることになりました。
自分がいた時代では、政府を認可することや、外国の貴賓との謁見、勲章の授与などを役目とする国家の礎として、そして現存する最古の王朝として尊ばれています。
というのがその国の王朝の歴史の概要です。
はい。
権力を早々に手放して権威としてふるまったことが結果として残り続ける要因となったわけですから、殿下の求めるものとは違ったでしょう?
権力は力が強いものが握ります。
力を持ち続けることとその力を超える新たな力を見つけ育てることを同時に行うのは非常に難しいことでしょう。
しかし、権威は歴史が作ります。
もし列島の国の未来を予見して、国の黎明期にそのようにしたのであればそれはとんでもない偉人ですよね。
結果として幸運にも、そして都度の尽力で、生き残ったと考えるほうが自然なのかな。
どう思いますか?
「いや、そうだな。今は何も言えぬ」
※記録者注
検証の仕様のない話である。
お気に入りと評価してくれたらうれしいな。




