013 中世8
技術の話をしたのでもう一つ、世界に決定的な転換を促した技術についてお話ししましょう。
爆発物というものです。
これは激しい音と熱と衝撃を起こす消耗品で、直撃すると人間の体が飛び散り、少し離れると火傷を伴う強烈な打撃を全方向に放つ、音はウマが驚いて暴れ出す、そんな道具で、当初は投げつけて音で騎兵を驚かしたりしていたそうです。
仕組みとしては瞬間的に反応して膨れ上がるというものですね。
握りこぶしほどの物質が、一瞬でこの部屋ほどに膨れ上がると考えて見てください。
自分の位置で爆発物が発動すれば、自分は焼け焦げた肉の破片が遺るかどうか、殿下は壁にたたきつけられてつぶれた肉になるか、壁にぶつかって跳ね返ってきた衝撃波との挟み撃ちになってその場でつぶれるか、そんな感じですかね。衝撃の逃げる先がない密室だとひどいことになるはず。
「それほどか」
まあ品質と量でその破壊規模は変わるのですが、性質上、兵器に使ったり、採掘に使ったり、加工に使ったりされました。
初期の爆発物はいくつかの種類の鉱物を粉にして混ぜ合わせることで作れたらしいですが、その鉱物の産出場所が限定的かつ離れていたことで、発見も安定した生産も分断された時代には難しかったであろうと。
火をつけることで起動する性質を持っていたので、固めた爆発物に紐を埋め込み、紐に火をつけて投げたり、設置したものに着火する方式で使われていたようです。
そのうち、射出武器に活用することを思いつきました。
全方位に向かう衝撃を一方向だけ残すことで、衝撃の方向を限定できるとわかったんですね。
これによって射出したり、逆にその反動を推進力にしたりと、攻撃に使うための様々な工夫がされました。
この時重要なのが、衝撃をふさぐための素材。
頑丈で爆発に耐えられる素材と構造でなければ、ふさぐための素材が破裂して、自爆してしまうんですね。
そこから派生して、爆発物に金属片を混ぜると非常に殺傷力が上がるという知見も得られたわけですが。
この問題は、分厚い鋳造金属筒でひたすら頑丈に作るというパワー解決から、物理学や冶金技術による解決まで、ひたすら研究されました。
なぜそのように力を入れて研究されたのかというと、これは個人的見解なのですが、やはり人口減少が一つの原動力だったと思います。
幼少時から訓練して、高価な装備に身を包む戦士階級が、当時最強戦力だったわけですが。
彼らもまた病でバタバタと倒れるわけですよ。
精強で有名だった弓兵なんか腕の長さが変わるほど訓練していましたからね。
コストが高いだけあって強力な戦力だった戦士たちが減った結果、何らかの形で戦力を補填しなければならない状態だった。
そこに殺傷力に優れた爆発物がすっと入ってきたわけです。
爆発物に限らず、さまざまなものがあらゆる分野で人口減少を補おうと研究されていたわけですが、軍事の分野では爆発物が有望で、結果としてもその後の軍事技術ツリーの根本になるくらいの成果を出すことになりました。
「それほど強力なのか」
砲、そして銃と呼ばれる兵器が誕生しました。
これは、先ほどの仕組みで金属片を射出するもので、射程、威力共にそれぞれ投石機や弓に互換しうるものだったのです。
当初は高コストだが威力が高く、その一方で、戦士と比べて訓練時間が少なくても火力を発揮できるという性質がある装備でした。
さらに雨だと使えないという弱点もありました。
射撃ごとの装填にも熟練の弓兵と比べられないほど時間がかかります。
しかし、技術や戦術の進歩により、欠点が補われ、発展していきました。
これによって陳腐化されたのが、それまでの城砦、金属鎧、将来的には銃砲以外の兵器のほとんど。
遊牧騎兵への対抗手段にもなりましたが、遊牧民も技術を活用したのでひとまず差が縮まったと言ったところでしょうかね。
「城砦と金属鎧が陳腐化した、というのは? 金属鎧は強力な兵種だったということだな?」
そうですね。
重装騎兵が当時最強の兵種の一つだったかと思います。
金属鎧で弓や斬撃武器を無効化して突撃する戦術は強力でした。
装備面も人材面も非常にコストがかかりましたが、戦場の花形です。
しかし、銃の発展に伴い、より重装化することで対抗しましたが、最終的には人が着用できる重量の装甲では銃を止められないというのが歴史的な結論でした。
つまり、銃さえ使えれば子供でさえ、鍛えぬいた戦士を殺すことができるという時代が到来したのです。
銃という兵器の威力がどうこうではなく、戦士を誰でも倒しうるという構造の変化がポイントです。
兵器の発展によって、支配階級の力の根源である軍事力、これが陳腐化してしまったわけです。
あ、砲は主に設置して使用する大型の投射兵器です。金属砲弾を射出していましたが、爆発物を組み込んだ砲弾を射出するようになって威力がさらに上がりました。
銃砲の中では構造が比較的簡単で、鋳造によって作った金属の筒に爆発物と砲弾を詰めて着火することで使用するものですね。
輸送の効率化、反動対策、射程や威力、着弾観測技術などが改良されていきました。
銃は個人で携帯できる投射武器で、小指の先と同じかもっと小さな大きさでも十分な殺傷力を発揮できました。
携帯性、威力、射程、精度、連射性能などが研究され、様々な派生武器に発展しました。
片手で持てるもの、隠し持てる暗器、長距離狙撃用のもの、連射力、それらのバランスを取ったものなどですね。
ただ、そうまで発展したのは力学や冶金、加工技術などの発展に伴ってのことで、初期は戦術面での運用の工夫が盛んだったようですね。
この兵器が自分の世界とは別の世界で覇権を取ることがあるかというと、断言できないと言います。
弓が戦力として重視されているなら活躍の余地はあると思いますが、数をそろえられるか、戦士の代替になれるかという点が懸念点です。
銃砲は使い手の教育コストが低く、装備の運用コストが高いというのが特徴で、商業の発展による経済規模の拡大が前提です。
金属弾の投射で戦士に対し十分な殺傷力に足りるかという点が問題ですね。物理法則が自分の世界と同じかどうかわからないし、少なくとも自分の世界にはなかった法則がこの世界にはあるので。
ただ、誰でも戦士を殺傷しうる兵器が開発され、コストがかかっても量産可能であれば、経済の発展をきっかけに大きな社会の変革につながるだろうということは予想しておきます。
異世界の銃砲でなくても起きうるということです。
異世界の話に戻しましょう。
兵器の発展は技術の発展につながります。
何よりの目の前の暴力が一番危険で、それを抑えるための暴力をもたなければ交渉のテーブルにもつけませんから。
確実に勝てるなら戦争しないのは指導者の怠慢です、と古代の偉人が言ってます。最低限、確実に勝てるかわからないくらいまで力を持たなければ戦争を仕掛けられて滅ぶだけです。
技術が発展すれば新しい武器を作るし、武器を発展させるために新たな技術が生まれる。
それは国家間の競争です。
爆発物の兵器化に限らず、新たな発見、発明、そして社会状況の変化。宗教権威の低下や農民の価値の向上による領主の力の再編などにより、さらなる変化の兆しが出てきます。
その一つが中央集権化。
絶対王政への流れでした。
技術の発展は、ヒト、モノ、カネの集積の成果であることが多い。
考える頭と動かす手の数は、その中に生まれるひらめきの量にも影響するのです。 天才は多数の凡才の中から生まれる。母数の多さは知的な方面にも適用されます。
100万人に一人の天才は億人いれば100人産まれる計算ということですね。
そして、当時の状況でヒト、モノ、カネを集められるのは誰か、ということになります。
「王がそうだったと?」
宗教の力は低下しました。
領主も混乱を起こしています。
そんなとき、元は領主代表くらいの立場にいた王が、その肩書を利用して力を集めたのですね。
そうできなかった国もありましたが、それが出来た国が力をつけました。
例えば領主家が流行り病で失われた際、じゃあいったん預かっとくわ、と王として宣言すれば支配の名分となりますよね。血縁などほかにも名分はあって対抗する者もいたでしょうが、混乱していた時代です。
こういうのは実際の施政者側の殿下のほうがよくわかると思いますが。
隙があれば手を突っ込んで少し引っ張ってくる、というのをくり返せば、それが集まって大きな力になりますね。
それに王は国内最大の都市を支配しているということがやはり大きかったでしょう。
都市はヒト、モノ、カネが集まる場所そのものですから。
そしてその経済力によって常備軍を確保します。
これは領主が軍事力を提供する封建制から脱却したということです。
王が常備兵を持つことは封建領主の没落の最終段階と言えるでしょう。
その一方で、有力な貴族階級にはかつての封建契約とは別の特権を与えることで味方とし、利害を共有して傘下に治めていきました。
領主代表から、領主たちの主の地位を名実ともに確保したとき、絶対王政という体制が生まれました。
かつての大帝国に匹敵する体制と言えるかもしれません。
ということはかつての大帝国と同じ末路をたどる可能性もあるわけですけれども。
※記録者注
銃、砲の概念に近いものがないか文献を調査。
検証実験は慎重に。
政治体制の検証についてはこれまで通り。
お気に入りと評価してくれたらうれしいな。




