腐敗と優雅の両立
一日の終わり、寝室に戻った私は、窓から差し込む柔らかな月光に照らされながら、今日の出来事を静かに思い返していた。朝のドレス試着、初めての食事、社交界レッスン、夜の散歩……どれも、腐敗した体でのお嬢様生活という、奇妙で滑稽な現実を突きつける出来事だった。しかし、そのすべてが少しずつ、私を強くしてくれていることも確かだった。
鏡の前に立つと、灰色の肌に長いドレスが映る。血色のない顔に微笑みを浮かべる自分を見つめ、深呼吸する。まだ完全には馴染んでいない自分の姿。しかし、今日一日で学んだことは確実にある。歩き方、振る舞い、礼儀——ぎこちなくても、腐敗した体でも、意識すれば少しずつ形になる。
「ゾンビでも、少しはお嬢様らしくなれたかな」
小さくつぶやくと、胸の奥が温かくなる。ドレスの裾を整え、指先を見つめる。ひび割れた爪や灰色の皮膚は変わらないが、それでも今日一日の努力は、確かに自分を少しだけ違う存在に変えてくれたような気がした。
執事が静かに部屋に入ってくる。「お嬢様、今日のレッスンと散歩、お疲れ様でした」
その声に微笑みを返す。まだまだ完璧には程遠いが、執事やメイドたちの支えがあるから、私はここで生きていける。腐敗した体を抱えながらも、少しずつお嬢様としての生活を身につけることができるのだ。
今日の一日を振り返ると、失敗もあった。ドレスの裾を踏んで転びそうになったこと、食事で中身が飛び散ったこと、社交界レッスンでぎこちない歩き方をしてしまったこと……。でも、すべてが経験になり、笑い話に変わる。それが、この屋敷での生活の面白さであり、希望でもある。
窓の外には夜の静けさが広がり、庭の木々が月明かりで揺れる。腐敗した体で過ごす一日が終わり、少し疲れた体をベッドに横たえる。しかし、心の中には今日学んだ小さな自信がしっかりと根を下ろしている。
「腐敗していても、私はお嬢様だ」
その言葉を胸に、私は静かに目を閉じた。ゾンビとしての特性と、お嬢様としての優雅さ——相反する二つの要素をどう両立させるかは、まだ完全にはわからない。けれど、今日一日で少しずつ、その答えを見つけ始めた。
屋敷の静寂の中、私は眠りにつく。腐敗と華やかさが交錯する日々は始まったばかり。笑いあり、ハプニングあり、少し切なさもあるけれど、それでも確かに希望に満ちている——そんな一日の終わりだった。




