はじめての食事
朝の光が柔らかく部屋に差し込む中、私は寝室で目を覚ました。昨夜のドレス試着の疲れがまだ残っているが、お腹は妙に空いていた。しかし、目の前に並べられた朝食を見て、思わず顔をしかめる。パンケーキ、フルーツ、紅茶——すべて美しい色合いで、どれもお嬢様が食べるには完璧な品々だ。でも、私のゾンビ体にはどうにも食欲をそそらない。
「……これ、食べられるかな」
箸を手に取り、パンケーキに触れるが、口に運ぶ前に体が拒絶反応を示す。甘い香りや柔らかい生地が、まるで遠い世界の食べ物のように感じられた。ゾンビとしての私は、もっと生々しい、肉や血の香りを求めている。
執事は静かに微笑みながら、私の反応を見守っていた。「お嬢様、無理に召し上がる必要はありません。こちらに特製の朝食を用意しました」
メイドが差し出したのは、一見フルーツサンドのようなパン。だが中身を少し切ると、中には赤黒い肉のペーストが隠されており、香りも私の好みにぴったりだった。見た目は可愛らしいまま、味はゾンビ仕様——執事の知恵とメイドの手腕が融合した完璧な一品だ。
恐る恐る口に運ぶと、思った通り美味しかった。腐敗した舌が喜びに震える。フルーツの甘みと、肉の旨味が混ざり合い、何とも言えない幸福感が広がる。私は思わず目を閉じて味わった。「……これは、食べられる……!」
しかし、その瞬間、スカートの裾に赤い染みが付いたことに気づく。慌てて振り返ると、サンドの中身が少し飛び散ったのだ。執事は冷静にハンカチを差し出し、メイドたちも慌てず対応する。「お嬢様、次回はもう少し注意して召し上がってください」
私は少し恥ずかしくなりながらも、笑ってしまった。ゾンビとしての特性は完全には隠せないけれど、こうして守ってくれる人がいる——それだけで心が温かくなる。
食事を終え、窓の外を見ると、庭の木々が朝日に輝き、鳥のさえずりが聞こえた。普通の生活とは程遠い私の現実。しかし、こうして小さな工夫で普通の生活に近づけることができるのだと実感する。
「ゾンビでも、お嬢様として、少しずつ生きていける」
箸を置きながら、私は心の中でそうつぶやいた。腐敗と華やかさが入り混じるこの屋敷で、今日も新しい一日が始まった——笑いあり、ハプニングあり、少し切なさもあるけれど、それでも確かに希望に満ちた日常が。




