朝焼けにとける約束
夜明け前の空気は、鋭く冷たく、胸の奥まで染み込む。腐敗した体が微かに軋み、関節の奥で硬い骨がきしむ音がする。歩くたびに皮膚が乾いて裂けるような感触が指先に伝わるが、それももう恐怖ではない。むしろ、冷たさと軋みが、世界がまだ動いていることの証のように思えた。
中庭の片隅に座る友達の影が見える。まだ毛布に包まれた彼女は、眠そうな目で私を見つめる。腐敗した手を見ても驚かない。見慣れているのか、それとも私の“異形”を受け入れてくれているのか。どちらにしても、私は安堵した。
「もう起きてたの?」
声が夜の静けさに溶ける。私は微かに頷き、腐敗した指先をそっと彼女の毛布に添える。冷たさが手から伝わるが、彼女は何も言わない。硬く、ひび割れた指の感触が、朝の空気と混ざり合い、胸の奥で奇妙に温かく響いた。
朝焼けが空を染め、桃色と金色の光が石畳や花壇に広がる。露に触れると指先が冷たくしびれる感覚がある。腐敗した皮膚が朝日でわずかに乾き、ひび割れたところが光を反射してぎらりと光った。その姿は、人間の肌とはほど遠い。けれど、世界の中に確かに存在している。
「今日も一緒に歩こう。どこまでも」
友達の声に応えて、微かに笑う。歩幅が合わず、関節の硬さが動作にぎこちなさを生む。それでも、小石を弾く指先の乾いた音が、胸の奥で心拍の代わりのリズムを刻んでいるように感じた。
中庭の草に触れると、冷たい露と腐敗した指先が微妙に絡む。葉の感触が、まだ生きていた頃の感覚と微妙に重なり、胸の奥で懐かしさと異質さが交差する。足元の砂利を踏むたび、骨の軋む音と乾いた皮膚の音が混ざり合い、歩くたびに自分が“ゾンビであること”を思い出させる。
「ありがとう」
小さく声に出すと、友達は肩をすくめて笑った。
「当たり前でしょ。ずっと一緒だもん」
朝日が完全に昇ると、光が二人の影を長く伸ばし、石畳に溶け込む。腐敗した体の冷たさ、軋む関節、乾いた皮膚の感触。全てが、友情の温かさと静かな朝焼けの光に包まれることで、不思議と心地よく感じられる。
ゆっくりと立ち上がり、二人は校庭を歩き出す。腐敗の痕は消えない。冷たさと硬さはそのまま。けれど、それでも“歩ける”こと、誰かと一緒にいることの尊さを感じる。ゾンビである自分と、友達の温もりが交差する瞬間、胸の奥で微かな鼓動のような感覚が生まれた。
朝焼けに溶ける約束。腐敗と温もり、冷たさと友情が混ざり合い、今日もまた、私たちは進んでいく。




