放課後の秘密の庭園と小さな冒険
放課後の鐘が鳴り終わるころ、校舎の裏手はもう夕陽に包まれていた。誰も通らない廊下を、私は友達と並んで歩く。腐敗した体は、少しずつ軋む音を立てるけれど、それももう慣れたもの。友達はそんな私のペースに合わせて、ゆっくりと歩いてくれる。
「ねぇ、本に書いてあった“秘密の庭園”って、この先かも」
彼女が小声で囁く。私は頷きながら、腐った手でドアノブをそっと回す。軋む音とともに開いた扉の向こうには、古いレンガの小道が続いていた。そこを抜けると——
ふわり。
風に乗って、花の香りが流れ込んでくる。夕陽に照らされた小さな庭園がそこにあった。花々は少し枯れかけていて、それでもどこか懐かしい温もりを放っている。私は思わず息を呑んだ。いや、正確には——腐敗した肺ではうまく息はできないけれど、心の中で「きれい」と思った。
「すごい……ほんとにあったんだね」
友達の声が、柔らかく空気に溶けていく。私は小さく笑いながら頷く。体の一部は冷たくて、ところどころ乾いているけれど、心の中は今、あたたかかった。
レンガ道を進むたび、腐った靴底が小さく土を蹴る音を立てる。夕陽がその足元を金色に照らして、まるで生きているみたいに輝かせる。私はその光景が愛おしくて、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「ねぇ、ここ……人間だったころの私が、好きだった景色に似てる」
ふと口からこぼれた言葉に、友達は優しく頷いた。「きっと、心が覚えてるんだね」
私は少し照れくさく笑いながら、花壇に手を伸ばした。腐敗した指先が、花びらに触れる。少し力を入れると、花が静かに揺れ、花粉が風に舞った。その瞬間——まるで時間がゆっくり止まったように、世界が穏やかで、優しく感じられた。
「腐ってても、ちゃんと感じられるんだね」
「うん。心は、まだ生きてるから」
友達の言葉が胸に染みる。腐敗体の冷たさと、胸の中のあたたかさが混ざり合い、不思議なチルな感覚に包まれた。
日が傾き、空が群青に変わる。二人でベンチに座り、庭園の静けさを眺める。カサカサと、私の皮膚が少し剥がれる音がする。でも、それを気にする彼女の様子はなく、ただ笑って言う。
「ねぇ、今日のあなた、すごく綺麗だよ。光が、ちゃんと似合ってる」
「……ありがとう」
腐敗した頬が、夕陽のせいで少し温かくなる。いや、もしかしたらそれは、胸の奥からこぼれた小さな“幸せ”の熱かもしれない。
日が沈みきるころ、風が少し冷たくなった。二人で立ち上がり、もう一度庭園を振り返る。
花の香り、夕陽の名残、柔らかな空気——そのすべてが、ゾンビお嬢様の心に、確かに刻まれていた。
「また来ようね」
「うん。腐ってても、何度でも」
二人の笑い声が重なり、夜の気配の中に優しく消えていった。




