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第15話


 木本の舐めた提案は当然却下したが、奴は引かなかった。


 俺だって、本当は嫌だ。

 人殺しなんてしたくない。


 でも……話通じないなら、仕方ないよな。


 仲間じゃないし、無関係の他人でもない。ハッキリとしてる、敵。

 倒すべき相手――死なせてしまったとしても、仕方ないことなんだ。


 覚悟は決まってるが、最終確認も兼ねて木本に尋ねる。


「木本さん」

「お? 気が変わった?」

「影美のこと、そんなに気に入ったんですか?」

「そりゃあもう。初めて見た時から、加藤君がマジで羨ましいと思ってた」


 木元が気持ち悪くニヤつきながら、そう言った。


「……なら、仕方ないか。諦めるつもりはないってことで、いいんですよね?」

「う、うん。……だから、頼むよ! ユナに何してもいいからさ」


 俺の問いに『何か』を感じ取ったようだが、この変態は、それを自分に都合よく解釈したらしい。

 この期に及んで、まだ舐めたこと言ってる。


 まぁ、いいだろう。

 俺も、自分に都合よく、この状況を利用させてもらう。


「よくわかりました。……そこまで言うのなら、提案呑みます。条件付きで」


 俺がそう言った時――ユナが小さく、ため息を吐いた。

 

 その顔には、「やっぱりコイツも同じか」と言いたげな、うんざりした諦めが浮かんでいた。


「よっしゃ! 条件って? 出来ることならなんでもいいよ」


 木本がガッツポーズして、はしゃいだ様子で尋ねてくる。


「まず、先にユナちゃんと遊ばせてください。今、ここで。……で、その様子、ちゃんと見ててくださいよ?」


 すると、木本がプッと吹き出した。

 


「さっきは偉そうなこと言ってたくせに……。見られながらしたがるとか、加藤君もなかなかやるじゃん」

「あと、大事なことがもうひとつ!」


「え、なになに?」と木本が、ニヤけ顔のまま首を傾げる。


「俺が楽しんでる最中に、木本さんが邪魔しないか、ちょっと不安で……」

「それはないよ。お互い様だし、“兄弟”になるから、ね?」

「念の為……少しの間だけでいいから、『俺の命令じゃなくて、加藤の命令に従え』って、ユナちゃんに命令してもらえますか?」


「ん? それは……」


 木本が言葉に詰まり、悩む素振りを見せた。


 さすがに、簡単に命令権差し出すほどのバカではないか?

 俺の言い方が、あからさますぎたかもしれないな。


「じゃあ、セーフワードも決めるのはどうですか?」

「セーフワード?」

「もし危険を感じたら、“プードル!”と言ってください。……その瞬間、ユナちゃんはフリーズ。俺が満足するまで、その場から動いちゃダメってルールです」


 木本がいやらしく、ニヤリと顔を歪めた。


「なるほど。加藤君、そういうこと詳しいねぇ……エロ孔明じゃん」


 この手の奴は、“オタクっぽい知識”には勝手に納得して、言葉遊びだけで釣れるから操りやすい。

 

「俺の条件、オッケーってことでいいですよね? まさか、童貞じゃあるまいし……意味は理解できてますよね?」


「うん。いいよ!」と、木本が食い気味に、胸張って言った。


 本当にコイツバカだな。

 金玉に脳みそ支配されてるんじゃないか?


 じゃあ……と木本が続ける。


「ユナ、わかったな? しばらく加藤君のオモチャになれ。で、もし俺がプードルって言ったら、ストップで」


 ユナが一段と大きなため息を吐いた。

 

 露骨に嫌そうにしてて、さすがにちょっとショック受けるんだけど。

 本当に手を出すつもりはないのに、『俺とするのが嫌』って言われてるみたいで傷つく。


 ユナは顔を伏せたまま、拳を小さく握った。

 そして――。


「……はい。わかりました」

 

 怒りを押し殺したような、低い声だった。


 ……これで、木本が自滅する準備は完了したけど、本当に命令権譲渡されたのか?


 試しに、「笑え」とユナに命令したら――。


 口角を引き上げて、作り笑いを顔に貼り付けた。


 よしっ! 上手く行ってる。

 でも……なんて顔してんだよ。


 笑ってるはずなのに、見ていられない。こんな命令、したくなかった。


「加藤君、マニアックだねー。俺には理解不能だわ」


 状況理解してないバカが笑って、続けて口を開く。


「じゃ、楽しんで! ちゃんと見ててあげるからさ」


 まぁ、こうして言質も取れたことだし――。

 

「なら……そうさせてもらいます」


 そう返し、ユナを抱き寄せるフリして、耳打ちする。


「嫌なことは嫌って言えばいいし、やらなくていい。だから、好きなことをしな」


 彼女がピクッと肩を震わせる。


「どういうことですか? つまり……」


 だから、ちょっとした『アドバイス』をしてあげた。


「わかりました。なるほど」


 彼女は隠そうとしてたけど、表情がパッと明るくなった。


「ちょっと……お願いしたいことが」と、彼女が木本に言った。


 一番槍はユナに譲ってやろう。

 だから、俺はそのサポートをする。


「あぁ、カメラマンして欲しいとか?」

「そうじゃなくて、ここに立ってくれませんか?」


 ユナが上手く指示出して、ちょうどいい位置に誘導。


「膝に手ついて中腰になってください」

「え、なにこれ。どんなプレイ? ていうか、3Pってこと?」

 

「SMプレイですよ。あ! 勿論、木本さんがSでこちらがMです」と、俺が“教えてあげた”。


「そっか」


 木本がニヤニヤしながら、中腰になった。


 ユナに目配りすると、軽く頷き、続けて口を開く。


「あとは、目瞑っててください。『いいです』というまで」

「俺が目瞑るの? 何するか教えてよ」

「それを知ってちゃ、つまらないでしょ。すぐわかるんで、リラックスしててください」


 説明してやりつつ、従順すぎる木本があまりにもマヌケなので、笑い堪えるのが大変だった。


「もしかして、木本さんSMしたことない……なんて言わないですよね?」


「いや、さすがにあるから」と、答えながら木本が目を瞑る。


 コイツ、ちょっと煽るとすぐ乗ってくれるから、本当操りやすいんだよな。


「そうですか。じゃあ……始めます」


 そう宣言して、ユナに視線を送る。

 頷いた彼女に、迷いはなかった。


 ユナが軽く助走をつけて木本に近づき、次の瞬間――。


 ドッッ!


 鋭く跳ね上がったつま先が、木本の股間にめり込んだ。


「あっぅ!?」


 うめき声みたいな悲鳴が、木本の喉から搾り出される。

 全身が硬直し、まるでコントのように半歩浮き上がると、膝から崩れ落ちた。

 床に倒れ込んだ木本が、股間を押さえてうずくまる。


「ぐっう! ……かはっっ……」


 理想的なポジション、理想的な助走、理想的な角度から入った、パーフェクトな急所蹴りが完璧にクリーンヒット。

 しかも、人外の脚力で蹴り上げられたんだ、一瞬身体が浮いてたぞ。


「もっと泣き叫んだり、絶叫すると思ってたんだけど……意外と根性あるな、お前」


 額に玉のような汗を浮かべて、足元に転がっている木元に言った。


「く、ふぅっ……な……なんで?」


 奴が過呼吸みたいになりながら、呂律の回らない口調で尋ねてくる。


「さっき木本さんも納得してたでしょ。自分がSで、俺らがMでいいって」

「そ……そう、だけど。……違う。意味が違う」

「違わねえだろーが! 俺らがマスター(Master)で、お前がスレイブ(Slave)だ!」


 言い放って、木本の頭をグリグリ踏みにじった。

 ※第16話は、残酷描写・暴力描写・性描写がモリモリなので、そういうのがニガテな方は無理せずスキップして、第17話から読んでください。

 17話の冒頭で、内容軽くわかるようにしておきます。

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