表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/18

第13話


 俺たちの席の前に立った、年齢不詳の不審者みたいな男が口にした。


「お兄さんも、あのアプリ使ってますよね?」


 ――“あのアプリ”。間違いなく、エーテルリンクのことだろう。


 お兄さん「も」ってことは、コイツもユーザーってことか。


 一瞬、どう反応すべきか迷う。

 素直に認めていいのか? でも、もし敵意があるなら、こんなふうに話しかけてこずに、最初から襲ってきたはずだ。

 ってことは――とりあえず、話くらいは聞いてやってもいいか。


「使ってます」とだけ答えた。


 すると、男の顔がパッと明るくなった。


「よかった! やっぱり! 俺以外の選ばれし者、初めて会いました。いやー……本当、嬉しいなぁ。ぜひ仲良くしましょう!」


 ハイテンションで捲し立ててきて、ちょっとウザい。


 というか、ユーザーのことだろうけど、『選ばれし者』って……中二病かよ。


 影美も苦笑いしてて、目が合った瞬間、「ダメだこりゃ」と、肩をすくめるジェスチャーをしてきた。


「なんで俺もアプリ使ってるとわかったんですか?」と、テンションに水を差すように尋ねた。


 それは……と、男が影美を指差して答える。


「この子が使い魔だってすぐわかったので。めっちゃ可愛いし、浮いてるっていうか……人間じゃないって、雰囲気でわかりますよね」


 影美が目を細めた。

 可愛いって言われたけど、嬉しくなさそうだ。

 ま、当然か。


 男はベラベラと続けて口を開く。


「この子、名前はなんて言うんですか? あ、この子もお兄さんが命名した感じですか? 俺の時もそうだったので! この子も可愛いけど、俺の使い魔も結構いけてるとおも――」

「そろそろ買い物向かった方がいいんじゃない?」


 影美が男の話をぶった斬った。


 助かった。

 俺もそろそろ限界……というか、周りの奴等にこんなのと知り合いだと思われたくない。


「そうだな。じゃ、すいませんけど」とだけ言って、半ば無理やり席を立つ。……が、男も当然のようについて来た。


「あ、邪魔してすいませでした」と、言いつつ、俺の伝票を奪おうとしてくる。


「もう仲間だし、びっくりさせちゃったんでお詫びに奢らせてください」

「いえ、本当に大丈夫なんで」


 借りをつくるのも嫌だし、それ以上に関わりたくない。

 そう思って断ってるのに、男は謎にしつこく、伝票に手を伸ばしてくる。


「そこまで言うんなら、奢ってもらったら?」


 影美が呆れたように吐き捨てた。


「そうですよ!」と、男が嬉々として伝票を奪い取り、自分の伝票とまとめてレジに差し出す。


「……じゃ、ご馳走さまです」とだけ言い、影美にグイグイ引っ張られるまま、足早に店を出た。


「なんなのアイツ? キモすぎ。絶対自分の使い魔に手出してるタイプだよ」


 早足でディスカウントストアに向かいつつ影美が愚痴る。


「わかるわ、それ。100パーモテないタイプだよな。なんか影美のことも、そういう目で見てそうだったし」

「そう思ってるんなら、もっと怒ったりしてよね」


 影美でも、守ってほしいって気持ちはあるのか。

 俺も少しは信頼されてるみたいで嬉しくなった。



 俺らが今来ている総合ディスカウントストアは、一階が家電や食料品売り場で、二階は衣服や雑貨売り場になっている。


 まずは、影美の部屋着を買おうと、二階で服を物色していた。


「コレとかいいんじゃない?」


 影美が手に持った、上下セットのパジャマを身体に合わせながらきいてくる。


 グレーの無地がシンプルなシャツと、太もものところがゆったり目のパンツだけど、影美に似合ってて可愛い。

 ……ただ、パンツが結構ショートだから、目のやり場にちょっと……困るような。


 ぐちぐち言うのは恥ずかしいし、「似合ってる」とだけ答えた。


「じゃあこっちは?」


 ほとんどさっきのと同じに見えるけど……色がちょっと違うくらいか。


「んー……影美なら、何着ても似合うよ」

「ちょっと、真面目に考えてよ」


 俺に、美少女とこんなやりとりする日が来るとは……めんどくさいけど、ちょっと幸せだと思った。


「気に入ったなら両方買ってもいいぞ。もっといい店行った時にも買ってやるから、着やすいやつ選んだら?」

「なら、この二つで」


 そう言って、カゴにパジャマを放り込んだ。


「他に服は? 普段着は必要ないか?」

「着替えてもいいけど、スマホに帰還したらその時着てる服消えちゃうし、今の服装が基本だから」

「やっぱりそういう感じか」


 便利だけど、気分転換したい時とか困るよな。

 そんなこと考えながら、買い物楽しんでいたわけだが、聞きたくない声が割って入って来た。


「あ! よかった! やっぱここでしたか」


 さっきの馴れ馴れしい不審者が、俺たちを見つけて駆け寄って来た。


「うわ……出た」


 影美が汚物でも見たかのように顔を顰めた。


 奢られたわけだし「さっきはどうも」と、一応礼は言っておく。


「いえいえ、こちらこそ」


 男は返すと、当然のように買い物カゴを覗き込んできた。


「へぇー……パジャマ可愛いですね。でも、あそこにあるやつの方が似合いそう」


 そう言ってニヤけながら、指をさした方にあるのはコスプレコーナーだった。


「ちっちゃくて可愛いし、スク水とかランドセル装備させたら、めっちゃ似合うと思うなー」

「……そうかもしれないけど、俺たちはそんなんじゃないので」

「えー! 勿体無い……こんなにかわい――」

「悪いけど! 忙しいので、また今度で」


 発言ウザすぎて、今度は俺が話を遮った。


 男が少しムッとした表情になり、不満げに言う。


「忙しい……ですか。この後、なにか用事でもあるんですかねぇ?」


 コイツ、今までもこうやって皆んなに避けられて来たんだろうな、と察せられるような反応だった。


「見ての通り、買い物で忙しいので。な?」

「うん」

「あぁ、そういうことですか」


 男が影美の方を見て、勝手に何か納得したように呟いた。


「デートの邪魔しちゃって、ゴメンネ」


 影美に向かってニヤつきながら、猫撫で声で言ってきた。


 二人で買い物してるだけでデートって……恋愛脳すぎだろ。

 今時小学生でもそうは考えないだろうに、本物の童貞か?


「そんなんじゃないから。あと、邪魔って自覚あるなら大人しくしてたら?」


 影美がすぐに否定した。


 なかなかキツイ返しに、男が眉をピクつかせる。


「ハハ、可愛いけどなかなか言うね」

「ま、俺らはヒマじゃないんで。……連絡先だけ交換して、お開きにしましょう」


 こんな拗らせた童貞とはいえ、貴重な情報源だ。

 まったく絡みたくはないけど、連絡先交換くらいはしてやろうとスマホを取り出してエーテルリンクを開くと――。


 チャットのトークリストに『ユナ』という名前が追加されていた。


「ユナって? 変なことしたっけ?」


 俺の問いに、影美が「してない」と、首を横に振った。

 

「あ、ユナは俺の使い魔です」


 つまり、アプリが勝手にコイツの連絡先を登録したってことか?

 そうなると……。


「じゃあ、このカゲミってのがお兄さんの?」


 男が自分のスマホ画面見せながら尋ねてきた。


「違うって。エ・イ・ミって読むの」


 影美がちょっとキツイ言い方で訂正した。


「影美ちゃんか。名前も可愛いね! っていうか、アプリが自動で連絡先交換してくれるなんて、初めて知りました」


 男が軽口叩きつつスマホを操作して、『よろしくです!』と、俺にメッセージ送信してきた。


 昼間、西尾と連絡先が交換出来てたの、影美と鬼姫が操作したからかと思ってたけど、こうやってユーザー同士で絡むだけで交換されるとか、厄介かもな。


 俺からは『また今度遊びましょう』と返信しておいた。


「連絡先も交換したし、今日はこのへんで……ってことで」


 さっさと失せろって、伝わるように、少しだけ語気を強めて言った。


「……そっすね。じゃ、デートの邪魔しちゃ悪いし、邪魔者は消えるとします」


 背を向けかけたその時、急に思い出したように振り返る。


「あ! そういえば、お兄さんの名前は? 俺は、木本(キモト)タクミって言います。拓くに、己で、拓己。よろしく」


 振り向いて、名前尋ねつつ、興味ないのに勝手に自己紹介してきた。


「加藤です。じゃ、さよなら」


 名字だけ伝えて、適当に手を振る。

 影美は「バイバイ」と言いながら、露骨にシッシッと手を振っていた。


「いやいや、二人ともなんか冷たいですって。もう! まあ、いいですけど。また会いましょう!」


 ヘラヘラしながら、そう吐き捨てて、やっと去って行った。


 でも……すんなり引き下がる奴とは思えないんだよな。


 それからは、やっと買い物再開。

 服以外にも日用品とか、お菓子とか、影美が欲しがったものを色々と買い込んだ。


 変質者に絡まれた後だったけど、影美と一緒にカートを押して歩いてるうちに、少しずつ気分も戻っていった。


 で、買い物を終え、寮へ戻る前に一人で、トイレに寄ったのだが――。


「へへ、また会いましたね。やっぱ選ばれし者って引かれ合うんですかね? 能力者的なアレで」


 俺が用を足して手を洗っていたら、木本がトイレに入ってきて、まるで偶然を装うようにニヤつきながら言ってきた。


「……いや。お前、俺らを尾けてただろ。なんか用?」


 コイツ、別れてからもずっと、距離をとりつつ、ついて来てたんだ。

 反応してやるのも面倒だし、キモい以外に害は無いから無視してたけど。


 少しイラついて問い返すと、木本が慌てた様子で口を開いた。


「あ、すいません! 変な目的じゃないです。その……お互いがWin-Winなことっていうか、お互いがハッピーになれる提案っていうか……」

「はぁ? 分かるように言えよ」

「まぁ……その、こういう感じのことです」


 そう言って木本がスマホを操作した瞬間――

 奴の隣に、影美と同じくらいの歳に見える少女がふっと出現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ