EP.6 剣聖・モルカリア③
ガンーー!
聖剣が邪神の両指にあっさりと止められた。
「よく先の攻撃を躱したね。まあまあ本気だったけど」
「邪神に…褒められても嬉しくないわ…!」
ギシギシ…
全身の力を入れても、邪神に一撃入れるところが、指すら傷付けられない。
「さて、邪神に反抗するとどうなると、分からせないとね」
ラグドエリザの冷酷の言葉に、モルカリアは焦った。
(私の力じゃ…まだ不足というの?)
レガスの方を見る。ここで勝たないと、真っ先に彼が死ぬ。何回も助けられて、それ以上に「邪神の味方」と非難された時、自分の数少ない味方をした人。
そんな彼に、恩以上の感情を感じる。
だからせめて、彼を救わないと。
「諦めるな!」
「…!」
「君はここで終わるべきじゃない!少なくとも、俺には君がこれからも必要だ!」
レガスの声が届く。心が温かくなる。ああ、人の温もりって、こんな感じだね。
ふっと、何か枷が解かれた音が、脳の中…あるいは魂の中から聞こえた。
「何あれ?まさかあれは人間がよく言う告白ってヤツ?キモチワルイ。もういいや、殺…」
ラグドエリザが心底から嫌がってる様子で、モルカリアに視線を戻す。
ーーその時だった。
「ーー聖剣、開放ーー」
「え?」
シューー
一閃。
鋭い音と共に、ラグドエリザの左手から胴体まで切り裂かれ、黒い血を大量に噴出しながら分断された。
「う…そ…?」
地に落ちていくラグドエリザが見上げる。先いた場所に、敵対対象の女が持ってる剣が、最初の時と違う状態になってる。元々若干神聖な力を持ってるその剣は、今や完全に金色に包まれ、神々しいオーラを放ってる。
そしてこの時に初めて気付いた。彼女の両目は自分と同じーー邪神の目ということを。
●
邪神に斬撃を入れたモルカリアはそのまま空中から着地した。
俺は素早く彼女の方へ向かい、状況を確認する。
「…モルカリア!無…」
「レガス!無事なのね!」
「って、うお!?」
俺が声を掛けるより先に、彼女が俺へ声掛け、さらに抱きついてきた。
「ど、どうした?」
「よかった…本当に良かった…」
「…よしよし。俺はまた生きてるから」
彼女を安心させるように、背中を優しく撫でる。
【安心すんのはまだ早いじゃないかな】
「「…!!」」
ラグドエリザが落ちた倒壊した建物の中から、彼女の声が響く。
その直後ーー
ゴゴゴ…
地面が大きく揺れ始めた。
「…地震!?こんな時に…!」
「…いや、違う!これは強い力による共鳴だ!気を付けろ!アイツが本気出すぞ!」
まるで俺の言葉に呼応するように、目の前の建物が爆発し、どす黒い力が溢れ出す。
「く…なんで負の力…!」
モルカリアは気圧された。そう、今この段階じゃ、モルカリアはまだラグドエリザより弱い。
そして、
「でも大丈夫、私にはこの聖剣あるから!あなたは絶対、私が守る!」
その言葉を残して、俺の目の前で死んだ。覚醒したばかりの力を過信し、さらに敵の本当の実力を誤って判断した…俺は最初そう思ったが、今は分かる…彼女の判断は間違ってなかった。
彼女はただ俺を、他人を救うために、逃げる選択肢を完全に捨て、戦うことだけを選んだ。
「…いや、ずっと君に守られていては、『大予言者』の名が廃るだろう。ここは一緒に戦おう」
「…うん!」
【遺言は済んだ?だったら始めよう】
禍々しい力を纏ったラグドエリザは俺たちに近づく。いつの間にか、両断された体を何事もなかったのように直した彼女は、ゆっくりと伝える。
【第2ラウンドを】