EP.1 998回目ー始
隣国の邪神顕現の兆しを一瞬で解決した俺は、そのまま転移を使って星願都市へ戻った。
片手をコーヒーに、町を散策する。
整列した建物、緑に溢れる公園、それに加え静かな街道。穏やかな場所だ。定年になったらこういう場所に住むのも悪くないと思えるほど。
ただ、この静げさの原因、もっとまともなものだったらよかった。
人が、誰一人もいない。
街中に聞こえる音は、ショッピングモールや大型ビルの上に設置された放送用モニターの内容だけ。
その内容は、
「ではレガス様、どうぞこちらに!」
「ああ」
「本日のご来場ありがとうございます。さっそくですが、今日のテーマ『最後の終焉』について色々伺いたいと思います。数々の終焉を予言し、そしてそれらを乗り越えたレガス様は、先日『最後の終焉』を発表なされました。他の終焉と違い、敢えて『最後』を付けたのは何故でしょうか?」
放送されてるのは、俺が今日登場する予定のニュース番組だ。アナウンサーの言う通り、俺は先日「最後の終焉」の予言を世間に発表し、世界中に万全の準備をしろと促した。
もっとも、その先日というのは、何回目の先日かもう覚えていない。
レガス・アインシューー数々の終焉を予言し、そしてそれらを乗り越えた人。今や「終焉の大予言者」と呼ばれ、世界中に注目されてる。
その正体は、何百回も終焉に負けて、死んで、死ぬ度に時間を逆行し、最初からやり直す、突破口を探すというただの負け犬だ。
空を見上げる。青空が今日も広く澄み渡っていく。いい天気だ。その日と比べれば断然ーー
●
この世界は千年前以上から、人間が俗に「天使」と呼ばれる「天聖族」と「魔物」と呼ばれる「魔星族」と共存してる。
そしてある日、大災厄が起きて、全世界が力を合わせてそれを乗り越えた。その後、人種、さらには種族を超え、お互いは協力できるということは証明され、世界平和の象徴として、暦法を「全世暦」という名に、そしてもう一つの証としてこの「星願都市」ーー「ユ―グ」が作られた。
それが俺が生きるこの時までも続いている。今年で999年だ。これまでも多くの災難あったが、しかしそれらも全種族力を合わせて打ち勝った。
そう、この平和、今までも、これからも続いてく。誰もがそう信じてる。そしてーー
最初の終焉は、前兆などなく、不意にやってきた。
時間はまだはっきり覚えてる。
最後の終焉の日から999日を逆算するあの日ーー2年前のあの日、あれが来た。
空、あるいは宇宙から降りてきた。各国は初めは隕石と考え、今の魔法技術、聖術技術、人間の科学であればさほど問題なく対応できると誰もがそう思った。それに規模は小さいのと、落ちる地点は海のど真ん中、周りに人が住む島などない。安心できる。
が、その隕石は大気層を突破した瞬間、今まで観測したことのない膨大のエネルギーを発生し、ユーグへと軌道を急変更した。
その動きから人間は知った。あれは隕石などではなく、明らかに意識を持つ「何か」。
ただそのことを悟った時点でもう遅かった。
「何か」が数分の間に星願都市に衝突し、ユーグを守る最強の守護術ーー「ワールドガード」を破った。しかし、「何か」はそのまま地面にぶつかることなく、ユーグの上にただ浮かんでる。この時やっとその「何か」の正体を確認できた。
黒い宝石ーー隕石と呼ぶにはあまりにも華やかで綺麗な外見を持ってるあれは、宝石と呼ぶのが一番合ってる気がした。
そしてその宝石から急に黒い霧が放出され、人の形に変わっていく。
あれは、人間が初めて目にした邪神の姿だ。
9人の邪神ーー身長も外見も何もかも違うアイツらは、共通点と言えるのが、人間では敵わない力を持ってることと、全員女性の外見を有するということだけだ。
そして人の形を形成させた彼女達の中の一人は、宣言した。
「私たちは星を奪いに来たわ。奪われたくなければ抗ってみなさい。もし見事私たちに勝ったら、ご褒美あげる」
星を奪うなどと、皆そう思った。しかしそこから始まったことは、決して冗談じゃなかった。
最初に攻撃態勢取ったのは剣聖・モルカリア。そして同時に最初の犠牲者でもあった。
5分も持ったない、あっけなくバラバラ死体にされた。それを目の当たりにした彼女の仲間全員は、怒りに満ち、抗うことを決心した。
結局徒労に終わった。みんな死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。
そして俺も。今こそ強くなったが、最初時の俺は守られる側だった。
彼女と出会うまではーー