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なろうラジオ大賞6

笑わないルームメイト

作者: 壊れた靴

 私のルームメイトは笑わない。正確に言えば、私は彼女が笑ったところを見たことがない、だけれど。

 学生の頃からのルームメイトが結婚を機に出て行ったため、倍増した部屋と家賃への対応として招いたのが彼女だ。

 元ルームメイトの知人でもあるらしい彼女を私は知らなかったけれど、出会った時には丁寧な物腰と穏やかな口調に好感を抱いたし、その点は今も変わらない。

 出会って一年近く経つし、食事や余暇など一緒に過ごすことも多い。家事も進んでしてくれるし、生活するうえで非の打ち所がないのだけれど、彼女はその柔和な雰囲気に反して微笑することすらない。

 何か触れられたくない理由でもあるのかと、本人には尋ねることも出来ずにいる。

 ある時、私は昇進を知らされた。普段はお酒を飲まないが、お祝いということで一緒に飲んで欲しい、と彼女にお願いしたところ、もちろん、と快諾してくれた。

 浮かれたためか飲みすぎてしまった私は、僅かに紅潮した彼女の顔を眺めながら、とうとう笑わない理由を尋ねてしまった。

 彼女の言葉によると、幼い頃、笑顔を見せたせいで、両親が事故で亡くなったということらしい。

 どうしてそのように思うのかと尋ねると、当時から笑っていなかったけれど、事故の前日は彼女の誕生日で、一日笑っていた記憶がある、とのことだった。

 それからは、それまで面識もなかった親戚に育てられたらしい。その親戚からも笑わない子とされ、厚遇は受けていないように聞こえた。

 思うところがあった私は、週末に彼女を連れて、彼女の育った親戚の家に向かった。

 その親戚が彼女を快く思っていないことはすぐに分かった。腹立たしく思いながら、彼女の両親が遺したものがないか尋ねると、蔵にまとめてあるとのことだった。

 許可を取って蔵を捜索し、苦心の末に一冊のアルバムを見つけた。やや離れて探す彼女に気付かれないよう、中を確認する。予想通りだった。

 彼女にアルバムを渡す。最初は驚きの表情を浮かべていたが、頁をめくるたびに泣きそうな表情に変わっていき、ついには涙がこぼれた。

 アルバムの全ての写真で、彼女を見守るような笑顔の両親に、幼い彼女は満面の笑みを浮かべて成長を重ねている。

 両親が亡くなったうえに、見知らぬ大人に囲まれた環境で笑えるわけがない。大人の陰口に、彼女の記憶は書き換えられてしまったのだろう。

「ありがとう」

 目に涙を湛えながら、ぎこちなくも笑顔を浮かべる彼女に、私も笑顔を返した。

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