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第3話「行きたかった店がだよ!?」

浜松町にはビルや会社がたくさんある。その分飲食店もたくさんある。

ある土曜日のこと。俺は一人浜松町に向かっている。でも休日出勤だからという訳ではない。2週間ほど前にいつも聴いているラジオで知ってから行きたいと思っていた店に行くのだ。


駅のアナウンス「浜松町ー。浜松町ー。ご乗車、ありがとうございます。」

休日昼前の浜松町。平日朝と比べて人が少ない。

光綺(さてと…)

その店は出勤時に通る区画にはない馴染みの薄い場所にあるため、スマホの地図アプリで店名を調べて向かう。


光綺(寒っ…覚悟はしていたがやっぱりビル風が酷いなあ…)


線路沿いのラジオ局を右に見て、路地を進むこと5分ほど。

光綺(ここか… お店の場所は…)

「焼きそば専門店 東葉とうよう」。様々な味付けやご当地の焼きそばが味わえる人気の店だ。

店員「いらっしゃいませー。」

光綺「ラジオ聴いて来ました。」

店員「ありがとうございます。」

開店してから時間がまだそんな経っていないのか、俺の他にお客さんはいないようだ。

カウンター席に着く俺。席に備え付けてあるメニュー表を開くのだが…

光綺(待ってこんなにメニューの数あるの!?)

そのメニューの数は、先週スマホで店を調べた時に見たものよりもたくさんある。よくあるソース焼きそばや塩焼きそばや、カレー味やヨーロッパ風など初めて見るもの、後は日本各地のご当地焼きそばなど、とにかく焼きそばが好きな俺からすると非常に迷うくらいだ。


光綺(どれにするかなあ…)

メニュー表をひたすら見る俺。

光綺(おっ!これめっちゃ旨そう!)

俺は一つのメニューに興味を惹かれた。「富士宮焼きそば 卵のせ」。卵を乗せた焼きそばを食べたことのない俺。富士宮焼きそばもしばらく前に見ていたアニメで知って以来ずっと食べたいと思っていた。値段も980円とお手頃だ。(ちなみに卵なしだと930円)


光綺|(よっしこれにするか!)

俺は店員さんを呼び、その「富士宮焼きそば 卵のせ」を注文した。その後調理が始まる。店内に漂うソースの香りがとてもたまらない。


およそ10分後。

店員「はい。ご注文の富士宮焼きそば 卵のせです。」

光綺「ありがとうございます。いただきます。」

店員「ごゆっくりどうぞ。」


富士宮焼きそば 卵のせ。メニュー表で見るよりもかなりのボリュームがある。結構な食いしん坊でカレーは必ずおかわりする俺でも、これ1杯でお腹いっぱいになりそうなくらいだ。


光綺(すっげえ… いただきます。)

卵のせの焼きそばを初めて食べる俺。卵は生卵で、焼きそばの麺のもちもち感と生卵のトロッと感が非常に合う。またこしょうの味も良いアクセントになっている。


焼きそばを食べ続ける俺。まだ食べ始めて半分も経っていないが、この時点でもう既に「またこの店に来ようかな」と思うくらいには旨い。

すると、

店員「いらっしゃいませー。」

店のドアが開くとともに、次のお客さんがやってきた。

音に反応しやすいと言われる俺。店のドアの方に目をやるのだが…


紫織「あ!鷲造さん!」

光綺「え!?た、喬松さん!?」


その店に来たのは喬松さんたちだった。石幡さんと、あと葉村(はむら) 幾里(いくり)さんという方と一緒だ。同じ広報チームである3人。俺も度々一緒に仕事や会議をしているところを見たことがある。

日菜里「こんにちは。」

光綺「こ… こんにちは…」

幾里(いくり)「鷲造さん。お疲れ様です。」

光綺「お疲れ様です…。」


休日に学校や職場の人たちにたまたま会うなんてもう何年ぶりのことだろう。もうその時点で既に俺はびっくりなのだが、相手が喬松さんということで何重にもびっくりだ。

光綺(あわわわわわわわわわ…)

幾里(いくり)「もしかして… ちょっとびっくりしてますか?」

光綺「あ… は… はい…」

急に店に来た喬松さんたちの影響で、俺の頭は大パニックだ。


光綺「皆さん、ここにはよく来るんですか?」

紫織「はい。去年葉村(はむら)さんに勧められて以来よく来るようになりまして。」

幾里(いくり)「私焼きそば好きなので。でも一番来るのが紫織で、紫織ったら今やすっかりここの常連なんですよ。」

紫織「えへへ…」

光綺「そうなんですか。おr…私はここは初めてで。」

幾里(いくり)「何で知ってんですか?会社帰りに通ったとかですか?」

光綺「いえ… あの… ラジオで知りました。」


葉村(はむら)さんとの会話は問題なく進む。しかしその中で今の俺からしたら衝撃の情報が明かされた。それは何よりも、「この店が喬松さんの常連の店である」ということだ。

光綺(おいおいおいおい俺が気になってまた行きたいと思っている店がだよ!?喬松さんたちの常連の店だってこと!?)


俺は必死に自分の心を落ち着かせようとする。はっきり言って食事どころではない。

光綺(落ち着け… 落ち着け俺…)


平静を装い食事を続ける俺。焼きそばの味は感じられるが、喉を通るかどうかは微妙なところだ。

店の出入口ドア近くの4人掛けの席に座る喬松さんたち。何を頼むかが大体決まったようだ。他の2人が何を頼むかは耳に入ってこないが、喬松さんが何を頼むのかは俺の耳にスイスイ入ってくる。


紫織「―カレー焼きそばをお願いいたします。」

光綺(カレー焼きそばか… あ、あかんあかん!)


喬松さんが何を頼むかについて耳を傾けてしまっている俺。いけないと思い意識を食事に戻す。まあでも、カレーが好きな俺からしたら、カレー焼きそばも食べてみたくはあるのだが。


それからしばらくして、

店員「お持ちいたしました。濃厚ソース焼きそばの方。」

日菜里「ありがとうございます。」

店員「カレー焼きそばの方。」

紫織「はい。いただきます。」

店員「バター醤油焼きそばの方。」

幾里(いくり)「はい。ありがとうございます。いただきます。」


3人のところにも食事が運ばれたのが聞こえてくる。


日菜里「これめっちゃボリュームありますね。」

幾里(いくり)「そうなんですよ―」

3人の会話が意識しなくても耳に入ってくる。楽しそうなのが分かる。

そんな中でやはりつい気にしてしまうのは、喬松さんのリアクションだ。

紫織「いただきます。」

光綺(…)

紫織「待ってとても美味しい!」

幾里(いくり)「紫織これ初めてだよね?」

紫織「はい!カレーの味付けがとても合ってる感じします!」


とても美味しそうにカレー焼きそばを食べている喬松さん。富士宮焼きそばを完食しつつある状況だというのに、カレー焼きそばを食べたいという欲がそそられてくる。


そうこうしている間に俺は富士宮焼きそばを食べ終えた。お腹はもうすっかりいっぱいだというのに、カレー焼きそばも行けてしまうんじゃないかと思える節すらある。


光綺「ごちそうさまでした。皆さん。また。」

3人「お疲れ様です。」

俺はお会計を済ませて店を出た。

店員「またのお越しをお待ちしております。」


気持ちを落ち着かせながら浜松町駅に戻る俺。駅に戻った俺はふと、喬松さんや石幡さんがどこかの店で食事をした時の料理の写真を社員ブログに乗せているのを見たことがあるのを思い出す。まだ俺が喬松さんに恋をする前の段階での話だ。


スマホを取り出し、社員ブログにアクセスした俺。一瞬喬松さんの名前で検索をかけようとするのだが…

光綺(いやここは…)

東葉とうよう」で検索をかけた。


やっぱり記事がヒットした。「焼きそば専門店 東葉とうよう」という喬松さんの去年7月の記事がヒットした他、石幡さんも「東葉とうようで食事をした」という記述が含まれる記事が複数ヒットした。その石幡さんの記事では、やはり喬松さんや裏富さん、それに葉村(はむら)さんと一緒に食事に行った旨の記述がある。


そのうちの喬松さんの去年7月の記事を見る俺。その時に喬松さんは海鮮塩焼きそばを食べていた。

実はさっき3人が店に入った際に俺はなんとなく「あの様子では3人は休みの日も一緒にどこか出かけたりすることがあるのか?」と察していたのだが、それは見事に的中した。さっきの3人に加えて裏富さんも一緒であるとの記述があった。


社員ブログからログアウトする俺。

光綺(なんか俺、間違った社員ブログの使い方したような気がするわ… まあでも、カレー焼きそばとか海鮮塩焼きそばも食べてみたいなあ…)

なんてことを俺は思っていた。


駅のアナウンス「2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。」

家に帰る俺。まあ何にせよ、「東葉とうようにはまた行きたい」と気持ちが変わることはなかった。


それから2週間後の土曜日。俺はまた東葉とうようを訪れた。

光綺「―カレー焼きそばで。」

店員「かしこまりました。」


940円のカレー焼きそば。あの時喬松さんが言っていた通り、カレーの味付けと焼きそばの麺のもちもち感がとてもよくマッチしている。


光綺(やっぱりめっちゃ旨いなあ…)


「好きな人が食べていたものと同じものを味わっている」という点を抜きにしても、カレー焼きそばはとても美味しかった。

-今回初登場の登場人物-

葉村(はむら) 幾里(いくり)

紫織と那月の同僚。入社3年目。26歳女性。広報チームで仕事をしている。「日菜里会」の一員。

山梨県出身で就職を機に上京。現在は豊島区内で一人暮らしをしている。

性格:一見すると無口に見えるが、意外とおしゃべり好きな性格。

趣味:料理・神社巡り

特技:料理・唎き酒・唎きサイダー。唎酒師の資格も持っている。

誕生日:10月3日

好きな食べ物:うどん・焼きそば

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