書いてみた8 (ミックスジュース ラディオとアイリ)
書いてみた8
こんなとき、縮地の力が使えたらなんて思う。所謂空間移動の術だ。それを使えることができれば、今探している人を感じるだけですぐに跳んでいけるのだ。まぁ一応来年辺りにはその基礎を習い始めるので遅かれ早かれ教わるのだが、それでも今はその力が使えたらと思う。アイリは碧の館や、食堂他にも地の巨塔に顔を出しながら、なんでこういうときにかぎっていつもの定位置にいないんだとぶつくさ文句をいう。わりと目立つ容姿のその人物の足取りを、学園でも最大規模の情報網をもつアイリが追えないでいた。
「あいつ、どこいったのよ!ほんとにもぅ!」
歩き疲れて顎に伝った汗をぬぐった。ぱたぱたと制服をあおぎ、身体に風を送るが汗がぴたりと貼り付くシャツが気持ち悪い。肌が透けているのが周りの生徒が思わず振り向いているがそんなことは気にならない。額にかかる髪をかきあげて、くりくりした瞳をさらす。その瞳は油断なく視線を周りに配っていた。
なんということだろうか!
アイリは歩き始めながら心のなかで嘆く。その話を聞いたとき、とても沸騰してしまうかと思った。
『ラディオってたまに黙ったまま優しいときあるよな。勉強でわかんなくて唸ってたらさー、ほっぺた撫でてきて、教えてやるから唸るな、って。おかんかよ!みたいな。』
ユーリちゃん、あんたはそれでいいのか!
そんで、ラディオ!お前はどさくさに紛れてなに触ってんだ。ユーリのふわふわほっぺに触っていいのはぼくだけなんだから!
ユーリは慣れてないから、分かんないかもしんない。男なんて全員オオカミなんだって!ラディオだってどうせ例外じゃないあのむっつり。ぼくはわかるってか、ぼくならほっぺに指をあて、その弾力を楽しみながら顎まで。そしてその顎を、ついと指で上げさせるのだ。そしたらユーリはきっときょとんとした顔でこちらを見つめかえすだろう。指が触れた頬は、血色よくピンク色をしていて、唇は少しだけ開いていて、白い歯がちらりと垣間見える。それに欲情しない男はいない。キスまで一直線だ。ぼくならそうする。
なんてぼくが考えるようなこと、あいつなら絶対考えたに違いない。今回は何もなかったが、今後もそうとは限らない。今のうちに釘を指しておかないといけない。
「くっそ!ラディオぉ!どこぉ!」
いつのまにか、校舎の裏側まで来ていた。そこにはあまり使われていない庭園があり、夜は密かなデートスポットにもなっていて、対して昼は日当たりがいいことからサボりの昼寝場所にもなっていた。
「…………アイリ。呼んだか?」
はぁはぁ、と荒く息をついているところに背後から聞きなれた声が返事をした。勢いよく振り向くとやはり目的の人物で。優雅にベンチに座り午後の読書タイムをたのしんでいたらしい。
「よんだ!よんだってか探した!なんでいつもの場所にいないのよ、この引きこもり!」
「随分な言われようだな」
「あったり前よ!ラディオ、あんたユーリのほっぺたに触ったんだって?!」
「………………んん?それはどの時点の話だ?」
「……………まて、お前まさか」
「あいつのほっぺた気持ちいからな。」
「この、この!変態!!!」
明かされた衝撃の事実。まぁアイリにとって、なのだが。対してラディオは変わらない表情のなかに慣れたものならわかる、きょとんとした目でアイリを見つめた。
「なんか悪かったのか」
「あったり前だ、でしょ?!あんな知識なしの無防備な女の子になんてことしてるん、のよ!」
「お前、男出かけてるぞ、口調に。」
「う、う、うるさーい!下心まるわかりなんだよ!このむっつりぃ!」
ラディオは開いていた本を閉じる。
「下心、かまぁないとは言えないかな」
「いけしゃあしゃあと」
「ユーリ、かわいいからな。あの性格も相まってたまにぐっとくる」
「わかるけど!押し倒したくなるけど!」
とにかく、無防備なのだ。自分みたいなのを好きだってやつの気はが知れないとかいって、自分はその対象外みたいに思っているから、たまにそれに乗っかってよからぬ奴らがタカってきたりする。だってここは外から遮断された魔法学園。男子生徒が只でさえ多いのに、姓に対して過度に反応する年頃の彼らが発散できる場所はあまりに少ない。
「俺だって、好きなやつに触れたくなる時ぐらいあるだろ」
しれっとなんの恥じらいもなくそんなことをのたまうラディオに、アイリはだからこそ心配なんだよ!という。
「大体、俺だけじゃないだろ?用心する相手は」
「あぁん?」
「ジャスラだよ。アイツだってこの前ユーリに迫ったんだぜ?」
面白そうに口角を上げながらアイリの反応を待った。
「ジャスラが?」
「ジャスラが、食堂で」
アイリはふん、と鼻をならした。それはこの前のジャスラがシャツを汚してユーリが拭き取ったあれのことをいっているのだろう。それくらいもう情報は入ってきている。
「ぴゅあぴゅあボーイにそんなことできるわけないでしょ」
「やっぱり?」
「ジャスラはどうせキサラにも手を出せないチェリーなんだから、心配ないんだ。問題はあんただよ、あんた」
「なにいってんだ、健全だろ」
「どの口がいう。さりげないボディタッチがイヤらしいんだよ。あんたみたいなのは、えっちのとき前戯長いんだよね」
「レオみたいだろ」
「………………なんで知ってんの」
「声、だだ漏れだからな」
ぼぼ、と顔を赤らめるアイリをラディオは物珍しげに上目使いで見上げ、見つめる。声のボリュームだけを聞いてたら、聞かせてんのかコイツらばりなのだが、案外と行為に夢中すぎて気が付いていないだけとみた。これはこれは。レオがベタぼれするわけだ。
「とにかく!禁止!ユーリにはあんまりベタベタしちゃ、だめだかんね!」
「確約は出来ないな。たまに可愛すぎて我慢できないときあるし」
「やだもうなんなのあんた!」
アイリがきぃ!と声をあげて髪をかきむしる。ムカつくぅぅと普段の女の子仮面を剥がして悔しがる。
分かっているのだ、別にラディオがユーリをどうこうしようとか思っていないことくらい。触れる指にも表情にも情愛の念が込められていることくらい。大事にされているし、ユーリもラディオを頼りにしていて、かけがえのないものだと思い始めてることくらい。
分かっているのだ。
「ユーリやキサラのこと一番分かってんのはぼくなんだから」
「当たり前だろうが」
「むっかつくな!お前」
「前々から不思議だったんだが」
ラディオは閉じた本を膝におき、背筋を反らす。足を組んで、アイリを切れ長の瞳で見つめた。それが異様に様になっているのが悔しい。アイリはなんだよ、と呟きながら見た目だけはマトモなんだからこれだからむっつりは困る、と口のなかで呟きに付け足した。
「なんでそうも大事にしながらお前のモノにしないんだ?」
ぶつぶつ呟いていたアイリの唇が止まった。すぅ、と細くなり、纏う雰囲気がガラリと変わる。それはまるでアイリという存在がくるりと裏返されたかのように唐突に鮮やかに。目の前にいるのに、急に姿が見えなくなったかと思うほどの変わりように身体が臨戦態勢をとろうとする。
「うるさいな、関係ないだろ」
声は男のように低い。思わず気圧されてしまうほどに。そしてその言葉からアイリがいかに彼女らを大切に大切に思っているかを知る。背中を汗が伝うのを感じる。詰めた息をゆっくりと吐いて、緊張を逃がした。
「これは失礼な質問をしたな」
「全くだよ」
「安心しろ、お前が出来ないことを代わりにしておいてやるよ」
「………………っ!」
ベンチから立ち上がり、自分の胸の高さしかない頭をぽんぽんと叩いた。わしゃりと髪を乱す。まったく、一体何を背負っているのだか、力が入りすぎて只でさえ男にしては華奢な肩がさらに小さく見える。精一杯毛を逆立て威嚇する猫のようだ。もう虐めないから、と撫でてやりたくなる。そういう意味も込めて先の言葉を発した訳だが、どうやら逆効果だったらしい。
「こんの、変態野郎!」
アイリが素晴らしい俊敏さで飛びかかってきた。避けることもできずに二人でその場に倒れる。前にもこんなことあったような気がする、と腕で身体を支えながらラディオの腹の上にうつ伏せになるアイリに声をかけた。
「大丈夫か」
「大丈夫なわけないだろ、ばっかじゃないの」
いて、と身体を起こし、擦りむいた膝に息をかけながら涙目でラディオを見上げた。
「お前が飛び込んでくるのが悪いんだけどな」
「うるっさいなぁ、分かってる、よ」
傷口に入った砂を払いながら、ふと視線を上げる。そしてラディオの背後を見て、ぴたりと固まるアイリ。どうしたんだ、と視線を追って振り替えればそこに。
「レオ」
銀色の髪の好青年、銀色の貴公子、優しい笑顔がトレードマークのレオの姿があった。にっこり笑いながらその下に何を潜ませているのか。
「痴話喧嘩?」
「「ちがう!」」
身体を金縛りにあったかのように強ばらせながら、それでも首だけは必死に否定の振りをする。その時、レオの後ろから件の女の子が顔を出した。
「なにやってんだ?あ、ラディオ!探してたんだぜ。アイリ?怪我してんのか」
「う、うん!転んじゃったの。」
「ラディオと痴話喧嘩しながらね?」
「レオ!ちがう!違うからね」
「まぁなんでもいいけど、ルシアン探さないとな。アイツならさっき食堂にいたぜ」
「連れてってあげるな?」
アイリが立ち上がるのをレオがにこやかな笑顔を張り付けたまま手伝う。
「なんで俺を探してたんだ」
「ん。勉強おしえて。宿題の範囲」
「わかった。お安いご用だ。良くできたらなでなでしてやろうな」
「…………っっ!ラディオ、てめぇえ!きゃう!」
「ほら、暴れないの」
暴れるアイリをレオが横抱きに抱え上げる。落とされないようにと思わずレオの首に手を回すアイリ。
「今日、なんか変だな」
「そんなことないだろ」
さらっとユーリの頬にかかった髪の毛を払いながらラディオはにやりとアイリを見やる。レオの胸のなかにいながらアイリはかぁっと頬をあからめ、
「ぢぃぐぅぅじょぉぉぉお!!!」
「大人しくしようなー」
レオに連れ拐われていった。それを見送りながらユーリ。
「どうしたんだ、アイツ」
「さぁね」
知らぬは本人ばかりかとラディオは口のはしに笑いを含ませながら落ちた本を拾い、砂を払った。そして隣に立つユーリに声をかける。
「行こうか。何処がわからないんだ」
「んー?全部」
「時間がかかりそうだ」
アイリが戻ってくるまでに、何度彼女に触れることができるだろうか。まぁあの様子だと明日まで会うことはなさそうだろうから、その心配はないんだろうな。
心の中でその算段をつけながら、ユーリの隣を歩いて行く。
追記
「何にもされなかった?!」
「……………されたのはお前だろうが」
次の日、アイリは朝一番ユーリにずんずん迫っていくと朝の挨拶もすっとばし、鬼気迫った表情でそう訪ねた。ユーリは身体を反らせながらも、何を言っているのか分からないといった風だ。されたかされてないかでいったら断然お前だろうが。朝、鏡見てきたか?ってほど隠す意思もないのか夥しいほどのキスマークが施されていた。いっそ恐ろしい。
「ラディオに、だよ!勉強のついでになんかヤラシイこと、されなかったかって聞いてんの!!!」
「いや、まぁいたって普通だったんだが。いやまぁ、懇切丁寧に手取り足取りちゃんと教えてもらいました。」
「テトリアシトリ!むきゃーーー!」
「大体、ヤラシイってなんだよ。ラディオがそんなことをあたしにするわけないだろー」
「じゃ、聞くけど!顔に触れられたのは何回?!」
「あー、なんか昨日髪の毛がえらく乱れてたみたいでさ、何回も払ってくれたな。唇にも食べかす付いてるからって取ってくれたな」
「っっっっ!!!!あ、あ、……………」
「大丈夫か?過呼吸?」
アイリが大きく息を飲んでから俯いて意味のない言葉を発するのを見て、心配したのかその顔を覗きこむ。その心配している顔があまりにも可愛くて、叫ぼうとしていた言葉をごっくんして、あの、むっつりやろう………とため息をついた。
「保健室行くか?」
「………………大丈夫だよ………」
アイリはそれだけをいうと、ユーリの頬に触れて、ありがと、と笑う。やっぱり気持ちいい。ふにり、とその柔らかさを確かめる。噛みつきたくなる。蕩けるほど柔らかいにちがいない。
「あぁ、おはよ、」
その時後ろからラディオが来た。
「おはよう、ラディ、」
二人の言葉が途中で切れた。ラディオが固まったまま目の前の光景に目を丸くする。ユーリの頬にアイリがキスをしているのだ。ちゅ、と可愛らしいリップ音をたててその食べてしまいたくなりそうなおいしそうな頬から唇を離す。
「ユーリはほんと、可愛いね」
あとでね、とその場を離れるアイリを見送りながら、ユーリはラディオと目を会わせた。
「なんだ、あれ」
「……………………あのやろう………………」
ユーリははじめて、ラディオが声を荒げるのをきいた。
END
ちなみにアイリは、膝の傷を思う存分舐められて、そのあとエッチにもつれ込まれた。
ラディオはこのあとユーリに迫ろうとして、キサラにぶっとばされた。
なんてね?笑笑