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まほろく短編集  作者:
8/23

書いてみた7 (女子トークならぬ男子トークなどいかがでしょうか?)

書いてみた5


 夜も大分更けてきた。ジャスラが食堂からこっそりくすねてきたワインを久しぶりに男子三人だけで呑み交わそうという話になり、消灯時間になってからジャスラの部屋に集まった。

 レオはワインにあうつまみを作って持参し、ラディオも自前の酒を持ってきた。ジャスラの部屋は案外と片付けられていて見た目に反してきれいだった。意外だよなというとそうだろと得意気な顔をする。こうやって誉められて喜ぶところがジャスラを年齢よりも幼く見せている由縁だろうか。彼らのレベルになると部屋も他の下のクラスの生徒に比べて少しだけだが広い。その部屋を趣味のよいだけど男の子らしい色合いの本棚やベッドが置かれているのだ。窓のそばには小さなテーブルがありそこに戦利品が並べられた。

 ひじ掛け椅子にラディオが座り、まずはワインをとグラスにそそぐ。ジャスラは自分のベッドに腰掛け、レオは柔らかな絨毯の上に直接座った。いつもの配置につくと、したげるわまずは静かにグラスを煽る。

 静かな夜だった。

 4年だ。

 もう出会って4年になる。ラディオは舌に痺れる余韻を残したまま飲み下すを繰り返しながらグラスをあけた。

「相変わらずペースがはやいよ」

 レオが優しげな笑顔でラディオを見上げた。銀色の髪が艶やかに月の光のなかに浮かび上がる。胡座をかいて、こてんと頚を傾げながら見上げてくるのが中々扇情的だった。まぁ俺にそのケはないんだけどな。アイリと付き合うようになってさらにそれが磨かれたような気がする。レオとはなんで知り合ったんだっけ。そうだ、入って早々声をかけられたんだった。たしか、塔の場所がわからないから、一緒に行こうかだったか。あの頃も変わらずの美少年だった。今でこそこんな妖しい気配を放つときがあるが、本当に純粋で学年では天使なんて呼ばれていたのを知っている。なんでそれが、俺みたいな無口なやつに声をかけたのかは分からない。だけどまぁ1つ分かるのは、こいつは天使なんてもんじゃないってことだろう。アイリ

に対するヤンデレっぷりは見ててある意味羨ましいほどである。

 風の力の持ち主としては知っている中でなら10本の指にはいる。この学年だけでいえばほとんど一番だろう。だがやはりまだ戦闘経験が少ない。上位の学年からみたらまだまだだ。だがこれから彼が外にでて、足りないものが備わったとき上位騎士隊に入るのも夢ではない。

「ジャスラはあんまり飲むなよ………ってもう遅いか」

ラディオがレオに反応してジャスラの方を向くと、もうすでに出来上がった状態だった。やっぱり限界はグラス一杯らしい。グラスを両手に持ち、とろんとした潤んだ瞳で光に照らされて紅く縁取られた酒を見つめている。頬はこの年齢の男子にはあるまじきほど滑らかである。一部の女子がこぞって撫でまわしたがるのも分かる気がしないでもない。この前、居眠りしている彼の頬を手の甲で撫でてみたが、やはりすべすべだった。ユーリのそれも綺麗で滑らかなの(アイリ「触ったのか?!おい、触ったのか?!あーもぅ!油断もすきもならねぇな!」)だがそれとはまたちがう男の子らしいイキイキしたツヤハリだった。(キサラ「確かに気持ちよさそうだよな。ちっちゃな子みたいで」)

 その件の頬が仄かに紅く染まっていた。両手でグラスをチビりと扇ぐ。ぴちゃぴちゃと舐めながらのんだ。ぼう、としていると幼く、静かだ。

 二人は顔を見合わせる。レオは苦笑し、ラディオは鼻で笑う。

「弱いなら、飲まなきゃいいのに」

「それじゃ寂しいだろ。」

 二人は暫く無言で酒を飲み交わす。無言が心地よい。いつもこうやってジャスラが酔って黙りこむと二人は静かに酒を酌み交わす。レオがラディオのグラスにワインを注ぐ。

「ノアの事件も終わったし。で、どうなの。ユーリとは上手くいけそう?」

 唐突にそんな質問を投げ掛けて来たので、ラディオはごくん、とワインを味わいもせず飲み込んでしまった。少し度数の強いそれは焦りからか焼けるように胃に落ちていった。

「……………」

 静かにレオを見つめてみるが、にこにこと笑顔を返される。

「質問の意図がイマイチわからんけど、コミュニケーション大丈夫かって言われるなら、まぁそれなりに、だと思うけど。わからん。」

 近くはなく、それでいて遠くはなく。ユーリとの距離は並んでベンチに座ったときの荷物ひとつぶんの間だとおもう。恋人ほどくっついてなくて、他人というほど離れてはいない。そんな感じ。

「ユーリは癖あるからなぁ」

「……………言いたいんだが、アイツらの中で癖ないやついるのか」

「………それもそうだな。」

 レオはあはは、と笑う。わらってるけどお前も十分だと思うぞ。少なくとも人の事は言えないんじゃないか。

 なんて口には出さないけど。

「でも、作れる味方は作っておくべきだ」

 レオはグラスの曲線を指でなぞりながら呟くようにいった。つるりとした丸い女性的な曲線を優しく。まるで愛撫しているかのように。縁をたどり、曲線をなぞり。ついで、唇に近づけ、中身を飲み干す。

 人が物を食す時が官能的なんだと聞いたことがある。なるほど煽った液体を喉に流し込み、喉仏が上下し、唇の端に少し溢れた液体を舐めとる。そんなレオを、その口元を見ながら体の裾がもぞりと疼く気がした。

「今後なんかあったときに。信頼できる人間が必ずいるようになる。そんときのために、俺はずっと。」

 膝をたて、腕をまわす。それに顔を埋めて小さくだけど聞こえる大きさで呟いている。

 確かに、と思った。後々、何かあったとき。それぞれのしがらみが悪さをし始めたとき、使える仲間は多い方がいい。ジャスラはこの学年で一番の力を持つし、レオは扱いのむずかしい風を使える。キサラはこの学年女子のなかで一番の強いし、アイリはその情報収集能力と学園一の人脈をもつ。ユーリは学年でも珍しい他属性使いだ。ルシアンは医療部のなかで高位の医術師だし、夢見部でも心強い仲間ができた。

「でも、でも。俺の過去の亡霊にお前らを巻き込んでいいのか俺は分からないんだ。アイリを、危険にさらしていいのかって分からないんだ。なぁ、ノアの時思ったんだ。強い。アイツらも、お前もこいつも、強い。だけど、」

 だけど、とレオは言葉を詰まらせた。

「………………。」

「…………俺は、利用するためにここにいるんだろうか」

 レオはそれだけを紡ぐと、一気にグラスを空けた。そしてまた満たす、飲むを繰り返す。

 その時、もぞりとベッドの上でジャスラが身動きした。レオが煽ろうとしたワインを取り上げ、自分が飲み干す。すっかりおちていたと思っていたジャスラを驚きの瞳で見つめながらレオは空のグラスを受け取った。ぐい、と口を袖でぬぐい、酔いが回って焦点の定まらない赤らんだ目元をレオに向けながら、言うことを効かない舌を何とか動かし言葉を紡ぐ。

「いーんらよ、おれは、おまえらがらいすきなんらから、ろんろんりようすりゃいい。おまえらのためらったら、おれはなんらってしてやるんらから、えんりょすんな。」

「ジャスラ………」

「こんろ、そんなよわきなこといってみろ、こうしてやるんらからな」

 ジャスラはレオの手をとり、口元に持っていく。ちらりと舌を見せてから鋭い犬歯で人差し指に噛みついた。レオを伺いながら力を強めていく。

「………っ!ジャスラ、いたい」

「…………、わかったか!おしおきらからな!」

 レオの指に噛みあとがくっきり着いたあたりでようやく解放する。レオは暫くそれを見つめると、にやりとジャスラを見上げた。

 おしおきという言葉を放って、どや顔をしている彼を見つめ返し、レオはにやりと笑う。

 あ、そういえばさっき、結構勢いにのって煽ってやがったよな、と一連の出来事を眺めていたラディオは足を組んだまま成り行きを見守る。

「ありがと、ジャスラ。でもさ、噛むなんて酷くないかな?みて、みてジャスラ。こんなにあと残っちゃったよ。いたいな、ね、慰めて?」

 じり、とベッドの上のジャスラに躙り寄っていく。ジャスラは何を言われているのか分からないようだ。酔いが回っているせいでしかも限界の一杯目をこえ、2杯目も飲んでいるのだ、そろそろ前後不覚になっていてもおかしくない。レオはそれを分かっているのかいないのか、ジャスラに迫り壁に押し付ける。ネクタイの結び目に指をかけ、端正な顔を赤らめながらその首もとに息を吹き掛けた。

「ね、お願い?」

 あ、こら喰われるなとジャスラに御愁傷様、と呟く。決してレオを止めることはしない。起きたときになんと声をかけようか。おめでただろうか、それともお赤飯炊かないと、だろうか。それはどっちが上になるか、見届けてからにしようかと酒を追加していると、

「おまえらー!おきてんのかー?………って、ぶわぁはははははは!何だよそれ、ジャスラ、レオにせまられてんじゃん!あははははははは!いーねいーね!」

「は?!何それレオどーゆーこと?僕って彼氏がいながら!」

「ちょ、もー眠いんだけど、引っ張るなよ、キサ、ら…………………………」

 突然扉が開き、三人が飛び込んでくる。どうやら彼女たちも飲んでいたらしい。全員それなりに顔を酔っぱらいの表情にさせて乱入してきた。キサラは床に手をつき、叩きながら大笑いしているし、アイリはグラスに酒を足しながらレオに膝詰め説教をはじめた。ユーリは限界が来たのか部屋の隅の方にあった大きなクッションに、丸まって寝はじめた。今しがた喰われかけたジャスラはきょとんとした顔のまま眠たいとぐずりはじめた。それをみてさらにキサラがどこがツボったのかまた大笑いする。その隣でアイリがさらにヒートアップしていた。

「阿鼻叫喚」

 ラディオはうむ、と納得すると部屋のすみに丸まるユーリを視界にいれながら飲み続ける。先程のレオの話を思いだしながら。自分の抱えるものの大きさを測りながら。その寝顔を見つめた。その頬はやっぱり気持ちよさそうだった。

 夜も更けたというのにすっかりどんちゃん騒ぎになったジャスラの部屋に寮長が怒鳴りこんでくるのはこれはもう時間の問題であった。

 だけど、いまはまだこのままで。

 今だけはまだ。


 それぞれがそれぞれを大事に思っている、今はまだ。





 光源は、ランプの光それだけだった。それだけの光で彼は自分の周りに広げた羊皮紙を読みといていく。ようやく手に入った情報に喉がなった。期待と不安と抑えきれない好奇心が溢れそうになる。これを手にいれるまでに何ヵ月、いや何年かかっただろうか。食い入るようにそれを読み続ける。

 物置と言えばそうなのかもしれない。古い箒やバケツのようなものが転がっているし、時代遅れの大小様々な魔法器具は使い古された様子で半壊したまま転がっていた。その手頃な大きさのそれを椅子がわりにして長い羊皮紙を辿っていく。上の方にぽつりとある小さな窓からは月がぽっかりと覗いていた。どこからかくる風が蝋燭の火を揺らがせる。今日は風が強いらしい。

「…………………あれ、ま、なんてこと。」

 外見に似合った仕草で口元を隠しながら、彼は驚きをこめて声をあげる。

「軍に?貴族。お次は国ときましたか。なんてこんな濃いのばっかりあつまっちゃったんですか。」

 力強い味方が揃ったんだと思ったのに。

「救いの勇者が疫病神なんて笑えないなぁ」

 ほんと、笑えない。

 せっかく捕まえたカモだったのに。

「深入り、させないようにしないといけない、」

 ずきん、と胸が痛んだ。昨日付けられたキスマークが疼くのだ。甘い余韻が残る身体に愛おしさを感じるのだけども、知ってしまった彼の過去が頭をよぎる。

 自分に繋がる人物の経歴が詰まった羊皮紙を巻き取りながら、自分だって大概じゃないかと苦笑いする。痕が疼く。それを身体に刻み付けた相手の顔がくにゃりと歪む。

「利用、するだけしてあとは関わらないように。それが一番かな」

 くにゃりと歪んだ笑顔が元にもどらない。愛してるといった、その言葉が間延びして思い出せない。やめて。

「二人を守らないと。」

 生き残った、たった三人。それが僕の家族。

「ごめんね、レオ」

 自然とついてでた言葉に気がつかないまま、羊皮紙を隠す。普通に隠してもばれてしまうから、お得意の光を使ってその屈折で見えなくしてしまう。ランプを持って、古めかしいもう濁ってしまって使えない鏡に近づいた。手をつくと、それをおしやって鏡の向こうに消え去って行った。



END

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