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まほろく短編集  作者:
13/23

書いてみた11 (無料で女子トークもどきを提供致します)

ネタバレあり、キャラ背景設定の短編

書いてみた9



 何が大事って、今この時間だよ。あの頃の私たちは何も何も知らなかったのだ。無邪気にただ過ぎる時間を一生懸命に生きていた。今この時この、一瞬を。

 あの村はずれの大楠はいまでもあそこにあるだろうか。

 過ぎた時間を取り戻せるときはいつか来るのだろうか。

 それがとても不可能なことだとわかっていても、やっぱり望まずにはいられないんだと、あの頃の夢に身体を浸す。

 後悔と絶望と憎しみと喪失感に苛まれながら。


 春の日差しがその大社に降り注いでいた。

「この子らが今年生まれた子かえ?」

「そう。とっても元気そうなこばっかりでしょ?」

 道行く人たちが、縁側に広く開けた畳の部屋で動き回る赤ん坊の顔を見て立ち止まる。この村の風習だ。閉鎖的な村なので、そこに生まれた子供は村全体の子供同然だ。そのため、村の人たちはその新しい顔ぶれを見に、わざわざこの大社まで足を運ぶ。

「あれ、あんたの子だね」

「どうして?」

 黒髪の女、この中のどれかの母親なのだろう、は微笑みながら一際はやく動き回る白い布の塊を見つめている。

「どう考えても、あの動きは赤ん坊のそれじゃなかろ。お前さんの生まれた頃を思い出すの。2代目はもっと厄介そうさねぇ」

「あら、どういうことかしら」

「どういうことか、詳しく語らせてもらおうか?」

 母親は黙って微笑んだまま、その塊を目で追う。陽の光が差し込んで、照らされた頬は艶やかに健やかに紅い。暫く見ていると、その塊は障害物に阻まれる。同じ衣装をきた障害物は何事かとぶつかってきたその子の顔を見つめる。

 見つめる。

 だぁ!と二人は急に座ったまま背伸びをして腕を振り回した。緩慢な動きだったが、確実に互いの顔を目掛けての手の振り方だった。傍に控えていた他の母親がおろおろと二人の間に入ろうとした。

「いーのいーの、ほっといて」

 奥のちょうど日陰になっているところから別の母親が声をあげた。

「今からどっちが強いよか分からしておいた方がいいんだよ」

 腕を組んで、口角をにやりとあげた不敵な笑い方だ。

「あらぁ、いってくれるじゃない。私の子供が負けるとでも?」

「逆に聞くが、あたしの子供が負けるとでも?」

 黒髪の女も口元に手をやり、優雅に微笑みながら何やら不穏な空気を放つ。その間も赤ん坊どうしは接戦を繰り広げていた。

「バカなこと言ってんと止めやんかい」

 神主だろうか、袴姿の男が間に入り、ばたつかせる小さな手をつかんだ。あぅと抗議の声をあげる二人をため息と共に見つめながら、

「そんなとこまで似やんでええねん。」

 頂くのは見た目だけにしとき………と。

「なにすんだよ!マサト!!ここで未来の敵をつぶしとかねぇと!」

「そうよ、マサト。貴方のお節介はほんとに的はずれだわ。」

 母親二人からあがる抗議を、言っても仕方ないと思ってか一瞥をくれて放っておく。なおも頂上決戦を止めようとしない二人の赤ん坊を胡座をかいた両膝にのせて、宥める。

「喧嘩なんかしぃな。お前らは家族同然なんや。この村全部でお前らを迎えてやるからな。」

 膝に乗せてもらっているのを羨ましく思ったのか、他の赤ん坊達がいそいそとよってくる。胡座の真ん中に顔を突っ込んできた子を受けとめ、三人並べてやり、その回りにも赤ん坊を座らせてやる。

「これからもこの村で大きく育つんやで。」

 えーな、と厳つい顔を綻ばせながら、陽の光の中その人は笑って、赤ん坊達のの頭を撫でてやる。 


 冬の足音はもうすぐそこまで来ていた。

「ね、ねぇ。」

 後ろから呼び掛ける声が聞こえて、二人は後ろを振り返った。そこには小さな声に違わないか弱そうな人影がいた。くりくりとした瞳が二人を見つめている。服の裾を握りしめて、今にも逃げ出しそうに身体が後ろに引いていた。

「あんた、えーっと」

 振り返った幼い黒髪の少女は名前を思い出そうととんとんと眉間を叩く。幼いくせにやたらと大人びた仕草をつかう。

「ぼく、身体が弱くて外にでられなくて、それで……。」

「あ、あんたか。」

 少女は合点がいったように、ぽんと手を叩く。今まで身体が弱いとかで外に出られなかったのだ。この村全ての子供が幼なじみなのだが、この子供にだけは中々会えなかった。

「男って聞いてたけど、女だったんだな」

「………え、ぼく、」

「ま、いいや。遊ぼうぜ」

 名前を思い出そうとした方の黒髪の少女がその手を引く。

「うん、遊びたい」

 二人は今まで緊張していたのか、ようやく強張った表情をやめた子供を見て、笑い出す。その子を間に挟みながら大人たちが微笑ましげな笑顔を向けてくるなかを歩く。稲穂は金色で、収穫はもうすぐだった。家での煩わしいお手伝いも終わった。今からは自分達の時間だ。

「なにして遊ぼっか」


 私と、ユーリと、アイリ。私たちは、幼い頃からずっと一緒にいた幼馴染み。

 どちらかというと女尊の気のある村だと思う。女が強かった。男の子なんて手足のように使うものだと思っていた。少なくとも私とユーリは。だからこそずっとガキ大将足り得たのだろう。もしかして、今アイリが男の娘をしているのはこの頃の影響かもしれないなんて思ったりする。喧嘩相手にしていた男の子をことごとく返り討ちにし、村の子供たちの頂上に上り詰めた頃にはもう、彼は女の子のかっこをしていた。

 うん、十中八九私たちのせいだな。

 ユーリは小さな身体で身軽にばったばった蹴っては殴り殴りは蹴ってをして、私は私で回し蹴りが得意だったなぁ。村の年長者から、二代目って呼ばれてた。お母さん、何してたんだろう。

 今はそんなことないんだけど、当時は身体の弱かったアイリといるときは、慣れない気の遣い方してた。日頃はしないお花遊びも、お人形遊びだってした。あんまり楽しくなかったけど。男の子っぽくなって同じ目に遭っては敵わんとか思ったんだろう。真偽のほどは定かではないけど。

 いつも三人でいた。三人でいることが当たり前だった。

 初めてのことはなんでも三人でした。村の祭りにもこっそり夜抜け出して参加した。

 私たちは家族だった。


 男子メンバーが部屋飲みをしているその同時刻。女子メンバーもユーリの部屋に酒を持ち込んでいた。

「特になにもしてないけどー、おつかれー」

「おつかれー」

 かちん、とグラスがなる。大小様々な酒瓶が持ち運ばれていた。どれだけ飲む気なんだろう。だれも突っ込む人間がいないから、三人はそれぞれの酒の瓶を傍らに一先ずアルコールを煽る。

「久しぶりだね!なんかこんな風に三人で話すの」

「なんでか最近はずっとアイツらと一緒にいるからな」

「あれか、昇級試験が近いからお互いのコンディションの探りあいだろ」

 ユーリとキサラのそんな台詞に、アイリは手元を手で覆い、二人から見えないようにほくそ笑む。

「哀れな奴等め!」

 無論、ジャスラとラディオである。

「ってかさ、確かにそろそろ試験のこと考えなくちゃだね。今年はT級入り目指したいもん。」

 キサラがグラスを回しながらいった。何とまぁ様になっていることか。

「あとちょっとで毎回総合点が足りないんだもんなぁ」

 ユーリもクッションを胸に挟みながらちびちびと緋色の液体を口に運び、野菜スティックをぽりぽりとかじる。相変わらず小動物みたいに飲み食いする奴だ。

「ぼくは二人にはやく追い付きたいよ。あんまり早く行かないでよー」

 唐揚げをぽいっと口に放り込み、頬を膨らませながらもぐもぐとするのはアイリ。大好物は唐揚げ。おかずにもおつまみにもなる唐揚げの偉大さを改めて噛み締めていた。

 キサラとユーリがA級Tに比べて、アイリは一人A級Bだ。力的に二人に及ばないところがある。

 実力差なのは分かっている。

「二人とも、すごいねぇ」

 もちゃもちゃと唐揚げを頬張らせながらすごいと繰り返す。そんなアイリを二人がじっと見つめて思う。いろいろ、本気でやってないくせに。

 アイリはいつもそうだ。幼い頃の反動なのか、二人よりも前に出る気はないらしい。いつも一歩後ろから二人を追ってくる。口だけでは待ってよ、置いてかないでよ、と笑いながら言うが、その実どこまでその気持ちが本当なのかは分からない。

 キサラはユーリ目配せすると、彼女も小さく頷いてきた。いわく、余計なことは言わない。

 強くなれとは言わない、本気を出せとは言わない。アイリはアイリなりに考えていることがあるから。キサラやユーリが心に決めたことがあるように。

「でもま、確かにちょっと考えた方がいいよな。今度の筆記問題つくんの誰だっけ」

「シルヴァ先生でしょ。ちゃっとヤバイね、勉強しないと。」

「あ、それなしになったよ。なんかシルヴァ先生急に出張になったからかわりにレシア先生だって」

「学校側は昇級させてくれないらしい。」

 うむ。とキサラが顎に手をやりながら呟いた。

「残念ながら、今年は降級するやつ多いかもね。あたしは絶対昇級してやるけどな」

 ここで、ぐびりとグラスをあおぐ。ユーリの顔はすでに仄かに紅い。

「ここで一番強くなって、アイツを、倒してやるんだ。」

 グラスの隙間から呟いた言葉は、するりと部屋の空気に溶けて広がった。

「そうだね」

 アイリがぽん、とその小さな肩をたたき額を擦り付けた。もう一度、そうだねと繰り返す。

「まぁでもその前に」

 アイリがそのままの姿勢でユーリで耳元で囁いた。

「年頃の女の子なんだから、昨日とおんなじシャツってどうなの」

「…………いいじゃん。仕方ないじゃん。シワ伸ばすの忘れてたんだよ」

 ユーリが明後日の方向をむく。

「2日くらい変わらんって」

「そうそう」

 キサラの助け船に乗っかるユーリ。仕方ないなぁ、とアイリは身体をはなす。2日くらいじゃ確かにどうにもならない。むしろ、何が問題って。

「ユーリの香りがつよい………」

 皆、使うシャンプーなんかは大体一緒だ。こだわる生徒もいるけれど、ユーリやキサラがそんなことにこだわっているわけないので、基本皆とおんなじ香りがするはずなのだが。

 甘いはだの香り。

 それが1日染み付いたシャツからもユーリ自身からも香ってくるのだ。

 レオとは付き合ってはいるが基本的に女の子が好きな健全な男の子のアイリは、その馨りにやられてしまいそうになる。

「え、くさい?」

「昨日の夕飯ニンニク入ってたからね」

「そらやべーな。」

 そんな理性と戦うアイリを尻目にキサラとユーリが二人でくんくんと互いを匂いあう。匂わないけど、と呟きながら肩口に鼻をよせている。

「全然大丈夫じゃん…………って、何してんの」

「無自覚ってほんと、罪だよね」

 可愛らしいユーリと美しいキサラがお互い向かい合って顔を寄せあっているのだ。これが眼福と言わずなんであろうか。お酒をガバッとあおり、頭を抱えながらそばにあったユーリのベッドに潜り込む。

「自分の容姿に無頓着で、超がつく天然。ほんととりつくしまもねぇな!」

「アイリ、アイリ。素がでてるよ。隠しきれてないよ」

「今までそんな二人をいっちゃん傍で見てたのに今までちゃんと我慢してたんだよ!もうほんと自覚してよぉ」

 どんだけ理性が飛びそうになったか知ってる?と吠えられてなんのことか分からない二人は一先ずアイリの両脇に座り、その背中を叩いた。

「ほらほら、唐揚げだぞ?うまいぞ」

「もっと飲んじゃいなーほらほら」

 酒のグラスと唐揚げを両方からかわいこちゃんに差し出されてしまえば頂く他に選択肢などない。

「食べさせて」

「しゃーねぇなぁ、ほら。口開けろ」

 あーんと言ってくるその口元が無防備なんだって。そんなこと、本人に言ったって仕方ないことは自分が一番よく知っている。そして、反対側からはキサラがどっくどっくとグラスに、酒を注いでくる。

「のんでのんでー」

 美女が注いでくれた酒、飲めないわけがない。アイリはヤケクソのようにそれをおもいっきり煽る。キサラが無感情におぉ、と呟いてくるのを喉をならす隙間から聞いた。

 ぷは、と息をついた。

「いい飲みっプリだねぇ。もう一杯いかがおにーさん」

「ほらほら、こっちもどうよ」

 交互に食べ飲みさせられて、アイリは次第に頭が痺れるように酔っぱらっていくのを感じる。あぁ酔ってんな、と思ったがだからどうするという意識もすでに薄く、次がれる酒を飲んで餌付けのようにユーリの指から唐揚げを食べていく。

ユーリがあーんと声をかけながら口を開かせる。アイリは悔しげにその唐揚げとあーんというユーリの可愛らしい顔を見比べ、ちくしょうと呟き口を開いて放り込まれるのを待つ。

「うまいかー」

 あんたからあーんされた物ならなんでも上手いっての。

 心のなかで思ったことを唐揚げとともに飲み込んだ。

 前言撤回。この子らをオトせたらぼくあんたらを尊敬するわ。

「ねーぇえ?ちょっと、ぼくをこんなに酔わせてどうすんのさぁ」

「いやとくに。」

「なんか吐いてくれんのか?」

 二人は頬がすっかり真っ赤になりトロンとした瞳で見上げてくるアイリを間にはさんできょとんとする。

「なんなのぉ、ぼくだけこんなんなんのずるぃ」

「ずるくないっておい!キサラ!」

「ずるいずるい。お前も飲め。」

「んだと、ならお前も飲めよ!」

 それぞれのグラスにどばどば酒が次がれていく。それを飲んでは空にし、次がれては飲んで、合間にちゃんとつまみも食べて。いい具合に三人が三人とも意識が混濁していく。

 キサラが気だるげに頭をクッションに持たれかけさせ、ユーリが大きめのぬいぐるみを抱え込む。よった人間というのは、なんともまぁ無防備でいつもは見せない表情を拝める。アイリは瞳が潤み始めた二人を交互に見ては、何となくいけない気持ちになりつつあることを自覚していた。

 二人の顔を同じく潤んだ瞳で見つめていると、ユーリが少し呂律が怪しくなってきた舌でアイリに問いかける。

「昔から思ってたんだが、お前ってほんとに男なんか」

「なにそれ、ぼくを疑ってんの」

 発情しかけてたのがばれたのかと ヒヤリとしながら応える。

「や、そんな、顔してたらどこからどうみても女だよなぁって思ってさ」

「まぁ、男だっていう証拠見たことないもんな」

「あんたら、ちょっとは慎みを持ちなさい」

 男の証拠なんて見せてたらんなもん、ぼくの理性が崩壊するに決まってんだろ。自分らの顔、鏡で見てみろよ。学園の男のほとんどを二人で落とせそうな勢いでフェロモン駄々漏れなんだよ分かってんのか、いや分かってるわけがなかったな。

「いまだにあたしらの方が疑ってるときあるもんな」

「あぁ、それはいえるな」

「勘弁してよ、初恋の人間どもにそんなん見せれるわけないでしょ」

 言ってしまってからしまったと口を噤んでももう遅い。二人の目は爛々と光っていた。

「初恋の相手?なにそれ」

「アイリにもそんな時期があったのかー」

「で、だれだれ?一番美人だったのはレイハだったよね、ほら、ちょっと大人しめの。」

「いや、カオルねーちゃんってのもあるぜ。あの人アイリにだけは優しかったからな」

「あとは男だけど、ケイラとかあいつ絶対アイリのこと好きだった。スカート捲りアイリにだけにしてさ」

「その度にぶっとばしたよなー」

「あーよくとぶんだよな、これが」

 きゃらきゃらと二人は昔話に華を咲かせている。アイリは複雑そうな表情でそれを拗ねた目で見つめていた。

「そらぁ、気づいてねぇな、とは思ってたんだけどさ。ここまでとは思わなかったよ」

 レイハが美女?なにいってんの、村一番の美女はあんただったんだよキサラ!大人から子供まで虜にしてたよ。ユーリ、気がついてないだろうけどね、こまい身長で小動物みたいなあんたはね、年長メンバーは皆あんたを構いたくて仕方なかったんだよ。

 知ってるか?ぼくがどんだけあんたらにかまわれようと必死だったか!

「で、で?誰なの?」

「絶対教えない。気がついてくれるまで!」

 頬を膨らませて、あかんべぇ、と舌をだす。

「なんだよぉ、レイハだろー」

「チサトか?!あれはダメだよ、顔はいいけど性格悪いもん」

「もう勝手に言ってなよ」

 あいつでもない、こいつでもない。

 あーだこーだ言っているのを隣で聞きながら、喉を潤す。

 静かに窓からみえる月を眺めていた。

 しばらくして唐突に話が途切れた。

 ふっつりと糸が切れたように。

 しっとりとベールがかけられたように。

 たまに廊下を歩く人の気配と。

 誰かが遠くで笑う声と。

 学園周辺の広く深い森の木々のざわめきと。

 紡がれる時間の囁きと。

 各々の息遣いと。

 学園の音が3人を包み込む。

 月はそんな全てを吸いとっていくように、紺色の夜空にぼっかりと白い穴をあけている。

「あいたいな」

「とりもどそう」

「どうやって」

「アイツをやっつけよう」

「できるかな」

「やるんだよ」

「やろう」

 何度も繰り返されたやり取りだった。まるで自分達に言い聞かせているかのようだった。目的を思いだし、心に深く深く刻み込むための儀式のようなものだ。

 再び静かじゃない静寂が流れる。

 空のボトルがからんとなった。

「酒がない」

「行く?気分転換」

「行くのか?あたし眠いんだけど」

「あっちもなんかいろいろ調達してたしね」

 知らないことないな、と言ってくるユーリにくすくすとアイリが笑う。キサラもふふと笑うと先頭に立って部屋を出ていく。

「何だかんだ、あたしらも、あいつらのこと好きだよな」

「…………嫌いではないよね」

「お前はレオ大好きだろ」

「まぁねぇ」

 眠たい目を擦りながら、ユーリはアイリの歯切れの悪い言葉を少し不思議に思っていた。キサラもふらりふらりと歩きながら、じっと見つめている。そんな二人の視線に気が付かないふりをして、軽やかに歩き始める。

「はやくいこー」

 このあと、男子メンバーに参加した3人は、さらに酒を追加させ、さらにその騒ぎを注意しに来た寮長を巻き込み大乱痴気騒ぎに発展してしまうのだが、それはまた別のはなし。


 たった3人の家族。

 残ってしまった私たち。

 失った時間は戻らないなんてうそ。

 私たちが成し遂げればいい。

 大事な大事なあの時間を、あの人たちを取り戻す。

 そのためなら、なんだってする。

 なんだって。




追記



 その本はとても古めかしい装丁をしていた。心惹かれるタイトルではなかったのだが、何故だか無性に気になってしまってラディオはその本を手に取った。ずっしりと手に重く、パラパラと埃がまった。侵襲してくる埃に息をくっと止め腕を長く伸ばし身体から離して本を軽くはたいた。

 こんな化石みたいな古書がまだまだ眠っているのだからここの図書館は侮れない。地下にも禁書じみた古書がたくさん眠っているという噂だ。世界中の歴史書、宗教書、文化、思想本、学問書、そんなものが納められているそうだ。

 何処の国でもあった焚書。それをかいくぐりここに納められている。

 ここにくる度にまだ見たことない世界のことを知ることができた。国から出ることを許されないこの身では、これが唯一の外を知ることのできる方法だ。

 ラディオは新鮮な空気をすい、ぺらりと一枚ページを捲った。古い言葉だ。何処の国かは分からないが、この国の古文と形がにていた。所々読めないところがあるものの、大体の内容が伺い知れた。

「…………か、み、も、り…………」

 曰く、神森の一族。神森のとは神守のことだろうか。

「黒髪…………に、黒い瞳…………?」

 珍しい組み合わせの色ではない。

 だけど、頭をよぎったのはあの3人の姿だった。

 同郷で、3人そろって同じ髪色、瞳。珍しいことではない。

 珍しいことではない。

 だけど。

 ラディオはその本を他の貸し出し願いの本に紛れさせて、カウンターに向かう。

 今思えば、何か予感めいたものでもあったのだろうか。

 分からない。

 しかし、これが後々役に立つときがくるとはこの時考えもしなかった。



END

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