書いてみた10 (サブキャラ達のあれこれ②)
本編にさえ出てこないキャラ、いつかは出すが、楽しくて作りすぎてしまう傾向あり。
ディールの場合
湖畔かさざ波だっていた。
そのほとりに立っているものは、女神だと思った。
水滴が、キラキラと日の光に戯れている。そのなかを長い黒い髪がひらりと舞う。白い肌が艶やかに濡れ、広げた両手は穢れなき白い翼のよう。その光景に、思わず目を見張った。
唇は楽しげに弧を描き、そこから紡がれる笑い声は弦楽器のようによく通り、かつ美しい。
ぞわり、と背筋に痺れがはしる。鳥肌がたつ。
この世の者ではないかもしれない彼女が、目を捕らえて離さない光景が、口を開いた。
「だれ?」
とくん、と胸が高鳴った。
「最近さぁ、見られてるような気がするんだよね」
急遽自習になった4年の魔術構成論の講堂内はざわりと賑やかだ。それもそのはずで、それぞれが課題をこなすために友達同士で寄り合ってなんとか課題をこなしている。
講師であるこの学園一の秀才レシアは、今は離婚調停中だとかで外界に行っているそうだ。そんな彼女の出す課題は当て付けか何かかのように量も多くてやたらと難しかった。しかし、
『課題を全て解くことができれば、私に対戦の権利を与える』
黒板にでかでかと書き込まれた『ご褒美』に、他学年に比べ血気盛んで戦闘が好きな学生は熱り立つ。比較的問題児の多いこの学年を大人しくさせるにはこういった方法が一番だろう。目の前に餌を釣られてしまえば、頑張るより他ない。
キサラも例外ではなかった。何てったって、学園一の秀才は、同時にこの10年ほどめったに出なかった高位の称号『金獅子』を持っているのだ。それは上位騎士団の人間だってめったに持っている代物ではない。上位騎士団入隊を考える者ならば、その実力は一度は見ておきたいものだ。
「………ストーカーか?」
この前のラディオのストーカー事件を思い出し、レオは顔をしかめた。
「いやー?……………これ、わかんない」
なんだ、この問題、と呟きながら講義ノートを繰る。レオーと上目遣いに見上げ、答えを要求する。
「これはだな、『ラビィデの構成論』に載ってるピュレマイトスの式を使うんだ」
「………………あ、解けた。さすが神様レオ様魔神様」
「それほどでも。で、話の続きは?」
「あ、忘れてた。何の話してたんだっけ」
「ストーカーかもしれないってやつ」
「違うと思うんだよね、多分。でもなんか視線を感じる」
「それをストーカーと言うのでは」
レオは次の問題に取り組みながら、キサラを伺い言った。
「そうなのかなぁ」
「気を付けないとな。ジャスラには言ったか」
「まだだけど、別にいーじゃん。大事にしたくないし」
キサラも次の問題にうんうん言いながらきっぱりと言った。レオは念のために、
「念のために、一応伝えとくかも禁止ね」
さらそらと次の問題は解けたのか楽しそうにペンを走らせながら、キサラはレオの考えを遮った。びっくりしてペンを止める。
「俺の心を読んだみたいだな」
「そう?すごいだろー」
でも、本当にそんな、感じじゃないんだよねーと、呟く。なんかこう、何て言えばいいのかな、
「キラキラ………………と、してるんだよね」
「キラキラ………………。」
ふむ、とレオは顎に手を当てて考え込む。なかなか理解しがたい感覚だな、とその時は思ったのだが。
あぁ、してるわ、確かに、キラキラ。
「あれ?」
「あれ。」
キサラはふぅ、と軽くため息をついた。
課題を一先ず無事に終えた二人は一足早く提出し講堂の外に出る。まだ終業の鐘は鳴っていないのだが、残っていても仕方ないので次の授業に移ろうとしていたのだ。ちなみに今日の魔法生物学は座学である。同じ建物の5階にあった。レオとキサラは例によって重い扉をくぐり、(今回もちゃんと片手で重い扉を支え、エスコートした。)廊下に出たのだが、その斜め前方の太い柱からこちらを伺う影があった。それを見ての、先の会話である。
「なんかしたの?」
まずは疑ってみるレオ。別にキサラに気を悪くした風でもなくキサラは首を横に降る。レオはキラキラした光線を隠れた風でもなく今尚発し続ける人物をみやる。
「話しかけてみた?」
「この前、使用としたけど逃げられた」
「何したの?」
さぁ、と首をかしげて思い当たる節を探ってみているのだろう、顎に手を当てて考え始めた。また逃げられるだろうから、その人物は放っておいて歩き始めるキサラ。レオはその後ろを歩く。
「来てるよ」
「………………わかんない。私、なにしたのかな」
「どうやら悪意じゃないようだし、本人に聞いてみるか」
隣のキサラを見下ろしながら、レオは口角をあげる。その意図を悟ったのか、にやりとキサラも笑う。
「押して無理なら、引いてみろ、だな!」
そゆこと!とレオはキサラの肩を叩き、走り始めた。キサラも同時に走り始める。後ろを少し伺うとその人物も慌てたように、走り始めた。
「そこ、右いって、ちょっとスピードダウンして、あいつが追い付いたら今度は左に曲がって。」
レオの指示通りに入り組んだ館内を走り回る。
実はこの碧の館、こう見えて実はすごく難解な作りになっている。あらぬところに見知らぬ階段があったり、廊下が生えていたりする。昨日はあった廊下がなかったり、今日はそのままだったり、開けたら外みたいなトラップの扉があったり、館自身が生きているようだ。ただ、部屋の場所だけは変わらない。だから、目的の講堂につくためには、方向感覚だけがたよりだ。案外と抜けたところのあるルシアンがたまに迷っていたりする。完全に把握することは難しいのだが、レオはすらすらとキサラに行き先を告げる。
「すげーな、なんでわかんの」
キサラとて水の瞳の呪文が使えればこなせるのだがあれは動きながら発動できる物ではない。どうしても教室が分からないときに使っているわけだが。
「風の流れを読んでんの」
「おおぅ。べんっりー」
相手は体力がないストーカーなのか、一向に二人との距離が縮まらない。それでも何とか追い付こうとしているのは一重にストーカー根性だろうか。右、左、右色んな角を曲がる。そして、先には大きな窓のある、袋小路の廊下にはいった。次はどこにいくんだよ、足が止まる。すると、レオが呑気な声で次の指示を下す。
「ラストー、そこ、上。」
「上?!」
「我、風に乗り、空を舞う」
レオの呪文が唱えられ、キサラとレオの足元で風邪が渦をまく。
「わわわ、」
キサラは崩れそうになるバランスをなんとか保ち、二人で宙に浮かんだ。レオは全く微動だにしない。流石は王子様だなぁ!と心のなかで呟きながら、ネズミもといストーカーを迎え入れた。
「っ!」
肩で息をしながらストーカーがその廊下に入ってきた。先がないことにたたらを踏む。きょろきょろと左右を伺っている。
「あれ?こいつ、見たことあるような………」
「おりるぞ」
ストーカーくんを追い込むように廊下の入口に着地して、逃げ道を塞いだ。そして顔を拝もうと窓からの光を背負うそのストーカーをよく見つめる。二人が、はっと目を見張る。だってその人は不思議な風貌をしていた。
眼帯を右目につけて、かろうじて見えるきらきらした左目は長い前髪の隙間にあった。これで前が見えているのかと不安になる。服装から男子だとわかった。風貌に似合わずじゃらじゃらしたズボンのチェーンには大きなドクロが付いていた。おどりとした雰囲気の彼は二人に迫られて一歩後ろに下がる。
「えーっと、君かな?私をつけていたのは」
「あ、ひゃ!!ご、ごめんなさい!」
ぴゃ、と肩を竦める彼に二人は顔を見合わせる。これといって全く害がなさそうな男の子だ。ひょろりとした身体はレオ並みの背の高さだが、猫背のせいなのか、小さく見える。黒とも深翠とも付かないさらさらした髪から垣間見える
瞳はくりくりとしていた。それがキサラに向かうとキラキラした視線に変わる。
害のあるもんじゃないと確信したのか、後ろに控えたレオの視線に促されて、キサラが一歩前に出る。
「苛めてるんじゃなくて、用件が聞きたくて。まず、あんただれ?」
「え、えっとですね、ぼ、ボクは夢見部所属の2年、ディールと言います、」
「夢見部?夢見部の人間が私に何のよう?」
「じ、じつは……………」
もじっと身体をくねらせている。よほど恥ずかしいらしい。するとどこからか声が聞こえてきた。
「オイ、でぃーる!サッサトしろよ」
どうやら腰にあるこの少年には似合わないドクロからだった。
「え、しゃべった?」
「え、あ、これはボクの力で…………わか、わかってるよサヴィ!黙ってて!」
「ち、トレェヤツだナァ」
意を決したように顔をあげ、勢いよくキサラに迫る。レオが思わず反応して二人の間に身体を割り込ませようとしたが、キサラに止められた。ディールと名乗る少年は、勢いよくキサラの腕をとった。
「ボ、クの!絵のモデルに!なってくれませんか?!」
「…………………はぁ?!」
「前に湖でキサラ先輩が力を使っているところを見ました本当に綺麗でボクそのとき女神様が現れたんだと思ってそのあとそれがキサラ先輩だってわかって是非ボクの絵のモデルになってほしいって思ったんです」
この言葉を準備していたのか、一気に流れるようにいうと、息ぎれをおこしている。サヴィと呼ばれたドクロくんはぱちぱちと拍手の音を出していた。
「え、って絵?!私が?!」
「はい、いけませんか…………?ボクの力は絵に力を込める能力です。ボクの場合は絵が動いたり、しゃべったりします。よく、国のポスターを任されたりしてます。実はこのサヴィも本当は絵なんですが、こんな風に実体化させることはボクには出来ませんが、家に代々伝わっているものなんです。五月蝿いですが、いいやつです。」
割と話好きなようだ。
「ボク、一目先輩をみた時からもうこの人しかいないって思ったんです。今度、国の絵のコンクールがあるんですが中々題材が見つからなくて……そんな時にキサラ先輩を見かけて、本当に本当に綺麗で………ボクが描きたい女神さまは貴女しかいないと思いました。お願いします、先輩。どうか絵のモデルになってください。」
「女神さま?」
後ろで密かに肩を震わせるレオを一睨みするために振り返った顔が強ばる。なんとレオの隣にもう一人いるじゃないか。
「せ、生徒会……………長。」
「へぇ、ふふふふふ。へぇ。キサラちゃん、女神様何だってね?へぇ………………………ふふふふふ。」
「あは、あはははははは、」
「ふふふふふ。ふふふふふ。」
「あはははははは、かいちょう?………………」
笑いながら一歩ずつ後ろに下がっていく生徒会長。キサラは笑いながら後を追いかける。レオは、止めない。
「それ!もらったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「まて!このばかいちょー!!!!記憶を消去してやるぅぁぁぁぁ!」
いつものクールさをかなぐり捨て、逃げ足一級品の生徒会長をおう。でも、もう彼に聞かれてしまえば、明日にはもうそれは広まっているわけで。アイリとはまた違う情報網及び、口の軽さが原因だろう。
「あああ、あの!キサラせんぱぁい」
事の原因のディールも後を追いはじめる。レオは肩をすくめて、次の授業に向かった。
ユーリと違って、綺麗な字でノートとってやろうなーと心のなかで呟きながら曲がりくねった廊下を歩いて行く。
後日、やはりキサラは生徒会長の記憶消去は、行えなかったらしく、そこかしこでキサラは 水の女神様という言葉が飛び交った。そして、件の原因ディールは諦めることを知らないらしく、彼女の後を追い続けてとうとう根負けしたキサラがモデルに応じるということになった。
「分からないでもないけどさぁ」
アイリが唐揚げを頬張りながら事の顛末をレオから聞いてぼやく。
「確かにキサラはきれいだよー?だけどさぁ、ぶつぶつ」
自分だけが分かっていればよかったキサラの美しさを、その他多数がここぞとばかりにのめり込んでくるのがウザイ。キサラは絵に現せないほど綺麗なのに!ってか、キサラ見ていちいち足を止めてくるその他のモブが気に入らない。
「ジャーちゃんのばか!!!!」
「う、うっせぇ!」
俺だって、俺だって反対だよ!なんでこんなことになってんだよ、レオ、なんで止めてくんないんだよレオ、聞いてんのかレオ!!
ジャスラに襟首をぐらぐらされながらレオは、前方で力を奮いながらモデルとやらをしているキサラを見る。でも時間の問題だったと思う。だって、キサラがこんなに無邪気に楽しそうに魔法を使っているところを見てしまったら誰だってキレイだっておもうだろうな。
友達の恋愛が前途多難なことをあわれにおもいながら、今回の顛末をまたぷぷぷ、と肩を震わせて笑うのだった。
END
生徒会長に知られたことが全ての敗因。
ディールのお家は芸術一家。ディールだって有名な絵を何枚も描いていて、その中でも今回発表される女神シリーズは後に国の国庫に納められるほどに。他の女神は、誰かは後々。あとは、彼の力は、絵を喋らせることができるというもの。なので、密書として使われることも。
国の闇にたたされる、ことがあるかもないかも。
あと、レシア先生との一騎討ちはまた今度かく、かも。




