6章 第37話 更なる真相と別れ
次回は1月24日投稿予定です。
「アクイラ姉様に暗示をかけただと? どう言う事だ?」
ウルラが怒気を孕んだ表情で声を荒げた。
「よせ。まずは話を聞く。星辰が恋を出来ないとは、どう言う意味だ?」
ルベルがウルラを止め質問した。
「どうって、そのままの意味よ。星辰君は女の子に恋愛感情を抱けないの。そう言う風に造られているから。ああ、念のために言っておくけど、だからと言って彼は同性を好きって訳じゃ無いのよ。彼は他人を好きにならないだけ……」
ラートルは今にも死にそうな人間とは思えない様子でしれっと答えた。
「なんで、そんな事を……」
ニーナが微かだが愕然とした様子で呟いた。
「恋愛感情は戦士に必要無いと思った上層部の命令よ」
「……これも、ただの勘だが。それをお前が進言したんじゃ無いのか?」
「あら、本当にすごい勘ね」
ルベルに問い詰められたラートルは少しニヤっと笑った。
「なぜ、そんな進言をした?」
「なぜって? どんな人間が生まれてくるか見たかったからよ」
ルベルの質問にラートルは少し訳が分からないと言わんばかりの表情になる。
「人を好きになる、愛すると言う感情はある意味、本能の様なもの。それを遺伝子的に完全に消し去る事が出来るのか? それとも、どんなに科学が進んでも完璧には消せないのか? 興味があったのよ」
「だから上に言ったのか?」
ルベルが吐き捨てる様に聞く。
「そう。戦士に恋愛感情はいらないから消してみてはどうかと言ってみたら、思った以上にあっさりと通ったわ。それで失敗した戦士が出来たら、次はそれを消さなければ良いだけ……ぐっ」
ラートルはそこまで言うとほんの少し顔を歪ませた。
ラートルの言葉に聞いている全員は咳ひとつしない。
「アクイラ姉様に紅鏡星辰を好きになる様に暗示をかけたのは、もしかして?」
「そう実験と観察のため。遺伝子的に恋愛出来ない様に造られた星辰君にアクイラちゃんを好きになる暗示をかけたら、どうなるか見たかった……」
「この! 姉様はお前の実験動物じゃ無い!」
「ダメ! ウルラちゃん」
ウルラがラートル掴みかかろうとするのをニーナは止めた。
「その割にはあいつは家族や仲間を随分と大切にするがな」
ルベルが、またラートルに疑問をぶつける。
「星辰君が欠落しているのは他人への恋愛感情。家族には家族愛を。友人や仲間には友情を感じる事は出来るわ。星辰君に友情と言う感情が欠落してなくて安心した?」
「……」
ラートルはルベルに質問したが、その質問にはルベルは答えなかった。
「うぐ、くはッ……。もう終わりが近いわね……。フフ。好奇心で、あの怪物の影に潜んでいたのが運のつきだったわね……。はあ、はあ。もう聞きたい事は無い?」
ラートルは肩で息をしながらルベル達を見渡した。
「……」
だが、ラートルの言葉に誰も答えない。
「そう……。でも残念。星辰君が、これからどう成長するのか。もっと観察したかったのに……」
そう言うとラートルは目を閉じた。ニーナがラートルに近づいて死亡を確認する。
「どうだ?」
ルベルの問いにニーナは首を振って答えた。死亡してると言う事だ。
「そうか……」
ルベルは複雑な表情でラートルを見る。
「ルベル君」
不意に話しかけられて、ルベルは声のする方を向くとアクイラを抱きかかえたソフィーが立っていた。側にはシルビアもいる。
「アクイラ嬢は一命をとりとめました」
そう言うとソフィーはアクイラをルベルに渡した。
「そうですか」
ルベルはそう言うと静かにアクイラを地面に下ろした。
「姉様!」
「お姉ちゃん!」
ウルラとコルムが姉に走り寄る。
「では、私とシルビアは星辰様のもとに行きます」
ソフィーがそう言うとソフィーとシルビアの二人がカーテシーをした。
「承知しました。お願いします」
ルベルがそう言うとソフィーとシルビアは星辰の元へと文字通り飛んで行った。メイドと言うより忍者だ。
「赤頭」
また不意に声をかけられる。ウルラの声だ。また振り向けばウルラがアクイラを抱きかかえている。
「悪いが、このまま地球から出ていくよ」
「えっ。どうして?」
ウルラの言葉にニーナが驚く。
「銀河連邦警察が来ているからか?」
「そうだ。お尋ね者の私達は捕まるからな」
ルベルの質問にウルラが答える。
「ふん。俺も一応、警察官なんだがな。まあ良い。今の体力じゃあお前らを捕まえられないからな。見逃してやる」
「ふん。素直じゃ無い奴。まあ良い、一つ頼み事がある」
「なんだ? まだあるのか?」
「コルムを頼む」
「お姉ちゃん!? なんで?」
ウルラがルベルにした願い事にコルムは驚きウルラを見た。ニーナも驚きの表情を浮かべている。
「クスカの件で分かった。私達二人だけじゃ、お前を守りきれない」
ウルラはコルムを見ながら言った。どことなく優しさを感じる目だった。
「で、でも。せっかく会えたのに」
「すまない。でも絶対に会いにくるから」
「お姉ちゃん……」
「頼めるか?」
ウルラは再度ルベルを見る。
「良いだろう。紅鏡家で預かる様にする。その娘は指名手配もされて無いし、地球にいる方が安全かも知れん」
「恩にきる」
ウルラはそう言うとアクイラを抱きかかえたまま飛んで行った。
「お姉ちゃん……」
その後ろ姿をコルムは寂しそうに見送った。




