6章 第23話 地球に攻めて来た理由
次回は10月17日前後に投稿予定です。
「この男が……」
クスカを見たニーナは一瞬だが絶句した。
確かに、テレビで見た男が立っている。
「その長髪の少女がニーナだね。初めまして、すでに知っていると思うが、クスカと申すものだ。以後宜しく」
クスカはニーナを見ながら挨拶した。あくまで紳士的に。
「私を知っているの?」
クスカに名前を呼ばれてニーナは驚いた。
「知っているさ。テーゲ星の私の塔を落とした一派の一人だろう。ファミリアは冷気を操るグラキエースだったかな? それと怪我をヒーリングが得意な様だね」
そう言うとクスカは少しだけニヤッと笑った。
(深紅の秩序にスパイがいるって頭領も言っていたし、私を知っていてもおかしくないか……。でも……)
「ふうん。なるほどね」
ウルラが独り言の様に話に入ってい来る。
「何が、なるほどなのかね?」
クスカはウルラの方に顔を向けた。
「お前が、こんな早く地球を攻めて来た理由さ。よく考えれば簡単なことだった」
「ほう」
「テーゲ星が落とされたからさ。組織に上納金を納められなくなったんだろう? 立場が弱くなるよね」
「そうか。地球にはオリハルコニウム、アダマンニウムがあるから……」
「そう、この二つ両方が手に入る星はそうはない。支配下におけば、テーゲ星と同じか、それ以上の利権が手に入る。立場が弱くなるどころか、組織の立場が良くなりそうだね」
「……確かにそうだけど。でも、それは……」
ニーナがウルラを見ながら言った。
「あんたの言いたいことは分かる。それくらいの予想は誰でもできる。こいつが地球に来た理由が、もう一つある。その理由は、こいつらだろ?」
そう言うとウルラはニーナを見た。
「私たち? 星辰君だけじゃなくて?」
ニーナが意外そうな顔でウルラを再度見た。
「テーゲ星を落とされた意趣返しさ。な、単純な理由だろ? 紅鏡星辰をさらうのは、そのついでさ」
「支配していたテーゲ星を解放したから、その復讐をするために、私たちがいる地球を攻めて来た?」
「まあ地球を支配下に治めたいって言うのも本音だろう。だったらこいつ自身が、この地球に出向く必要はない。部下に任せりゃいいんだ」
「……」
クスカは沈黙してしゃべらない。
「だけど、こいつ自身が地球に来て、しかも思ったよりも早くここにいる。なぜか?焦れて来たんじゃあない」
「ふ」
クスカは少しだけだが笑った。
「図星かい? だから、焦らしておびき寄せなくても良かったんだよ。そもそもこいつは、最初から自分の手でアンタたちを捻りつぶしにきたんだ。それをやらないと気が済まないんだろうね」
「ドロースを殺された敵討ちですか?」
ニーナがクスカの方を向いて聞いた。
「敵討ち? そうか、そうとらえるか? 君は本当に素晴らしい少女の様だね」
「そんな殊勝な奴じゃあないよ」
ウルラがニーナに向かって言った。
「ひどいな。私とてドロースが死んで悲しんだよ」
「どうだか? それ以上にドロースにムカついたんじゃないかい? テーゲ星を落とされてさ」
「くっくっく、我慢にも限界がある。もう少し、口の利き方に気をつけたまえ。君の妹のコルムは私の手にあるのだ。そうだ、コルムを死なない程度に痛めつけた方が良いのかな?」
クスカが表面上は紳士的だが、少しだけ下卑た笑い声をあげた。
「!」
ウルラが少し動揺した様な顔をした。
「サモン・ファミリア! グラキエース。その男を氷漬けにして」
「イエス。マスター」
ニーナの命令を受けたグラキエースが冷気を発する。
「おや、いきなりとは? 思ったより無礼な少女だね」
「何を! あなたが、ろくでもないって言うのは分かったわ」
「ニーナ冷静になれ。フィールドが張っている。ファミリアを探せ!」
ニーナを落ち着かせる様にウルラが話かけた。
「まあまあ、探す必要はないよ。マニュピレイト。こっちにこい」
クスカが自分のファミリアを呼び寄せる。
「クスカのファミリア……」
ウルラがつぶやく。
「マニュピレイト。そこらへんにいる犬を操ってあいつらに襲いかからせろ」
「イエス。マスター」
クスカの命令を受け、マニュピレイトが能力を発動させる。
「君たちは優しい女の子だ。何の罪もない犬を殺せないだろう? 優しいと言うのも大変だね」
クスカがこう言っている間に、犬が続々と集まってくる。
「こいつ……」
ウルラが苦々しい顔でクスカを見た。
「おお。怖い顔だ。せっかくのかわいい顔が台無しだな。そんな君も犬に噛まれて食い殺されるんだが。マニュピレイト。二人を動物どもに喰わせろ」
「イエス。マスター」
命令を受けたマニュピレイトが犬を操って、二人に襲い掛からせた。
「そうそう。ウルラ。もう君も一緒に殺すことにするよ。あの星辰君を私のもとに連れて来れなかったしね」
「星辰を連れていってもコルムは手放さないつもりだっただろ?」
「なんだ。よくわかってるじゃあないか? まあ、ゲームは終わりだよ。お嬢ちゃん」
「ち、ラーナ・デア。ぬいぐるみを作りだして、こいつらを遠ざけろ」
「イエス。マスター」
ラーナ・デアが、ぬいぐるみを作りだした。
「よーし、いくよーみんな―」
「うん!」
ぬいぐるみたちが、ウルラたちに襲いかかって来た犬たちを担いで散り散りにかけていった。
「ほう。そう言う使いかたもできるのか。確かに面白いファミリアだ。だが、相性が良くないとか言っていたかな? エナジーを随分消費したのではないかね? しばらくは動けまい」
クスカは余裕の笑みを浮かべている。
「ウルラちゃん!」
ニーナがウルラを見るとウルラはしゃがんでいた。肩で息をしている。
(ムカつくが、こいつの言う通りだ。どうする?)
「だったら!」
ニーナがクスカに襲い掛かった。持っている剣で切りつける。鋭い斬撃で、武道の心得が無い素人だったら一刀両断できただろう。
「なかなか判断が速いお嬢ちゃんだな。ドロースがやられた理由が少しわかる気がするよ」
ニーナのレイピアの剣先をクスカは難なく右の指でつかんだ。
「な!」
つかまれた剣はびくともしない。
「優男だからかな。近接戦闘は苦手に思われがちなんだよ。身体能力は高い方だと思うんだがね。なぜなら銀河連邦警察が造った実験体なんだから」
クスカはそう言うとニーナの右の頬を情け容赦なく殴った。
「あぐっ!!!!」
殴られたニーナが飛んでいく。頬を抑えながら上半身だけ起き上がらせる。
殴られた傷をヒーリングで回復させていく。
「ニーナ!」
ウルラが叫ぶ。
「そこの小娘が言った通りだ。ドロースなどもうどうでも良いが、私のメンツをつぶしたお前たちは許せないんだよ。文字通り私の手で捻りつぶしてやる」
そう言ってクスカはニーナに近づいていく。
「そうだ。君は殴りながら嬲り殺すことにしよう。ヒーリングで回復するが良い。死は一瞬だ。つまらない。少しでも長く痛みを感じさせないとな」
ニーナの目の前まで来た時、ニーナを文字通り見下しながらクスカは言った。
「そんなこと!」
ニーナがクスカに殴りかかる。レイピアは一緒に吹き飛んでしまって、手元にない。しかし、その拳も決して弱いものではない。並の人間なら、吹き飛ばす程度の威力がある。
「無駄だよ」
ニーナの拳はクスカの腹のあたりにクリーンヒットしたが、ダメージは全くなかった。
「なっ……」
「そら」
驚く暇もなくクスカはニーナの顔面を蹴った。
「あああああ!!!!」
また、吹き飛ばされるニーナ。叫び声がこだまする。
「ニーナ!」
ウルラが叫んだ。
「いや、すまない。殴り殺すと言っていたのに、足が出てしまったよ。……ん?」
気が付いた時には周辺が霧となっていた。
「これは? なんだ? 霧だと?」
クスカがキョロキョロと周りを見渡した。突然の霧にさすがに戸惑いを隠せない。霧は濃くニーナを見失った。
「おい。こっちだ」
クスカは不意に声を掛けられた。
「なに?」
声が聞こえた方をクスカが振り向く。だが、次の瞬間。
「何? な、ああああぐう!!」
クスカの顔面に衝撃が走った。殴られたのだ。
「よくも、ニーナをやってくれたな!」
クスカを殴った者が、地面に立った。星辰である。




