6章 第8話 理不尽な激励
次回は7月4日投稿予定です。
「……」
星辰と月影の間にしばし沈黙が流れた。
「あの……」
「はい」
「ありがとう。話をしてくれて……」
星辰はそう言って月影に頭を下げた。
「いえ……」
「それじゃ、僕行くよ……」
話を聞いた星辰には、どことなく元気が無い。
「星辰君。送りましょう」
「良いよ。大丈夫。一人で部屋に戻るよ」
「……そうですか」
この星辰の様子に月影も見守るしかできなかった。
弱い足取りで部屋の出口へと向かう星辰。
だがその時、二人のいる部屋のドアが急に開いた。
「ルベル君……」
そう、ルベルが二人のいる部屋の中につかつかと入ってきたのだ。
月影は部屋に入って来た、このちょっと意外な来客を見て多少驚きの声を上げた。
「え、ルベルどうして?」
突然のルベルの登場に星辰もいささか驚いていた。
「どうやら、月影さんから自分の出生の秘密を聞いた様だな」
星辰の近づくルベル。
「そうだけど。君もロカさんから……」
「ああ、聞いた。概ね同じ話だろうな」
「そうか……」
「おい、随分しけた顔をしてるな」
「そう……かな……」
星辰が元気なく答える。
「ふん」
星辰の答えを聞いた瞬間。ルベルは急に星辰の顔を平手で叩いた。部屋にバシッと言う音が響いた。
「ルベル君!?」
ルベルのこの行動にさすがの月影も驚いた。
「いきなり、なにするんだよ!」
星辰も叩かれた頬を抑えながら、ルベルの平手に抗議の声を上げる。温厚な彼も理不尽に殴られ怒っていた。
「しけた面がムカついたからだ」
「な、な、そ、それだけの理由でビンタする?」
「今までお前の無茶苦茶にさんざん付き合わされたからな。その分もだ」
「僕が無茶苦茶なら、君は滅茶苦茶じゃないか」
「ふん。『僕は普通の人間より重い秘密を背負ってるヒーローです。』見たいな顔をしていたからな。いい気味だ」
「なんだって!」
さすがの星辰の気色ばんでルベルに詰め寄った。
「ルベル君。さすがに言い過ぎでは……」
月影が星辰を制しながら、ルベルをたしなめた。
「全く御大層な使命をお持ちの様だな。だが、それがなんだ。お前はお前だろう? ユーラーも言っていた様にな」
「それは……」
「ふん。本当になんだかすっきりした。月影さん失礼します」
ルベルは月影に対して頭を下げると、踵を返して部屋を出て行った。
「全く……」
星辰は部屋を出て行くルベルを見ながら呆れた様につぶやいた。
「星辰君。あれは彼なりの激励だと思いますよ。確かに君の言う通り滅茶苦茶ですが……」
月影も多少呆れつつも、ルベルの行動をフォローした。
「分かってる……つもりだよ。でも、なんだかルベルらしいや」
星辰はそう言うと少し微笑んだ。
「確かに、なんだか彼っぽい」
「ふふ。なんだか少し元気になったよ。もう本当に大丈夫だよ」
星辰は確かに先ほどより元気になった様だ。
「それは良かった」
月影は星辰のその様子に、少しだけ安堵した表情になった。
「じゃあ、部屋に戻るよ」
「はい」
月影の返事を聞くと星辰は部屋を出て行った。
その数分後。次はロカが月影の部屋を訪ねて来た。
「なあ、ルベルの奴がこなかったか?」
「ええ、来ました」
月影はルベルが部屋に来たと思ったら星辰の頬を平手打ちして、すぐ部屋を出て行った事をロカに説明した。
「まあ、彼なりの星辰君に対しての激励だったのでしょう」
「いや、滅茶苦茶だろう……」
「星辰君も私も同意見ですがね。だけど、どことなく、若いころのあなたに似てますよ」
そう言って少し微笑む月影。
「そ、そうかぁ? 俺はそんな滅茶苦茶じゃあないと思うがな……」
「今の星辰君にとっては、その滅茶苦茶が良かったかも知れないですね。いきなり頬を叩くとは、同年代の彼にしかできませんよ」
「まあな。いや、親としては面目ないが……。男親だけで育てたせいかな? しかし、テーゲ星に行って、星辰君と仲良くなったと思ったんだが……」
「心配せずとも仲良くなってますよ。星辰君のことが無関心なら、出生の事を聞こうとしたり、いちいちこの部屋に来たりしないでしょう」
「そう言うもんかな?」
「ええ」
「なら、良いんだが……」
「しかし、星辰君とルベル君を引き合わせたのは間違い無かった様です。彼ら互いに支えあい、高めあえる友人になれると私は思います」
「そうか。そうなると良いな」
「私も少しだけ肩の荷が下りた気分です」
「まあな。おまえが一番大変だっただろうからな」
「いえ、まだ終わってませんよ」
「ああ、そうだな」
月影とロカは互いに顔を見合わせると笑いあった。




