6章 第7話 遺伝子操作
次回は7月1日(月)投稿予定です。
「その実験に対して、お二人は少なからず衝撃を受けられたご様子でした。その時、私はお二人に銀河連邦警察から離反する様に進めたのです」
「どうして?」
「お二人が肉体的にも精神的にも限界に来ていたからです。特にアリアさんはお体があまり強くなかった……。あのままだとお二人は亡くなったかもし知れない……」
「そんなに……。だから二人は銀河連邦警察を離れた……」
「断腸の思いだったでしょう。しかし、他に手はなかった……」
「……」
「私とロカ、ユーラーたちを含めた数人で計画を立て、軟禁状態のアリアさんを救い出し、お二人の離反を助力しました。その時、我々は例の実験体も盗み出しました。共に逃亡の旅に出たのです」
「そして、二人は地球に来た……」
「はい。前にも説明しましたが、銀河連邦警察を出奔したことを嗅ぎつけた宇宙犯罪者たちが、お二人を追いかけ始めました」
「うん」
「ですが、実は銀河連邦警察も出奔したお二人を追っていたのです」
「それはドロースも言っていた……。やっぱり、銀河連邦警察は二人を殺すつもりだったの?」
「おそらくは……。犯罪組織も連邦警察共に、最大の目的はデザイナーベビーの強奪だったと思われます」
「……」
「両方に追われながらも、長い旅の果てに、地球に降り立ったのです」
「そこから、二人は紅鏡家の一員になるんだね」
「そうです。旦那様に保護してもらい日本の国籍を取得しました。地球は辺境ゆえ犯罪組織、連邦警察両方の追撃を振り切ることが出来た。地球での数年は安らぎの時間だったのでしょう。しかし……」
「前にも言ってた、特殊な金属が見つかったんだっけ? そうか、銀河連邦警察に追われていたから、連邦警察に助けを求めなかったんだ……」
「そう。しかし、地球が宇宙犯罪組織に目につけられたとき、この星には守るべき戦力がない。自衛のためには、ファミリアは必要でした」
「それでレグルスを造った。でも父さんはレグルスを使えなくなっていたって……」
「それもお話しましたね……。レグルスを製造したものの、ティグリス警視が使用できないことが分かり、お二人は一つの決断を下しました」
そこで月影は話をまた止めた。今度は随分長い沈黙の時間があった。
「先生……」
星辰が心配そうに月影を見ている。
「ここまで話して申し訳ない……」
月影は星辰にこれ以上は話をすること躊躇していた。
「ううん」
「……お二人には子がいませんでした。そこで、例の実験体のデザイナーベビーを成長させ、その子にレグルスを託すことにしたのです」
意を決した月影は星辰に本当の事実を話した。
「!」
「……そう。その実験体のデザインベビーが星辰君。君です」
「そうだよね……。僕は、やっぱり創られた人間だった……」
星辰はそう言うと下を向いた。
「……」
月影も星辰に合わせて、声を出さない。沈黙があたりを包んだ。
「……先生」
下を向いていた星辰は上を向いて月影に話しかけた。
「なんでしょうか?」
「先生のことを疑う訳じゃないけど、僕って先生の言う超戦士なのかな……。前も言ったかもだけど、背も小さくて、学校の成績も良くないし……」
「それには、まだ少し話に続きがあります。ただ、この話を聞くと君はご両親を恨むかも知れない……」
「……先生。たとえそれでも……」
「分かっています。ここまで来たら全て話します。君には聞く権利がある。お二人にも託されましたから」
「……」
「アリアさんが、君が成長期を迎えるまで本来の能力を抑えておく様に遺伝子を操作しました」
「! それはなんで?」
「理由は様々です。地球では超能力者はごく稀。この星では超能力を持っているものが、迫害されるかも知れない」
「……」
「また、そんな君を誘拐する国が現れる可能性も……。なにより、宇宙犯罪組織や銀河連邦警察に君の存在を知られる訳にはいかない」
「そうか。子供の僕が超能力を発揮すると、父さんと母さんが地球にいることが知れちゃうかも……」
「それもあります。あくまで万が一の可能性ですが……。しかし、どちらかに君の存在が露見した場合、その組織が君を奪いにくる可能性があります。その場合、ほぼ君を守り切れない」
「だから、色々な能力が発揮できない様に母さんが遺伝子を操作した……」
「はい」
「……」
星辰は沈黙して、何かを考え込んだ。これで何度目になるか。
「星辰君……」
月影は星辰を心配そうに呼びかけた。
「大丈夫……」
星辰はそう言ったもののショックを隠し切れない様だ。
「だから僕は運動も勉強もダメだったんだ……」
「成長期を迎えるにつれ身体能力、頭脳両方向上していきます。封印状態にある、まだ発現していない超能力も徐々に解放されるでしょう」
「最近になって急に超能力が使える様になったのも、それで……」
月影の口から語られる真相に星辰は動揺している様に月影に見えた。
(彼はまだ少年なのだ……。やはり、言うべきではなかった?)
月影は真相を話したことを少し後悔し始めていた。そう、星辰はまだ今年十四歳の少年なのだ。
「星辰君。こんなことを言ってもなんの慰めにもならないかも知れませんが、お二人は君の遺伝子を操作したことを随分悩み君に詫びておいででした。ただ、生まれてから成長期を迎える間までは、せめて普通の子供として生きさせたいと……。それに、アリアさんは人口の子宮ではなく、自分のお腹に君を受胎させて君を生んだのです。本当の子供として育てるため。お二人にとっては君は本当の子供です」
「先生。僕は父さん、母さんを恨んでないよ。二人は、いつでも僕を処分できたはず。でも、それをしたら僕はここにいないんだから……」
「……星辰君」
「でも、あの、あと一つだけ聞きたいことがあるんだけど?」
「どういった事でしょうか?」
「ドロースが言ってたんだ。その実験体、つまり僕は性格も銀河連邦警察の遺伝子操作によって書き換えられていると……」
(……。どうしたものか……)
月影が苦渋の顔になった。
「そう。分かったよ。先生、ありがとう……」
月影のその様子に、星辰は全てを察した。
「星辰君……。私は……」
「先生の顔で、分かったよ。僕は……」
「……。申し訳ない……」
「なんで先生が謝るの?」
「すべてを語るつもりでも、私は結局迷っている」
「僕が先生の立場だったら、迷っていると思う」
「……。星辰君。面目ない……」
月影は申し訳なさそうにそう言った。
「ドロースは銀河連邦警察の実験体の中には警察を離れて、自ら犯罪者になる者がいるって言ってた。僕はそうならない様に、性格を書き換えられたって……」
「実験体の中に、ドロースの様に銀河連邦警察を離反する者が現れるのは、事実でしょう」
「……だから、そうならないように僕は性格を書き換えられた」
全てを聞いた星辰は悲しそうにまた下を向いてうつむいた。
(やはり、まだ言うべきではなかった。 しかし、どうすれば良かったのだ?)
月影の心に悔恨の念が生じていた。
星辰は自分の本当の出生の秘密を聞いて深く傷ついていた。




