5章 第9話 戦いへの申し出
次回は5月27日に投稿予定です。
「ぐ、ううう」
真っ二つになったシルウァーの上半身が地面に落ちた。右腕も切断されているので、残っているのは左腕のみだ。
「あとで深紅の秩序の人たちに報告して、お前を拘束させる」
「そうか」
「随分、あっさりとうなずくんだね」
「この体では、もう動けない。お前の方こそ俺に、とどめは刺さんのか?」
「人殺しは嫌いだ」
「そうか。甘いな」
「お前は、その甘い奴に負けたんだ」
「ふ。そうだな。負けを認めよう」
「僕は行くよ」
星辰はそう言うと、シルウァーに背を向けた。
「おい」
「何?」
シルウァーに呼び止められ星辰が振り返る。
「負けるなよ。戦士であるならば」
「戦った相手に言うのもなんだけど。ありがとう」
星辰はそう言うと、また前を向いて走り始めた。
「……」
シルウァーはその背中を黙って見つめた。
数分後。
星辰がアルゴルの塔の入口の近くまで走ると、すでにアクイラ、ルベル、ニーナの三人もまた塔の入口に集まっていた。
「みんな!」
星辰が喜びながら三人のいる場所へと駆けていった。
「星辰!」
アクイラも星辰の姿を確認すると走り出した。
ニーナも後に続く。
「よく無事だったな。あのシルウァーはお前が倒したのか?」
星辰のそばによったアクイラが聞いてきた。
「うん。僕と言うより、レグルスだけどね。二人とルベルも大丈夫だった?」
「まあな。アピスは深紅の秩序の連中が拘束した」
「こっちは二対一でしたし。それにしても無事で良かったです。怪我は?」
ニーナは心配そうに星辰に聞いてきた。
「うん。大丈夫」
「本当に良かったです。アクイラもすごい心配していたんですよ」
「な、お前!」
ニーナに暴露されアクイラが顔を赤くしてニーナをにらみつける。
「そうなの?」
星辰がアクイラを見ながら聞いた。
「べ、別に、ちょっと気になっただけだ」
少ししどろもどろになりながらアクイラは照れくさそうに横を向いた。
「あのデカいのを一人でやるとは、少しだけ褒めてやる」
ルベルがゆっくりと歩を進めながら三人に近づいてくる。
「やるって、殺してはいないよ。もう動けない状態にしただけ。アピスって言う女の人と同じ様に、今頃深紅の秩序が拘束してるよ」
「そうか」
「ルベルの相手はどうしたの?」
「……クソ野郎だったからな。殺した」
ルベルは星辰の問いに吐き捨てるように答えた。
「そう……」
「星辰、お前が人を殺すのが嫌いなのは否定はしない。俺達は捕まえるのが基本だからな。だが、場合によっては決断をしなくてはいけない時もある」
「分かってる……。つもりだよ」
「それなら、まあ、いい」
「あ、頭領から連絡です」
ニーナが着けている腕時計のボタンを押す。空中に画面が映し出される。ただし、映像が乱れがちだった。
「……ジャミング内でも使用できるものを持たせたつもりだが、映像と音声が悪いな。おい、アタシの声が聞こえるか?」
画面にはユーラーが映っていた。
「はい、なんとか大丈夫です」
「お前らの現状の状況を説明しろ」
「サングイストライアドのシルウァーとアピスは拘束しました。セルペンスは死亡です」
「多少、報告は聞いていたが、本当に三人全て倒すとは上々だ。よくやった」
「頭領。この後どうすれば? 見たところこちらが優勢ですが……」
ニーナがユーラーに指示を仰ぐ。
アルゴルの塔の門は開いて深紅の秩序側の人間がなだれ込んでいる。
「その場で待機と言いたいところだがね……」
ユーラーは少し言いにくそうにしている。
「? なんだがらしくないですね」
歯切れの悪いユーラーを見て、星辰が会話に割ってはいってきた。
「すでに塔の最上階にいるドロースのところまで、アタシの部下たちが攻めたんだが……」
「もしかして、全員やられたのか?」
ここで、さらにアクイラも会話に入ってきた。
「ほぼほぼ、そのお嬢ちゃんの言う通り。ドロースを少し甘く見ていたね」
「だったら、僕がいきます」
ユーラーの話に星辰が即座に答えた。
「……」
しかし、ユーラーは黙っている。
「僕たちに行かせてください」
黙っているユーラーに、星辰が再度ドロースとの戦いを申し出た。
「あんたたちはあくまで客人さ。だったら、アタシが出るよ」
「深紅の秩序の総大将だ。万が一があったら、勝っているこちらが総崩れになる」
ルベルが、やっと会話に入ってきた。
「……分かった」
少し渋々とした感じだが、ユーラーは了承した。
「じゃあ」
星辰が喜色を浮かべる。
「我ながら情けないが、任せるしか無い様だ」
「頭領。私も行きます」
ニーナが申し出る。
「頼む。残り二人はどうするんだ?」
「アタシは行くぜ。ここまで来たんだ。ドロースの奴に借りを返さないと気がすまないからな」
「本当に乗り掛かった舟だからな」
「アクイラ、ルベル……」
ユーラーにドロースの元へ行くと答えた二人を星辰が交互に見た。
「ドロースを捕まえれば、大手柄だからな。それだけだ」
「へ、素直じゃねえ奴」
「うるさい」
皮肉めいた笑みを浮かべるアクイラに、ルベルは吐き捨てる様に返した。
「お前たちはアタシが思っていた以上の戦士だった様だ。四人がかりならドロースも倒せるかもしれない。だが、油断するな」
「はい」
星辰が元気よく答える。
「頼んだよ」
そう言うとユーラーの立体映像は消えた。
「よし、じゃあ、行こう」
星辰はそう言うと走り出した。
「今更だが、お前が仕切るな」
ルベルは星辰に悪態をつく。星辰の後に続くように走り出す。アクイラ、ニーナがそれに続いて行った。
「ち、己の無能さに腹がたつね」
通信を切ったあと、ユーラーは苦々し気に言葉は吐いた。
(あの通信……)
ユーラーは星辰たちが深紅の砦を訪れる数日前にコンタクトを取ってきた通信のことを思い出していた。
「なんだいお前は?」
砦の通信に急に入ってきた者がいた。それはユーラーに話をさせろと、その場にいた者に要求した。
興味を持ったユーラーは、その通信に話をすることにしたのだった。
「あなたの味方よ」
女王の間でユーラーが何者を問うと、その者は開口一番にそう言った。ちなみにニーナと副官が傍にいる。
「顔も見えないし、音声も変えてる奴に味方と言われてもね」
「疑問はもっともだけれど、あなたにとって損じゃない話のはずよ」
「……まあいい。一応聞いてやろう」
「数日後、あなたの砦に三人の若いファミリア使いがくる」
「それで?」
「その三人を、今度の戦いに組み込んでほしいの?」
その言葉にニーナと副官が驚いた様に、顔を見合わせる。
「そいつら三人を戦いに組み込むんで何が目的だ?」
「ちょっとした道楽かしら。それに、手ごまの少ないあなたにとって力になりそうな三人よ。それに、一人はあなたの元同僚のロカの息子」
「ルベルがか? それは驚いた」
「もう一人の少年を見れば、もっと驚くかもよ?」
「どんな奴だ?」
「ティグリスとアリアの子」
「なんだと!」
「話はそこまでよ。あとは会ってのお楽しみ」
そこで通信は切れた。
「勝手な奴だ」
「頭。罠じゃないでしょうか? もしくは手の込んだいたずらとか」
副官がユーラーに聞いてくる。
「確かに怪しい。怪しいが、本当にその三人組に来るのか、もし来たとしてどんな奴らか興味はある。ロカがアタシの元同僚なのは事実だ」
「ティグリスとアリアとは?」
副官が聞く。
「アタシの恩人だ。ティグリスはアタシの元上司で、アリアはその妻」
そう言うとユーラーは少し悲しいそうな顔をした。
「では門番には、話を通しますか?」
「そうすると、三人組で来た連中全員をアタシが会わないといけなる。それは面倒だ。ニーナ」
「はい」
「悪いが、ロカの息子、ティグリスさんとアリアさんの息子と思わしき三人組が砦に来たら通してくれ。お前の判断に任せる」
「承知しました」
ニーナはそう言って頭を下げた。
(あの通信は、多分ラートルって女だね。なるほど得体の知れない女の様だ)
ユーラーの厳しい表情をしている。
アルゴルとの戦いは佳境を迎えつつあった。
セリフ回しで変なところを少し修正しました。




