高校1年生編 1章 第16話 切り落とした腕
次回は6月6日投稿予定です。
「これはいささか驚きましたね……。自分で腕を切り落とすとは……」
自分の左腕を切り落とすことにはサエウムの想定外の行動であった。
サエウムが星辰を見ると彼は切り落とした箇所の傷口をヒーリングで塞いでいた。
(思っていた通り、こいつのファミリアは石にさせるウイルスか何かを体に注入したり、散布したりしているらしい。普通の人間は触らなくても石に出来るけど、僕やベロニカの様なサイキッカーには直接触れないと石に出来ない上、それが全身に回るのに時間がかかる様だ。それが全身に回る前に石になった箇所を切り落とせば、石になる事はない)
「ヒーリングですか……。なるほど、ラピスを破壊すれば石になった左腕は戻る。さらに、それをヒーリングで繋げると言うことですね?」
「まあね」
「そんなにうまく行きますかね? 私が今から逃げれば左腕は石になったままですよ?」
「逃げるのか?」
「さあ?」
サエウムはおだけた様に肩をすくめる。
(まだ圧倒的に優位な今、こいつが逃げの選択肢はない)
現状、サエウムに逃走する意思は無いと星辰は判断した。
「しかし、ヒーリングとて万能では無い。もし腕くっつかなかったら、本当にどうするんですか?」
「その時は銀河連邦警察に頼んで義手なり、なんなり作ってもらうさ」
「なるほどね。銀河連邦警察の科学力なら簡単でしょう……」
サエウムはなるほどと頷く。
(しかし、腕を切り落とすなど、そう簡単に割り切れるものでは無い……)
「フ。あのハロスさんが気にいる訳ですね。面白い!」
サエウムは両手をまるでコンサートの指揮者の様に振り始めた。すると石像たちが空中に浮かび上がる。
「サイコキネシス? いや、違う」
「そうです。それにラピスで石にした物は、マスターが操ることが出来るんですよ。あなたのサイコキネシスでは、相殺出来ません。ましては右腕だけではね」
サエウムがさらに腕を動かす。優雅する感じさせる動きだ。その腕の動きに連動して石像たちは動き星辰へと向かってきた。
「くっ……」
星辰は石像を避けるのに精一杯だった。星辰がサイコキネシスを使用しても石像の動きは止められなかった。
(五つの石像を自由自在に操っている。なんて奴だ……。しかも、この石像、傷つける訳にはいかない)
(さて、どうするんですか?)
サエウムは興味深く観察した。
「レグルス。絆モード!」
星辰の言葉に反応して、レグルスが絆モードとなり、なおかつ獣の形態へと変形した。
「む? 何を……」
訝しむサエウムをよそに星辰は素早い動きでレグルスの背中に乗った。そして、石像から逃げ始めた。
(結界がある以上、外には出れない……。何を考えている?)
レグルスは空中を浮遊し、サエウムは石像にソレを追いかけさせた。
「何を考えているか分かりませんが、こう言う事も出来るんですよ」
サエウムが、そう言うとレグルスを追う石像の一体が落下し始めた。
「ベロニカ!」
落下したのはベロニカだった。落下したら粉々に砕けるだろう。
(サイコキネシスが使えない以上、直接受け取るしか無い!)
星辰は持っていた刀を放りなげた。投げられた刀が地面に落ちる。
そして、レグルスを動かし星辰は地面に追突する直前にベロニカを受け止めた。
「ぐうう……」
しかし、石の塊を右腕一本で受け止めるのは意外に容易では無かった。ある程度の傷を星辰は受け止める時に星辰はおった。
「ナイスキャッチですねぇ。と、言いたいところですが……」
「! レグルス!」
ベロニカに気を取られている隙をついて、ラピスはレグルスに取り付いていた。
「ラピスの能力はファミリアにも有効。まあ、分かってるとは思いますが」
ラピスがレグルスから離れるとレグルスは徐々に石となり始めていた。
(くっ、操作が効かない……)
石と化したレグルスを操作する事が叶わず、星辰は事故を起こした旅客機の様にレグルスを地面に不時着させた。
星辰は石像のベロニカを見たが、特に問題無さそうだ。それを確認した星辰は少しだけため息をついた。
「安心するのは、まだですよ」
ほっとしたのも束の間、次はサエウム自身が星辰に襲いかかった。彼の右拳が星辰へと向かってくる。
(いや、この男の狙いはベロニカだ)
確かにサエウムのパンチはベロニカに向かっている。当たればベロニカは石の破片と化すだろう。
「は」
星辰は咄嗟に右手を出してサエウムのパンチを手のひらで止めた。
「貴方なら、必ずお嬢ちゃんを庇うと思ってました。ですが、どうします? これで右腕も石になりますよ」
サエウムがニヤッと笑みを浮かべる。確かに星辰の右腕は石化を始めていた。
「だったら……」
星辰はサイコキネシスを発動し、地面に落ちた刀を動かした。
「今度は何を? 私には当たりませんよ」
「違うね」
刀は物凄い勢いで星辰に近づいてきて、星辰の右腕を切った。石と化している右腕もまた地面に落ちた。
「なんと!」
これには、この余裕ぶったサエウムも驚きを隠せなかった。
その驚きは隙になった。
星辰はその隙を見逃さなかった。
サエウムに大型の肉食獣の様に襲いかかった。
「何!」
サエウムも、これには反応が遅れた。星辰はそのまま彼から見て左側の首元に噛みついた。
狙ったのはサエウムの首の頸動脈である。




