ヲタッキーズ144 眠れぬ杜のヲタ
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第144話「眠れぬ杜のヲタ」。さて、今回は建設現場で10年前のスーパーヒロインの冷凍死体が発見されます。
ヒロインがジャンキーでダブル不倫中と判明、続々と現れる容疑者間の人間模様が複雑に絡み合って捜査が難航する中、にわかに浮上して来た人物は…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 凍りついた肉体
現場の朝は早い。
日の出直後から、1つ1つ工事用照明が灯る様は、まるでバースデーケーキのロウソクに1本1本火が灯って逝くようだ。
虚ろな瞳。開いた唇は何かを逝おうとしてるかに見えるが、その場を沈黙だけが支配している。氷水がポタポタ滴る。
朝焼けが死体を染めて逝く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ラギィ」
寝返り1つ打つ間に既に意識は覚醒している。
指輪のネックレスを首に音波銃を腰に挿すw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パトカーから降りる。
「警部、こんな朝っぱらから死体とは」
「早起きは3文の得とも言うけれど」
「私達より先に南秋葉原条約機構が来てます」
長身の男(僕だw)がラギィに手を振る。
「やっと来たか。コッチだ。ビックリするぞ」
「テリィたん?随分、早起きね。もしかして朝帰り?」
「現場検証を始めます。みなさん、作業を中断して出ていただけますか?御協力に感謝します」
作業員が手を休め、ゾロゾロ退出スル。黄色いテープで規制線が張られ、制服警官が立ち、殺人現場は秩序を取り戻す。
「スゴいょな。背筋が凍る…モーニングジョークだ。笑えょラギィ」
「テリィたん、全然笑えナイ。凍ってるのは背筋じゃなくて全身だし。オマケに昨夜は熱帯夜」
「31℃。クーラーのタイマーをかけるのも忘れて寝てた」
ラギィとは、彼女が前任地で"新橋鮫"と呼ばれ、烏森界隈のアジアンギャングに恐れられていた頃からの付き合いだ。
僕の前では仔猫ちゃんだけど←
「熱帯夜で急速解凍モードか」
「彼女をココに運んだのは"13人目の魔女"か」
「グリム童話ね。状況は?」
死体にかざしていた僕のスマホが応える。
「うーんカラダに繊維の素材が付着してるわ。衣装袋?」
「え。ルイナ、この死体は衣装袋に入ってたのか?」
「未だ凍ってるから、捨てられて数時間ってトコロね」
声の主はルイナ。史上最年少で秋葉原D.A.大統領補佐官に就任した車椅子の超天才。南秋葉原条約機構の科学顧問だ。
「現場のセキュリティは?」
「金網フェンス。ペンチで切られてます」
「夜中に死体を捨てに来て、セメント漬けになる線を狙ったのか。詰めが雑だったな」
ラギィは僕を見る。
「なぜ死体をワザワザ冷凍して捨てるの?」
「矛盾する2つの人格が見える。死体を戦利品として冷凍保存した人格と、一刻も早く捨てて…」
「犯罪から逃れようとした人格?」
鉄骨に載せられた死体を見に逝ったラギィは、ハシゴから降りて来て言葉をつなぐ。似た発想をスル彼女とは話が早いw
「フェンスを見て来るわ。鑑識に、解凍を待って鮮明な顔写真を撮るように言って。失踪者と照合するから」
「え。あのイカれた"顔認証システム"を使うのか?」
「テリィたんも手伝ってね」
僕はウンザリした顔w
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
南秋葉原条約機構は、アキバに開いた"リアルの裂け目"から降臨スル脅威に対抗スルための防衛組織だ。
ヲタッキーズは、僕の推しミユリさんが率いるスーパーヒロイン集団でSATOの傘下にある民間軍事会社。
「ウチの誇る最新式顔認識システムにようこそ!」
「アナログだ。手作業で写真と照合ナンてw」
「お陰でスマホに重たいアプリをダウンロードしなくて済むわ。ウレP(死語w)」
万世橋に立ち上がった捜査本部に続々とファイルが運び込まれソレ程広くない本部の端から端まで"山脈"が築かれる。
「また一段と増えてるな。ホントにコレ全部、行方不明者のファイルか?」
「結構見つかるのょ。死んでたり、倍も太ってリキシなんて名前でストリッパーになってたり」
「テリィたんの好きな神隠しに遭うケースもアルわ」
ラギィは、僕にファイルを差し出す。
「ダナサ・リバン?」
「クラブでデートした後、恋人と一緒に歩いていて、突然姿を消した。彼氏は電話をしながら少し後を歩いてたけど、角を曲がったら既に彼女の姿はなかった。まさに"人間蒸発"ょ」
「オカルト雑誌"ラー"で読んだけど、信じ難いな」
応援にヲタッキーズのエアリ&マリレが合流スル。
2人共スーパーヒロインだけどメイド服を着てるw
ココはアキバだからね。
「古典的な宇宙人による誘拐の線もアルし、今なら"量子テレポーテーション"カモ。どちらにせよ、次元の狭間に入り込んで、今頃ヒューマノイドと戦ってたり…ね?マリレ」
「エアリ、アリ得ない。物事には、必ず合理的な筋書きがあるハズょ」
「じゃあ聞くわ。どんな筋書きかしら」
ココでナゼか揃って僕を見る2人のメイドw
「ぼ、僕か?うーん最初の出だしはワカラナイけど、冷凍死体が捨てられた、という結末は既に決まってる。ココは先ずどうやって運び込まれたかを考えるべきだな」
「解凍具合を見るに、御近所からじゃナイ?」
「エアリ、そうとは限らない。死体の出所は敷地内と思うカモしれないが、凍った人体って意外と溶けにくいのさ」
すると、エアリ&マリレは2人揃って頭をヒネる。
「詳しいのね。リサーチしたコトがアルの?」
「クリスマス前に丸鷄の解凍に1晩かかったコトがアル」
「自慢?でも"彼女"は丸鶏じゃナイし」
「例え話だょ」
ラギィのスマホが鳴る。
「はい、ラギィ。そう、直ぐ行くわ…身元が割れたって」
「そっか。エアリ、後は頼むよ」
「マリレ、後片付けはヨロシクね」
次々と席を立つ。貧乏クジに溜め息のマリレw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋地下の検視室に全員集合(マリレ除くw)。
詳細な検視結果をルイナからリモートで聞く←
つまり僕のスマホからだね。
「メラニ・カバナ34才。"blood type BLUE"。死因は鈍器による撲殺。頭部損傷」
「身元は何処から割れたの?」
「犯罪者データで指紋がヒット。薬物所持の前歴アリ」
少なからズ驚く僕。
「依存症には見えナイな」
「そうね。体も比較的きれいよ。霜もなく、組織も変性してない。保存環境が良好だったのね。恐らく温度が一定の場所に保存されていたのだと思う」
「冷凍庫かな。死亡時期は?」
超天才のお見立てを伺う。彼女は車椅子なので、全て現場からの画像を評価し判断を下すのだが、全てが恐ろしく的確w
「劣化の程度を考えると死後24時間以内に冷凍された可能性が高いわ」
「つまり、冷凍期間が異常に長いってコト?」
「記録に拠れば、彼女は失踪してから10年以上経ってる」
人工冬眠?違うな。その間も"死んで"たんだし←
第2章 先入観の囚人
万世橋に捜査本部が立ち上がる。
「メラニ・カバナは、10代から20代まで、ズッと薬物依存症だった。その間にスーパーパワーに"覚醒"して秋葉原デジマ法による"スーパーヒロイン"認定を受けた。微弱なテレパスだけど」
「らしいね」
「え。知ってるの?どーして?」
ラギィは驚く。
「デスクの事件ファイルを読んだ。その後、銀行マンのサムカ・カバナと結婚。彼は銀行、彼女はレストランで働き2人の子供を授かってる」
「ファイル、いつ読んだの?」
「ラギィがトイレに逝ってる間」←
真っ赤になるラギィw
「ほんの数分ょ」
「速読は、図書館に入り浸っていた頃に身に付いた特技だ。失踪劇の顛末、何でも教えてあげられる。かいつまんで話そうか?」
「どーせ大事なコトを見落としてルンでしょ?」
とか逝いつつも、目は催促←
「夫が通報したのは、彼女が失踪した翌日だ」
「翌日?遅過ぎるわ」
「普通はそうだ。ところが、メラニは結婚式の直前にも失踪してる。最近は良くアル話だ」
因みに、最近は花婿も良く消えるw
「式の前に2週間も姿を消してたの?」
「さらに、戻ってから3年間はハッピーな新婚生活だったが3年後にまた家を飛び出した…が、この時も戻って来た。だから、10年前は3度目の失踪だったワケだ。何処に失踪してたかは、全くの謎」
「せめて、失踪の理由は?」
もはや、何でもかんでも聞いてくるラギィw
「結婚生活を楽しめない人もイルってコトさ。夢見て結婚しても現実は地味だ」
「自分のコト?」
「いや、一般論だ」
ラギィは、手を胸に当てるw
「とにかく!夫の通報が遅れたのもワカル。3度もやらかした後だから、警察が本気でなかったのもワカル。彼女は、いわば周期性の家出常習犯だ」
「だから、警察も納得したのね。犯罪だと言う証拠がナイので捜査も打ち切られてる…でも、夫も10年間も家出だと思い続けていたのかしら」
「彼の話を聞くべきだろうな。少なくとも、やっと奥さんが(凍ってw)戻って来たと伝えに逝かないと」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田花籠町のアパートメントハウス。
「どちら様?」
「万世橋警察署のラギィ警部です。コチラはテリィたん」
「あぁSF作家の。で、御用向きは?」
ドアチェーンを外さズに応対スル寝巻き姿の禿頭←
「サムカ・カバナさん?」
「え。誰だって?」
「サムカ・カバナさんではナイですか?」
何とドアを閉めようとスルw
「部屋を間違えてますょ」
「ちょっち待った!917号室ですょね?」
「YES。だが、私はジャロでサムカじゃない」
心の底から迷惑そうだ。
「サムカを御存知?」
「いいえ、全然。何ゴトですか?」
「失礼ですが、いつコチラに?」
暫し考える禿頭。
「8ヶ月前…かな?」
「10年前にココに住んでいた銀行員ナンだけど…」
「ソンな昔のコトはワカラナイけど、私の前のオーナーなら、路上で殺されたと聞きました」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「サムカ・カバナは、1年前に神田同朋町で路上強盗に遭い、殺されてました」
「胸に小口径で2発。サイフを盗られてますね」
「妻は失踪、自分も路上強盗とは。不運な夫婦だ」
口々に納得スル刑事達。僕は警鐘を鳴らす。
「そーゆー先入観で思考停止スルのは、警察官の悪い癖だ。夫婦揃って何か事件に巻き込まれた可能性もアルし」
「冷凍殺人と9年後の強盗が?まーさか結びつかないょ」
「どっかの中毒者が9年越しでカタをつけたとか?」
忠臣蔵かょw
「夫が真相に気づき、警察に逝こうとしたが、口封じで犯人に殺されたとか。250ページくれょ描いてみせる」
「テリィたん。コレはSF小説じゃないのょ」
「タイトルは"凍りついた肉体"。またまたベストセラー間違いナシだな」
見切りをつけた(何に?)ラギィが話題を変えるw
「子供達は?」
「祖父母が引き取って暮らしてるそうです」
「私はソッチに聞き込みに行くわ。テリィたん、ヲタッキーズに建設現場の聞き込みを頼んで。目撃者がいるカモ。夜はホームレスが居ついているらしいの」
え。ホームレスの聞き込み?
「あ。ラギィ、僕も祖父母の聞き込みの方を手伝うょ」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「キャー!」
幼女達が笑い転げながら、芝生の上を逃げ回る。
その後ろからおじいちゃんが孫娘を追いかける。
「さぁ捕まえたぞ!怖かったか?…どなたかな?」
「テビド・ソーンさん?万世橋警察署のラギィ警部です。コチラはSATOのテリィたん」
「え。あのSF作家の?…そうですか。私に何か?」
きゃあきゃあとハグされてた幼女達は怪訝な顔。
「少し話せますか?」
「…よろしければ、家の中へどうぞ」
「お邪魔します」
祖父は孫娘達に釘を刺す。
「危ないから通りに出るな。ジイちゃんはすぐ戻るからね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ダイニング横のくたびれたソファの粗末な応接セット。祖母がティーバッグの紅茶を淹れ安いクッキーと一緒に薦めるw
「なんとなく感じてたわ。メラニは死んだんだと。生きて帰るコトはもうナイってね」
「お嬢さんがなぜ失踪したか心当たりは?」
「姿を消す数日前に妻が話してる」
祖母に話を振る祖父。
「普通だったわ」
「何か変わった様子は?」
「何も」
老夫婦は穏やかに口を揃える。ところが…
「お嬢さんは、問題を抱えてましたね。薬物中毒とか」
「待て!ソレは関係ナイ!」
「断言?」
祖父が1発で激昂←
「警察は、直ぐ薬物依存症と結びつけて考える。つまらない先入観から簡単に思考停止スルのだ!」
「でも、違うと?」
「娘は、メラニは確かに母親失格カモしれない。だが、子供達は慕ってた。あの子達を見捨てるなど…」
絶句スルのを見計らい、質問続行。
「御主人のサムカは何と?」
「娘の薬物が原因だと思ってました」
「しかし、奴は翌日まで娘の失踪を通報しなかったンだ!」
またまた祖父が激昂w
「しかし、3度目ですからねぇ」
「確かに初めてじゃない。ただ、娘が心配なら直ぐ通報スルべきだろう。そうすればこんなコトには…今さら何を言っても遅い!」
「貴方、落ち着いて。血圧が…」
祖母がナダメに入る。
「とにかく!5年前にキチンと捜査をすれば、娘は助かったカモしれなかった!」
怒りは収まらない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に戻る覆面パトカーの車中。
「ラギィ。あのおじいちゃん、当時の警察の捜査に、かなり不満がアルみたいだ」
「うーん気持ちはワカラナイでもナイわ」
「当時の捜査責任者を知ってるか?」
ラギィは少し考えてから答える。
「スロン警部。私の前任なの」
「今何をやってんの?」
「乙女ロードで保安官をやってるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
乙女ロードのカフェ。乙女系ではなく、昭和の喫茶店が生き残ってる系だ。保安官は、マイカップ?でコーヒーを飲むw
「メラニか。やっと見つかったか」
「でも、生きてではなく、遺体で発見されたのです」
「それは残念だ」
淡々とした表情。ソーサーにカップを置く。
「あの事件は、最初から嫌な予感がしてたんだ」
「御遺族は貴方がハナから家出と決めつけていたと」
「でも、ソレで死んだわけじゃナイだろ?メラニは薬物依存症だったんだぞ」
早くも開き直る。実にフテブテしい。話に割り込んでみる。
「貴方の捜査が不十分だったのでは?」
「…アンタ、誰だ?」
「SATOの隆之、じゃなかった、テリィたんょ」
驚く保安官←
「え。あのSF作家の?」
「YES」
「モノホンかょ?」
僕を値踏みスルように眺め回す保安官。やがて、口を開く。
「当時は遺体はなかったし、家出を繰り返す依存症の患者が失踪したに過ぎませんでした」
「夫は翌日まで通報しなかったそうですね」
「彼の対応を後から批判するのは簡単です。だが、家宅捜査にも嫌な顔をせず応じたし、彼は万事に協力的でした」
「その後、殺されたンだ」
サスガに慌てる保安官w
「な、何だって?」
「1年前に路上強盗に遭って射殺されました」
「だからなんだ?メラニは、渋谷の百軒店で愛人と暮らしてる、との情報も入ってた」
「でも、貴方は確認してナイ」
畳み掛けるラギィ。
「必要ナイからだ」
「しかも、情報提供者のワイラ氏は夫の親友ですよ」
「だから何だ?」
「客観的な第三者とは言い難いわ」
きっと何度も反芻した言い訳が出る。
「ワイラは、仕事も家族もあるスタートアップのCEOだ。当時は、疑う余地がなかった」
「単に貴方が捜査を面倒がっただけでは?」
「だから、単なる失踪事件だったンだ」
「いいえ。その時、既にメラニは殺されてた。だから、コレは殺人事件だったの。アンタが捜査を怠っただけ」
ラギィは、吐き捨てるように告げる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び、万世橋に戻る覆面パトカーの車中。
「やる気のない捜査で犯人を見過ごして来た。僕が失踪しても、あの保安官にだけは捜査して欲しくないな」
「最低の警官だわ。警察の軽蔑すべき側面が出た。先入観で決めつけ結論ありきの手抜き捜査でお茶を濁し、挙句に犯人を取り逃す」
「先入観に囚われるのは警察だけじゃナイ…ミユリさんも何かあったのかな」
「ミユリ?何で?」
珍しく僕のスマホが鳴る。
「何だょエアリ?え。目撃者情報ゲット?」
「YES。路上生活者にホットドッグを奢ったら色々聞き出せたわ」
「そりゃあ…"マチガイダ・サンドウィッチズ"のチリドッグを奢られたら誰でも何でも喋っちゃうさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田佐久間河岸町。神田リバー沿いに建つ古い雑居ビル。
「ビルの前に止まってる黄色いトラックから、現場で男が袋を運び出し、手ぶらで戻って来たって話ょ」
「にしてもエアリ、どうやってこの場所がわかった?」
「黄色いトラックを探したらボディに住所が描いてあった」
なるほど。"ボラン&Co."とアル。
「とゆーコトは、トラックの所有者もわかってる?」
「ボランって人だけど」
「さすがだエアリ。やれば出来る子」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クタびれた雑居ビルに入るとEVは無くボランの会社は4F。外神田の雑居ビルに多い、狭い階段を肩をスボめて登るw
「遺体だと?いたい、じゃなかった"一体"何の話だ?」
いきなり親父ギャグでお出迎えw
「御社のトラックが遺体を捨てたとの情報があります」
「目撃者がいるのか?」
「アウト!その一言で遺体を捨てたコトがバレバレだ。自白したよーなモンだ」
ホントはソンなコトもナイのだが、試しに逝ってみたら、慌てて口を押さえるボランを見て、意外と軽薄系カモと思う。
「思い出しなさい!遺体はメラニ・カバラ。2児の母ょ」
「た、確かに遺体を捨てた。だが、俺は…」
「殺してない?」
助け船を出すラギィw
「遺体は倉庫で見つけたんだ。俺だって迷惑だった!」
「どの倉庫?」
「ココの6階。我が社は、中古マンションをトランクルームに改装したレンタル倉庫業を営んでいる。レンタル料の支払いが滞ると、保管物を売って充当スル契約だ…で、開けてみたら冷凍庫があった。ソレ自体が既に規約違反ナンだが…」
ラギィが突っ込む。
「遺体こそ違反でしょ?」
「俺だって見つけた時は、死ぬほど驚いた。心臓が止まるかと思った」
「警察に通報は?」
トンデモナイと首を振るボランCEO。
「アジアン・マフィアの仕業だったらどうする?今度は俺が狙われて、即ウェブニュースの1面に載っちまう。俺だって家族がいるんだ」
「勝手ね」
「ボランさん。つまり、貴方は遺体を見つけ、少し考えた挙句、工事現場に捨てるコトにしたってコトか?」
僕は呆れ顔。ボランは溜め息をつく。
「アソコの現場監督が知り合いでね。明日がセメント充填と聞き思いついたワケだ」
ソコで胸を張るのはヤメろw
「そのレンタル倉庫を見せなさい。今すぐ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
レンタルルーム603に入ると…真ん中に冷凍庫。
ラギィが中を見ると霜の中に髪の毛が張り付くw
「10年もココに?余りにもヒドいわ。賃料の支払いは現金?カード?」
「現金だ。最後の支払いは9ヶ月前」
「サムカ氏が殺された2ヶ月位後ね。誰かがレンタル料を払えなくなった?」
僕は思いつく。
「現金払いなら、レンタル料の支払いの時に御社の防犯カメラに写ってルンじゃナイか?」
「9ヶ月前だぞ。とっくに映像は廃棄したよ」
「やっぱり、サムカ氏は死体の保管とは関係なさそうね」
ラギィの結論。僕は頭をヒネる。
「となると、冷凍保存は誰の仕業だ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
御屋敷のバックヤードをスチームパンクに改めたら居心地良くて常連が沈殿。回転率は急降下でメイド長はオカンムリ。
で、今は僕が冷凍庫に頭を突っ込んでる←
「テリィ様。頭を冷やしてるの?」
「どうして遺体を冷凍庫に入れたのかなと思って」
「ソレ、小説の話ですか?それともリアルの事件?あ、リアルですね?小説なら遺体はレーザーガンで焼くから」←
カウンターの中からメイド長のミユリさんが話しかける。
「食べ物と同じ感覚で、とりあえず冷凍したのかな」
「遺体を隠したかっただけでは?」
「でも、途中でヤメてルンだょな。何でだろう?」
冷凍庫の扉を閉める。ハッとヒラメく僕。
「なるほど!やっぱり"推し"との時間は欠かせないな。とても有意義な会話だった」
「お出掛けですか?私、変身しましょうか?」
「あ。お願いしよっかな」
ミユリさん、ムーンライトセレナーダーに変身。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ワイラは浅黒い肌のアジアンだ。
「ワイラさん。メラニが愛人の下にいると警察に話しましたね?」
「サムカから聞いた話だ」
「聞いただけ?」
ムーンライトセレナーダーのコスプレは、セパレート型のメイド服ナンだけど…ワイラの視線が何となくフワフワ泳ぐw
「え?え?何だっけ?」
「サムカ氏は、奥さんに愛人がいると思ってたの?」
「そう!そうだった!以前も愛人の下に転がり込んでたコトがアルらしい」
なぜかシナをつくってワイラに迫るミユリさんw
「らしいって…確証はナイの?」
「だって、他に何処へ行く?メラニは、確かに良い子だったが、問題も抱えていた。何かあると"覚醒剤"に逃げる。そして、ハイになってサムカに当たる。理不尽だょ。サムカは、彼女にあんなに尽くしたのに」
「愛人の名前を教えて」
ミユリさんは僕が"勝負角"と呼ぶ斜め72度の姿勢でワイラに総攻撃。おへそが可愛い形に潰れワイラはメロメロだw
「愛人の名前はケビン・ヘンソだ!奴が全ての真相を知っている。メラニに関する全てを知ってルンだ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「愛人ケビン・ヘンソは、蔵前橋の重刑務所に収監されてます。倉庫の最終支払い直後に収監された模様」
若い刑事がラギィにファイルを渡す。
「そして、支払いは途絶えた…」
「偶然とは思えナイわね」
「因みにサムカが強盗に遭った夜のアリバイもありません」
ラギィは"僕達"の方を見る。
「ムーンライトセレナーダー。テリィたんと話を聞いて来て」
「ROG」
「あのさ!僕がムーンライトセレナーダーと話を聞いて来る、だょな。順番的に」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蔵前橋重刑務所の面会室。ケビンは頭の切れそうな男だ。
「本気で人を愛すると、人は何だってやれる」
「殺人とか?」
「メラニと2人でいると、時間を忘れたょ。だが、俺は囚人だから、出会った時から先がナイとわかってた。刺青だらけの薬物依存症の男に娘をやる親なんかいないさ。でもな。時によっては2人で部屋ににいる時とかは、将来に希望が持てたンだ」
なかなか説得力のアル話ぶりだ。
「メラニは、離婚スル気で家を出たのでしょ?」
「YES。ただし、サムカの不倫が原因だった。離婚されて、薬物依存ゆえ親権を失い、サムカに子供を奪われると思った彼女は、子供を連れて逃げたがってた」
「それで?貴方はどーしたの?」
愛の逃避行(子連れw)か?
「断ったさ」
「え…何で?」
「荷が重過ぎた。あの時の俺には無理だったンだ。だから、俺は翌日、リハビリ施設に行ったよ。クリーンになるために。だが、退院したら彼女は死んでいた」
「死んでいたとナゼ確信が?」
「通信が途絶した。生きてれば連絡して来るハズだ」
思いの外、2人の絆は固い。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び万世橋の捜査本部。
「筋書きが見えた。メラニは夫のサムカと愛人に殺されたんだ。コレは謀殺だ」
「じゃあサムカは誰が殺したの?」
「愛人さ。サムカに捨てられそうになり犯行に及んだ」
溜め息をつくラギィ。
「スゴい想像力!良くソンなストーリーが思いつくわね」
「ストーリーじゃない。合理的に思考を展開しただけだ」
「じゃあサムカの親友は不倫を知っていたワケ?」
眉をしかめるラギィ。
「確かにw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ワイラのオフィス。
「ムーンライトセレナーダー?どうも」
「ワイラさん。貴方、黙ってたわね」
「何をですか?」
空々しいな。有罪。
「サムカの不倫を知らなかったというのか?」
「もう過去の話だろ?今さら蒸し返して何になる?子供の人生をかき乱すだけだ!」
「でも、子供だって事実を知りたいハズょ」
ミユリさんは"勝負角"!おへそが可愛い形に潰れて…
「エリザだ!不倫相手は職場の同僚エリザ・フォル!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エリザ・フォルはハデだ。金髪に赤シャツ&黒ジャケット。
「フォルさん。ムーンライトセレナーダーです。コチラはテリィ様」
「何の用?」
「サムカの件で質問が」
顔色1つ変えない。首都高を見下ろす御屋敷。
「彼が何か?」
「夫人のメラニが遺体で見つかりました。死亡時期は、貴女達が不倫関係にあった時です」
「話が見えないわ。私に何の用?」
顔色1つ変えない。
「シラを切る気なら身辺を洗いざらい調べます。10年前の通話記録やカードの利用状況、全て洗います。ご主人にも話を伺いますが」
顔色…激変w
「ヤメて!ソレは困ります!夫は何も知らないンですぅ!」
「では話してください」
「私がサムカのいた支店へ異動になり、直ぐ関係が始まりました。お互い辛い時期で寂しかった」
「その、お互いが寂しかった期間は?」
「長くないわ。半年」
「なぜ別れたの?」
「夫を愛してると気づいたから」
スラスラ進む取調べのテンポを崩したくナイが大爆笑←
「ソレこそヤメろ。絶対にウソだ」
「失礼な!私と夫は…」
「あのさ。不倫は、ソンな理由じゃ止まない。ホントは、何かに怖じ気付いたんだ。関係のドロ沼化とか発覚とかさ。違うか?君が恐れたのは何だ?!」
ビシッと今度は僕が"勝負角"をキメるw
「彼よっ!私は、サムカが怖かったの!」
「まぁタイヘン。愛しの彼の何処が怖かったの?」
「…奥さんのメラニが消えたらどうなるか?って聞いて来たの。ソレもビンビンに責めながら」←
器用な奴だなw
「それはいつ?」
「絶頂を迎える前」
「じゃなくて」
「奥さんが姿を消す2週間前。メラニが失踪したと聞いて、私は別れたの。だけど、逆上した彼は大騒ぎをして、私は再び異動になった。栄転だったけど」
不思議な会社だなw
「10年ょ?10年もの間、ナゼ通報せずに黙っていたの?」
論理は明快だ。
「だって!メラニもサムカも死んだのょ?通報したって意味ナイわ。意味ナシ芳一」
日本むかし話かょw
第4章 2人のheartbeat
奴の匂いがスル…
五感を研ぎ澄ます。さもないと殺られる。
照明を落とした部屋の中で素早く移動だ。
「ハァ!」
レーザーガンを手にした人影がトンボ返り!
先手を取られる!ヤバい。圧倒的に不利だ…
「バルタ星人の死の罠からは逃れられんぞ。反逆者め」
「死ね。バルタ星人!」
「フフフ。恐れているな。波長でわかる」
レーザーガンで撃ち合う!
翠色の光線弾が飛び交うw
ところが…
「ねぇ私の財布はどこ?」
顔面に泥パックを塗った車椅子のルイナが現れる。
「ルイナ!命を賭けた戦いの最中なんだょ!」
「テリィたん、いくつなの?」
「デラックスなレーザーガンセットを買える歳さ」
その瞬間、僕のベストに装着された6つのライトが赤く点滅しながらクルクルと回転を始める!ヤバい!
「やられた!ルイナ、バルタ星が滅びたじゃないか!」
レーザーガンの銃口をフッと吹くマネをしてスピアが登場。
「あら、チャイム?誰かUper eatsをとった?」
「いいえ」
「テリィたん、見て来て」
何で僕が?と思いつつ、念のため?ゴーグルを下ろし、ルイナのラボのドアを開けると…ムーンライトセレナーダーだw
「テリィ様?遊んでたの?」
「失礼な。事件の考証をしてたンだ」
「ミユリ姉様?入って」
しかし、何でミユリさんは変身してルンだろう?
不思議な沈黙が流れる。泥パックの超天才。僕のベストでは赤いランプ、スピアのベストでは翠のランプが回転点滅中w
「そうだ!何か飲む?」
気を利かしてパーコレーターからコーヒーを注ぐスピア。
ラボに入り、思わズ息を呑むムーンライトセレナーダー。
「いつ来てもバットマン洞窟に初めて入った執事の気分になるわ」
「ミユリさんは、やはりバットマン好きか」
「なぜ?」
小首を傾げる。可愛い。萌え。
「似ている。家族を失って犯罪撲滅の世界へ入る」
「印税で今や富豪になったテリィ様も、バットマンの設定にピッタリです」
「ハンサムだし?」
ミユリさんは、近くのPCから僕のサイトにアクセス。
「今、次作の構想を練ってルンだ」
「驚いたわ。まるで万世橋にあるボードと同じですね」
「僕のはフィクションさ」
彼女が見ているのは、僕のSFに登場スル人物の相関図だ。コレだけで登場人物のキャラやストーリー展開がわかるw
データをプルダウンしてみせる。
「ミユリさん、どうした?何か問題でも?」
「ワカラナイのです、テリィ様」
「え。何が?」
「今回の事件の犯人です」
何だ、ソンなコトか。
「メラニを殺したのはサムカさ。ソレで辻褄が合う」
「え。でも、証拠がなきゃタダの推論です。それじゃ遺族が可哀想。遺族は、真実を求めますから」
「その通りだ。証拠が欲しい時は、事実を再検証してみるコトだ。犯人はわかってる。後は事実を1本の線につなぐだけだ。そうすれば、全体を組み立てるコトが出来る。ある意味、先入観をなぞるコトにもなるけど」
日頃"先入観"と戦う僕には嫌な言葉だw
「テリィ様。そーゆー時は"直感に頼る"と言葉を置き換えましょう…さて、子供が2人か」
「シッターは雇ってなかった。メラニが失踪した日も彼女が子供を見ていたハズだ」
「夜、サムカは出かけた」
「でも、ドアマンはソレを見ていない」
ムーンライトセレナーダーは小首を傾げる。
セパレート型のメイド服ナンだけど…萌えw
「テリィ様、推理して!彼女は家にいて…」
「わ、わかった。殺された?」
「そうですね。しかし、自宅はタワマン。そして、車は持っていない」
「では、遺体をどうやって始末するか。放置はできないし、担いで運ぶのは非現実的だ」
「どうやって倉庫へ運んだのかしら?」
「ソレは…」
僕も逝き詰まる。ミユリさんと推理をめぐらす。
「うーんワカラナイな」
「ワカラナイですね」
「でも、良い方法がアル」
「何ですか?」
またまた小首を傾げるミユリさんw
「僕はSFを描く時、行き詰まったら実際に現場を歩いてみるコトにしてルンだ」
「宇宙に逝くのですか?」
「いや、そーゆー意味じゃなくて…今回はスカイツリーに逝ってリサーチして来た。そしたら、どうだい?次々と腐女子に声かけられてホテルへ…」
わわ…気がつくとムーンライトセレナーダーが必殺の得意技"雷キネシス"のポーズをキメてるw待て!話せばワカル!
「とにかく!犯人の心を読みたいなら、実際に現場を訪れてみるコトだ。ミユリさん、今から…ぎゃ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
タワマン1907号室。
「前の住人が、この部屋で殺された?路上での強盗殺人だったと聞いてますが」
「いいえ。彼は路上で殺されました。この部屋で殺されたのは彼の奥さんです」
「え。奥さんも?呪われた家族だな」
ソレでも応対してくれるジャロは良い人だw
「よし。僕とムーンライトセレナーダーが夫婦だとスル」
「ええっ!スーパーヒロインの奥さん?」
「いや、例え話だから」
ところが、ムーンライトセレナーダーがw
「作り話でも素敵ですぅ!」
「え?いや、やっぱりヤメておこう」
「もし、テリィ様となら今すぐ結婚いたします」
舞い上がるミユリさんを前に腕組みするジャロ。
「お2人は、いつもこうなのですか?」
「はい!」
「いいえ」
2人同時に異口…異音w
「た、例え話はとにかく、メラニは4時に帰宅スル」
「ROG!先ず夕飯の支度ですね?裸エプロンでお出迎え?」
「いや、2児の母だから」←
ミユリさんはイソイソとキッチンへ向かうw
「そこへサムカが帰ってくる」
「きっと銀行員だから6時前後ですね」
「子供は既に食事を終え…」
ミユリさんが言葉を継ぐ。
「夫婦は寝室でYouTubeを見ています」
「私の寝室で?」
「し!静かに」
ゴメンなジャロさん。彼の鼻先で寝室のドアを閉める。
「そして、夫婦喧嘩が始まる」
「え。あり得ない。でも、原因は?」
「ミユリさんの浮気だ」
何だかとても気持ちの良い展開だ←
「そして、激昂した僕は後ろを向いた妻を?」
「何かで殴る。例えば…」
「え?凶器攻撃?」
僕とミユリさんはフライパンを構え、同時に振り向く。
「ミユリさんのフライパンの方が大きいな」
「頭に一撃です」←
「寝室には子供がいる。子供に見つからズに遺体を隠して運び出す方法は?」
ミユリさんは良いアイデアがナイようだw
「バスルームさ!サムカはココで遺体を…」
「バスタブに入れるのですね!テリィ様、鋭い!」
「わっ!」
バスルームまでついて来るジャロの鼻先でドアをピシャリ!
「そして、子供達にはママは出かけたと逝うのさ」
「だから、出かける姿はドアマンには見られていません」
「OK。だが、車なしでどうやって遺体を運び出す?」
ココで締め出されたジャロがヒョッコリ顔を出す。
「タクシーを呼んだんじゃないかな?」
「そして、運転手に法外なチップを払って一緒にバスタブから妻の死体を搬出?あり得ないな」
「ドアマンの問題もあります…予め冷凍庫に遺体を入れてから運んだ、というのはどうでしょう?」
そうか!とは思うが、ミユリさんって恐ろしいコトを考える人ナンだなと思って恐怖。ところが、ジャロが先をつなぐ。
「冷凍庫?ソレならトラックが必要ですね」
「ジャロさん。御屋敷が入ってる高層タワーは、荷物を受け取る際にはサインをするルールですけど
コチラはどーですか?」
「ムーンライトセレナーダー、このタワマンも同じルールだ。大きな荷物は全て台帳に記入するのがルール」
「その台帳は?」
「管理人室にありますょ」
ジャロの両手にフライパンを預け、僕達は管理人室へ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
明治から続く老舗旅館の宿帳を思わせる、古くて大きな黒い台帳だ。指差す先に"受領済 マシュ・マロウ"のサイン。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マシュ・マロウは老婆だ。
「確かに私のサインだわ」
「その日、届いた大きな荷物は貴女宛のモノだけでした」
「何か覚えているコトはありませんか?」
丁寧に尋ねるムーンライトセレナーダー。
「そうそう。届いたモノのせいで管理人とモメたわ…ムーンライトセレナーダーってホントにメイド服なのね?」
「はい。変身スルとセパレートになってちょっち恥ずかしい…で、届いたモノとは?」
「謎の冷凍庫だったの。でも"こんな大きな冷凍庫、頼んでないわ"って、管理人と揉めている間に、配達の人が貨物用エレベーターで荷物ごと上がっちゃってたのょ」
その"配達の人"は異様に強引だw
「その後"謎の冷凍庫"はどうなりましたか?」
「結局、ドアマンが住所を間違えたんだってコトになって、部屋に戻ってみたら、配達人も冷凍庫も消えてたの。ソンなに重要なコト?」
「ええ。とっても」
ニッコリ微笑むムーンライトセレナーダー。
「この話、以前にも話したコトがアルのょね」
「やる気のないスロン刑事ですか?」
「名前は知らない。でも、今と同じ話をしたわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
タワマンを出て、ミユリさんと神田リバー沿いを歩く。
「やっぱり解せないな。なぜスロンは話だけ聞いて放っておいたのだろう?」
「彼は、直感という名の先入観に囚われて、ハナから家出と決めつけるコトで思考停止したかったのょ」
「みんな、先入観の虜だ」
フト気づくと、目の前に宅配サービスのトラックが路駐w
「やや?ワイラのトコロで見た黄色いトラックだ」
「お仕事で使用中でしょうか。でも、何か怪しいわ」
「ミユリさん。引っ越しや重い荷物を運ぶ時って、最初に声をかけるのは誰?」
ミユリさんも気がつく。
「仲の良い"親友"ですね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。再びワイラを召喚。
「貴方は、あの会社から黄色いトラックを借り、宛先を偽って冷凍庫を運びましたね?」
「私は何も知りません」
「またシラを切り続けるの?」
取調べるラギィには、全て話してアル。
「警部、待ってくれ。私にはメラニを傷つける理由がナイ」
「わかってる。殺害犯はサムカょ。不倫を続ける妻に嫌気が差した」
「し、知ってるのか?」
頭を抱えるワイラ。
「実は、あの夜サムカに呼び出された。部屋を尋ねたら、メラニがバスタブで袋に入って死んでいた。サムカがついカッとなってやったらしい」
「おかしいわ。よっぽど離婚した方が楽なのに」
「私だって、そう思ったさ!」
ラギィは静かに立ち上がり、デスクに腰掛ける。
「でも、貴方は警察に通報せズにサムカを手伝った」
「サムカを犯罪者にするコトは出来ない。両親を失ったら、あの子供達はどうなりますか?」
「ソレで、トラックを借りたのね?」
ワイラは苦しい胸の内を吐露スル。
「YES。足がつかないように、荷物はあの女性宛にした。倉庫を私の名前で借りたのも同じ理由です」
「支払いも貴方が肩代わりを?」
「支払いだけです。サムカから金を受け取り、私が毎年2回支払っていました」
僕的に疑問に思える点を追求。
「10年間も倉庫料を支払い続けたのか?」
「遺体を動かすより楽だと思った」
「でも、ソレも先月で突然ヤメるコトにした」
突然、ワイラが男泣きを始めるw
「私だって、罪の意識は感じています!特にメラニにとっては、相当に不幸な結果になったとは思います!でも、だからと言って、私だけが一生、支払いを続けなければいけないモノなのでしょうか?」
涙の訴えだが、答えは明瞭だ。
「貴方がどんな償いをスルべきかは、司法が決めるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜の捜査本部。僕はラギィのデスクに腰掛けてるw
「テリィたん。つまり、トランクルームの支払いが滞ったから、遺体が捨てられたワケょ」
「全くヒドい話だょラギィ。でも、そのおかげで、真実が明るみに出た」
「後には、真実を知りながら隠していた罪だけが残った」
ラギィは溜め息をつく。僕は声をかける。
「因果はめぐるのさ。だから、サムカは殺された」
ラギィが立ち上がる。
「メラニの御両親に報告に行くわ。来る?」
「あのさ。冷凍庫の女性…マシュマロ夫人だっけ?は、刑事に事情を話したと逝ってたょね」
「スロン刑事。私の前任のやる気のない…」
まぁラギィに比べたら誰でもヤル気ナシと思われるがw
「ところが、そのスロン刑事が提出した報告書を読んでみたけど、何処にもその記載がナイんだ」
「きっと殺人事件じゃナイから報告しなかったのょ」
「カモな。でも、ただの失踪だと思ってたなら、なぜ冷凍庫の話を聞き込みまでして調べたのかな?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再びドアチェーンのおばさんの部屋。
「あぁまたムーンライトセレナーダーさんね?おへそ出してて寒くない?」
「真夏ですから…」
「で、またまた"謎の冷凍庫"の件ね?」
ラギィがメラニの御両親のトコロへ逝ったので、ミユリさんに声をかけたら変身してくれて、1907号室マシュ夫人宅。
「10年前に捜査に来た刑事のコトですが…」
「あら、ムーンライトセレナーダー。私、10年前だなんて言ってないわ、私」
「え。違うのですか?では、刑事が来たのはいつ?」
ナゼか夫人にはウケの良いムーンライトセレナーダーに問われて、意外な新事実が飛び出す。
「刑事が来たのは去年ょ。冷凍庫のコトをアレコレ聞かれて疲れたわ。変な人だった。やんなっちゃう」
「ホント"変な人"には困っちゃいますね。で、その"変な人"の特徴は?」
「かなりのお年寄り」
え。スロン刑事じゃナイのか?
「制服を着てましたか?」
「いいえ、私服だったわ。白髪で足を引きずってた」
「…デビド・ソーンだわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
窓から見える、幸せそうな祖父母と孫娘達。夕食準備が進行中だ。楽しそうな様子を通りの歩道から見て僕はためらう。
「ミユリさん、ホントに逝くのか?見逃すコトだって出来るょ。真犯人のサムカは死んだ。だが、その子供達は幸せそうだ」
「テリィ様のSF小説の世界と現実の世界は違います。結末を決めるのは、私達民間軍事会社ではありません。ソレはラギィのお仕事」
芝生を横切り、家の扉に歩み寄る。ノック。
「ムーンライトセレナーダー?」
「デビドさん、万世橋までご同行を」
「貴方、どなたなの?」
夫人が顔をのぞかせる。見守る孫娘達。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。ラギィ警部自らの取調べ。
「私は、マシュ夫人に冷凍庫の質問をしたから呼ばれたのですか?」
「タダの冷凍庫ではありません。娘さんの遺体が入っていた冷凍庫です」
「…冷凍庫について調べていたとして、何の容疑ですか?」
ラギィは慎重に言葉を選ぶ。
「サムカの件に関与していれば、殺人容疑になります」
「娘の死については、最初サムカの話を信じていた。だが、その内に気づいたんだ。娘は自宅で殺されたと。マシュ夫人の話を聞きに行き、ソレは確信に変わった」
「犯人はサムカだと?」
デビドは答えない。
「なぜ警察に通報しなかったのですか?一生、刑務所にブチ込めたのに」
「有罪になればな。貴女のような警察官がいれば、の話だ。当時は遺体も発見されてなかった。警察お得意の先入観に基づく捜査の末に、娘の方が貶められて終わりになる可能性も多分にあった。警察は、社会の信頼を全く失っている」
「だから、自ら手を下したのですか?」
またまた口をつぐむデビド。
「貴女は、娘を失った父親の気持ちがわかるか?月のないある夜、娘を殺した男を尾行スル。周りには人影はない。戦争から持ち帰った音波銃を突きつける。真実を話せば許す、と約束する。しかし、イザ聞かされると、とても許す気にはなれない。奴が孫を連れてくる度に、妻の心が死んでいくのが分かった。生き甲斐であるハズの孫を見る度に、一人娘の死に心が壊れていくからだ!」
「だからサムカを殺したの?」
「そんなコトは言ってない。父親一般の気持ちを述べたまでだ。警察は路上強盗に遭ったと言っていたが、証拠がなく、犯人が捕まる可能性は、例によって低い。故に、また誰かが冤罪を着せられる可能性も高い。さて、実際はどうなるかな…」
ふと遠い目をするデビド。
「警部さん。もし可能なら弁護士と話したい」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「テリィ様。なぜデビドが犯人だとわかったの?ヲタクの直感?…もしかしてテリィ様のお嫌いな先入観?」
「sense of wonder さ」
「…私をプラズマ人類の末裔と見抜いた時みたいに?」
ミユリさんは…いや、ミユリさんの肉体に憑依したプラズマ生命体は超古代王朝の末裔だ。ステイタスは"第3皇女"。
「テリィ様。殺されたのは父ではなく母です。その日、両親と3人で食事をスル予定だったのに、母だけが姿を消した。2時間後、王宮に戻るとラリンという親衛隊長が待っていたわ。そして母が毒殺されたコトを知った」
「暗殺か?」
「わかりません。気を狂わすワインを誰かの代わりに飲んだとも…王宮は伏魔殿でしたから。王宮警察もメラニが失踪した時と同様、先入観から犯人を勝手に特定、メイドに冤罪を着せて事件を強引に解決した。陰謀の真相は闇に葬られ、犯人を見逃した」
「なぜ腕時計を?」
「私は、酒浸りになった父王と向き合い、アルコールと縁を切らせた。だから、コレは私が救った命の証」
男物の腕時計を指差す。
「そして、コチラは私が失った命の証」
ネックレスのチェーンを通した女物の結婚指輪。
「コレでテリィ様の次作に登場スル新ヒロイン"ミュー"のキャラクターに少しは深みが出ましたか?」
「どうするかな。王女だけど、夜は娼婦ってキャラにしようと思ってた。でも、案外心に傷を持つキャラも読者に受けるカモね。描くのは苦手だけど」
「私のせいで重い作品になったら、今の読者が離れますね。あまり読者を振り回さないでくださいね」
編集のジィナが逝いそうなセリフだw
「ミユリさん、また明日」
「お休みで良くないですか?」
「僕はSF作家だぞ?それじゃつまらない。また明日の方が希望がアルと思わないか?」
ミユリさんは、カウンターから出て微笑む。
「そうですね。でも、私はメイドですからお休みと申し上げます」
そのママお出掛け。エアリとすれ違う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ。ラギィ?今から逝くわ」
ミユリは、そう呟き音波銃をしまい、腕時計をしまい、ネックレスを外す。居酒屋"スターバッカス"へ出掛けて逝く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバーの地下には、地球の中心、そして、異次元へ続く巨大な洞窟があり、その側壁は全て本棚になっている。
ソレら膨大な本棚には、地球が冷え固まって以来の全ての事象、想念、感情に関する痕跡が永遠に保存されている。
エアリは、その"世界記憶"の司書メイドだ。
「テリィたん、絶対に内緒ょ。私は無関係だから」
「モチロンさ。約束スルょすまないな、エアリ」
「もし、ミユリ姉様にしゃべったら、私、人類を破滅させるから」
エアリは、本棚から"粘土板"を取り出して僕に渡す。
「わかってる」
「じゃあね、テリィたん」
「コレで貸し借りは全てチャラだ」
ジアナ・ミューに関する絵文字が彫られた粘土板。
僕はライトを口に咥え、呼吸を整え解読を始める。
時折、遠くを見る。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"ジャンキー"をテーマに、ジャンキーが"覚醒"したスーパーヒロイン、その夫、それぞれの不倫相手、愛人、友人、摩天楼の住人達、先入観から杜撰な冤罪捜査をする警官、10年前の殺人を追う敏腕警部、超天才と相棒のハッカー、ヲタッキーズなどが登場しました。
さらに、ヒロインのプラズマ生命としての生い立ちなどもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、朝からインバウンドで溢れかえる台風接近を控える秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。