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新婚生活が始まりました。

 必要なものは片っ端から箱に詰めて送り出し、そうでないものは、いらない何も捨ててしまおうと盛大に捨て(あるいは譲り)、引っ越し作業は思ったほどもかからなかった。そちらの肉体作業よりも、役所作業や賃貸契約の解除のほうが疲れたくらいだ。

 そんなこんなで田舎でのイラストレーター生活が始まった。鬼羅に抱か「あばばばばっ!」BLルートに入ってしまった慎は、米のためなら嫁ぐといった手前、それら諸々を受け入れることにした(投げやり気味に)。ただ、すでに耳が少し遠くなってしまった母と、部屋は離れているとは言え、同じ屋根の下にいる。そんなところで致すのは落ち着かないと苦言を呈したところ、Uターンが落ち着いたころに社近くの空き家(ネット回線など各種整備済み)が提供された。持ち主には了承済みで、自由に使っていいとのことだ。鬼羅が何をどう説明してその空き家を確保したのかは、怖くて聞けていない。

 あっという間に新婚もとい二人暮らしが整ってしまった。

 村の誰もが協力的だった。今までも、よく聞く閉鎖的な田舎のねちっこさを見たことがなかった。人の出入りの少ない村は、例に漏れず、あれこれ凝りそうなものだが。他人の動向をあげつらったり、1を10にも100にも増幅させて他人の人格をいじったり。慎の母は外から嫁いできた者だが、今はもう完全に村のおばあちゃんになっている。慎が気づいていないという可能性はあるものの、今は根拠がある。長らく村の中心にある鬼羅の社だ。いわく、鬼羅は淀みを解き、汚れを清めるもの。ファンタジー世界観で言うなら、浄化能力。わかりやすく水に現れ、農作物を洗練させた。それが人に作用しているのではないだろうか。慎の妄想だが。

 村での生活に大きな問題はなかった。ネット回線は快適だ。

 鬼羅との生活はどうなるものかと思っていたが、あっという間に日常に溶け込んでしまった。

 キラサマはずっと村にあった。それが少し顕現しただけだ。意識しなければ背景になってしまう存在で、時々意識してそこにいてびっくりする。

「うわ、いたのか」

「おるぞ。慎にそばであれば、どこにでもいたいくらいだ」

 イケメン設定で描かれた鬼羅だが、鬼キャラということもあって案の段階ではキツめの顔立ちをしていた。鬼羅にもそれが反映されているのだが、慈愛の笑みが乗ると、とたんカドが取れる。満月を凝縮したような金の目はいつも怪しさを秘めているが、幼子を愛でるように細められると、すべてを包容する温かさが宿る。目は口ほどにものをいうとはよくいったものだ。

 そんなこんなで。

「鬼羅、ここ押して」

「ふむ」

 スマートフォンの画面をタップしてもらった。

 キラキラと特殊演出に入る。

『我を呼んだか?』

 cv.安元洋貴。

「本物はやっぱり最高の触媒だなぁ。リセマラいらずだ」

 慎がキャラクタデザインに関わった和風ファンタジー乙女ゲーが正式に配信となった。鬼(イケメン)キャラのデザインは、もちろんいくらか手直しは入ったが、鬼羅のビジュアルで通ってしまった。勝手に慎が思っていただけの声帯までついた。名前も、字は異なるが、“キラ”だ。そのゲームの主要キャラクタの名前は鉱石からつけられている。その鬼キャラの名前は雲英(きら)。打ち合わせの際に色々口を滑らせてしまった結果である。

「それが我の声か?」

「そっくりだよ。あぁ、でも自分の声を録音して聞くと違って聞こえるっていうし、鬼羅にはわからないか。そっくりそっくり。すごくかっこいい」

「もっとほめていいぞ」

「調子に乗るな」


「キラサマ、慎くん。リセマラ付き合ってくれんか」

 玄関から呼ぶ声。田舎によくあるセキュリティガバ環境である。漏洩しては困るものもあると説明しているので、無遠慮に上がってくるまではしてこないが。

「ヤスさんも始めてくれた?」

「そりゃあ、慎くんが関わっとるからな。このゲームも長く続けば、その分慎くんも仕事が長く続くんだろ? 協力は惜しまんよ」

「ありがとうございます? 関わったゲームを楽しんでもらえるならうれしいよ。課金はほどほどにね」

「おやつの時間には、女性陣が一気にくるぞ」

「あはは……」

 村の外には口外しないようにと注意をした上で、慎はイラストレーターということを隠していなかった。おかげで村民分のアクティブユーザーがいるはずだ。

「僕が離れている間に、ここの人たちずいぶんITに強くなったよね。回線も強いから、帰ってこれたんだけど」

 慎が村を出るより以前は、いかにも田舎のおじちゃんおばあちゃんレベルだったはずだ。それが、今やネットスラングまで通じる始末である。それをITに詳しくなったといっていいのかはわからないが。

「そこは加代さんのがんばりだな。ネット回線はみんなで出しあったが。慎くんの活躍を見るには、インターネットに強くないといかんからなあ。ゲーマーも育っておるぞ」

「うん、実家にSwitchとプレステの新しいのあった」

「できるようになれば、便利なもんだ」

「そういえばみんなLINE使ってたね。僕もグループに入れられた」

「最近はDiscordなんだろう?」

「場合によるんじゃないかな?」

「キラサマ、慎くんにママになってもらって、自分をミネロマの雲英だと思いこんでいる一般人Vtuberはやらんのですか?」

「インターネットやめろ!!」

 なお、ミネロマとは、慎がキャラクタデザインとして関わっている今日から配信開始の乙女ゲームの略称である。

 康史にはさっさとキラに神引きをさせて帰ってもらった。

「じゃあ、これから仕事、打ち合わせとかもあるから、こもるね。声はかけていいけど、入ってこないように」

「ストリップでもせんと出てこんのか?」

「何回言わせるんだ。仕事部屋は天の岩戸じゃないよ」

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