未来を繋ぐ龍
『続けよ。』
「!?」
石像のその一言に、カラスの手が止まった。まだデッキは外されていない。
『カードを引け。』
「ちょっと!?アルは戦えるような状態じゃないのよ!」
石像に食って掛かったのはカガミだ。しかし、それを止めたのは先程気絶したばかりの少年だった。
「番人の言うとおりだ。俺は戦える。」
「アル!目覚めたの!?なら動かないで!」
「断る。」
「どうして!?」
「俺は…勝つからだ。」
謎の自信。立ち上がった少年はデッキからカードを6枚引く。このバトルの初期手札は3枚。6枚引いて、その中から3枚選んでデッキに戻す。しかし、少年は5枚戻した。宣言通り、少年の手札は1枚だ。
「さあ、お前もさっさと引きな。」
「…馬鹿にするのもいい加減にしろよ…!」
思わず敬語を忘れてしまうほどに怒っているカラスであったが、少年は全く気にしていなかった。
1ターン(少年のターン)
「俺が先行だ。」
「何やってるの!?先行だと最初にドロー出来ないから手札が1枚だけになっちゃうじゃないの!」
「1枚あれば充分だ。…おっとと、《エヴォリューションワーム》を場に出して使用するぜ。この時効果も発動する。…今は意味がないがな。(手札1→0)」
少年がふらつきながら使用した1枚のカードは大きなミミズのような見た目のモンスターが描かれたカードだった。これが場に出された事で、魔法により、その巨大ミミズが半実体化して出現する。
「戦闘力…たったの1!?そんなの出してどうすんのよ!」
《エヴォリューションワーム》
戦闘力:1
「…貴方の手札は0。もう何もできないでしょう?早くターンを終わらせてください。その1しかないライフを消し飛ばしてあげます。」
「できないだろうがな。ターンエンド。」
ふらつきながらも、相手を煽り続ける少年。今日の半日で彼に抱いた印象、静かで落ち着きのある印象とは正反対の今の彼の言動に、カガミは不安を感じた。
2ターン(カラスのターン)
「私のターン!ドロー!(手札3→4)」
カラスの本気が伝わってくる鋭い引きだ。
「私は《疾風鎌鼬》を3枚使用します!このカードは場に《疾風鎌鼬》以外が存在いない時にのみ使用できます。(手札4→1)」
《疾風鎌鼬》
戦闘力:4
条件:自分の場に《疾風鎌鼬》以外のカードが存在しない。
「戦闘力4が3体も!?」
半実体化した3匹の鎌を持ったイタチ。その手の鋭い鎌なら、少年のミミズを切り刻む程度は容易いだろう。
「それで一斉攻撃されたら俺のライフは0になるな。」
口ではそう言いながら、しかしその顔には余裕の笑みが浮かんでいる。この時点でまだ勝ちを確信している少年の様子を見て、カラスは更なる攻めの一手を打つ。
「3体の鎌鼬を墓地に送って、私は《疾風天狗》を使用します!(手札1→0)」
赤い顔に長い鼻のお面を被った、翼の生えた修験者が現れる。場のカードを3枚も墓地へ送って使用された最上級カードであるから、強力であるのは間違いないだろう。しかし、少年の笑みは消えない。
「このカードは攻撃対象にしたカードを強制的に墓地へ送り、2のライフダメージを与える強力な効果を持つ上、2回攻撃できる特性もあります。その雑魚カードがどんな効果を持つかは知りませんが、この攻撃で終わりです!」
《疾風天狗》
戦闘力:8
条件:自分の場のカードを3枚墓地へ送る。
効果:このカードが攻撃をした戦闘処理の直前に発動する。攻撃対象としたカードを墓地へ送り、相手に1のライフダメージを与える。
特性:このカードは1ターンに2回攻撃できる。
「天狗でその雑魚カードに攻撃します!そして天狗の効果が発動し、私の勝ちです!」
天狗の作り出した竜巻が、エヴォリューションワームを巻き込み吹き飛ばす。吹き飛んだワームは少年目掛けて落ちてくる。これが当たれば少年のたった1しかないライフが消えるのは確実だ。
「…エヴォリューションは進化だ。」
エヴォリューションワームは少年にぶつかる前に、上空で爆散した。少年にダメージは無い。
「エヴォリューションワームは進化を望んだ。進化とは後世の希望。エヴォリューションワームは死ぬ事で未来を繋ぐ。」
「…何を言っているんです?」
「場をよく見てみな!」
「「!?」」
先程までエヴォリューションワームがいた所に1つの卵が残されていた。その卵にはヒビが入っており、今にも生まれそうだ。
《エヴォリューションワーム》
効果:このカードの使用成功時に発動する。この効果を発動したこのカードが墓地へ送られた場合、自分のデッキから戦闘力4以下の『エヴォリューション』カード1枚を使用する。
特性:このカードと戦闘を行うカードの効果は、ターン終了時まで無効となる。
「これが貴様を殺す、そのために生まれる龍だ。俺はデッキから《エヴォリューション・END・ドラゴン》を使用!」
終焉をもたらす龍が、誕生した。
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