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Origin〜最強のデッキと神のカードで無双する〜  作者: 山科独名(やましなひな)
第一章 墓場に眠る神のカード
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神を求める少女

「待って!」


 店を出て暫く歩いたところで呼び止められる少年。声の主は、先程の少女だ。


「…ついてきていたのか。」


 周囲に人気はない。先程の酒屋周辺も人通りの少ない場所であったが、ここは更に人が減る。街の隅の隅。特に夜のこの時間帯は犯罪者も出没する危険地帯だ。空の満月の微かな月明かりのみが辺りを照らしている。


「ついてきたら、何か悪いわけ?」


「いいや、ただ危ないだけだ。」


 警戒心の薄さ、一般とずれた常識…明らかに普通ではない少女に、少年は警戒心を高める。それを感じ取ったのか、少女は黙り、静かになる。少年の脇に抱えられた男のいびきだけが煩い。


「…ねえ、貴方、その年でハンターなの?」


「…俺はもう成人している。」


 驚いたような表情の少女。そういった反応をされるのには慣れている少年は、ただただ呆れたように少女を見つめるだけだ。


「用はそれだけか?」


 少女に背を向け、歩きだそうとする少年を、再び少女は呼び止める。


「待って!…頼みたい事があるの。」


「…酒臭いただのハンターにか?」


 酒に濡れた体はまだ乾ききっていない。それに抱えている男は酒に酔いつぶれている。酒臭いという形容詞は間違いではない。


「ハンターは金さえ払えば何でもしてくれるって聞いたわ。」


「できることならな。」


 命懸けで金を稼いでいるのがハンターだ。それでも生きるので精一杯な金しか手に入らないのが常だから、ハンターは金稼ぎに目がない。カードバトルが弱いせいでできることは少ないが、金さえ払えば何でも言うことを聞いてくれるという考えは間違っていない。


「…幾ら払える?」


 少年が聞くと、少女は小さな袋を少年に向かって投げた。チャリンという軽い音が響く。


「この程度か?」


「中身を見てから言いなさい。」


 少年は地に落ちた袋を拾い上げ、中身を見て、目を見開いた。中にあったのは大きな金貨が1枚だけ。しかしそれは、ハンターの年収のおよそ1000倍の価値があるとんでもない代物であった。


「大金貨だと…?俺がこれを持って逃げるとは考えなかったのか?」


「それの価値がわかるってことは、貴方、少なくとも()()()ハンターじゃないでしょ。」


 大金貨は一般には出回っていない。貴族や富豪が使う、高価なものだ。職人が一つ一つ丁寧に加工して作るこの金貨は、デザイン質量体積その全てが厳密に規定されており、複製は恐ろしく困難だ。当然、普通のハンターはその存在すら知らない。


「それに、その金貨の価値を知る貴方がそれを持って逃げるわけがない。」


「…意外と頭は回るようだな。」


「意外と、は余計よ。」


 そう、この大金貨を持ち逃げすることは、少年にとってハイリスクローリターンな行動だ。こんな物を投げて寄越せるような少女が、貧乏ハンター一人を捕まえる程度は造作もないだろう。その上、大金貨は一般に出回らないため、このままではただの金属の塊だ。


「それは前払い。依頼達成報酬は、それを同価値の銀貨に換金してあげるわ。」


 銀貨は一般に出回っている最高額の貨幣だ。少年でも、銀貨ならば普通に使える。ただの金属の塊が一生遊んで暮らせるだけの金になる。しかし…


「その依頼が達成不能と判断した瞬間に、契約を解消できるのであれば受けよう。」


 破格の報酬に高いリスクは付き物だ。当然、警戒する。


「良いわよ。」


 少女の返答はすぐだった。そこに迷いは無い。


(俺が逃げてもこいつには何のダメージもないということか。…なるほど、そういうことか。)


「良いだろう。…と言いたいところだが、俺を雇うと自動的にこいつが付属する。構わないか?」


 少年は脇に抱えた男を指差す。その後、少年と男の2人で1人分の報酬で構わない旨を少女に伝える。


「ええ、勿論。人数が増える事に越したことはないわ。」


「…」


「じゃあ、依頼内容を話すわ。私と一緒に”全属性カード”を探してほしいの。」


 全属性カード…1000年前、始龍帝が世界樹の下で見つけたという、伝説のカード。たった1枚でバトルを終わらせた逸話を残す。始龍帝亡き後、その忠臣であった黒騎士によって世界樹の下に再び封印されたという話は有名だ。


「たかが昔話を信じているのか?お子様だな。」


「当然よ!私には伝説を信じる根拠があるもの!」


「へえ…ではその根拠とやらを教えてもらおうか。」


「…私のメインデッキは4()1()枚よ。これだけ言ったら分かるんじゃないかしら。」


(…ふうん。なるほど、面白い。)


「…全属性カードを入手するには、各属性の”神のカード”が必要なんだったな。あと10枚…いや、9()枚か。」


 少年が言うと、わかってるじゃない、とでも言いたげに笑顔を見せる少女。少年の予測…()()()()()()()()()1()()()()()()()()という予測は当たっていたようだ。


「次のカードの場所も分かっているわ。明日の朝には出発するわよ。」


「わかった。明日の朝、何時何処へ向かえばいい?」


「そんな事を気にする必要はないわ。」


「…何故だ?」


「…こっちは分からないのね。理由は簡単よ。私は今日寝る場所がないの。」


「…まさか…!」


「気付いたみたいね。私は今夜貴方の家に泊まるわ。」


 面倒な事になったとでも言わんばかりに顔に手を当て空を見上げる少年。年端も行かない少女と酔いつぶれた男を見て、藁を敷き詰めただけの簡素な寝床ですら寝られない未来を彼は予測した。


 そして事実、彼は薄い布を敷いただけの石畳の上で一夜を過ごす事となった。

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