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Origin〜最強のデッキと神のカードで無双する〜  作者: 山科独名(やましなひな)
第一章 墓場に眠る神のカード
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魔獣ハンター

「魔獣だ!魔獣が出たぞ!」


「逃げろ!」


 カードによってあらゆる事を決められるこの世界において、カードではどうしようもない存在がある。それが魔獣だ。

 人間の敵である魔獣は、カードの力の影響を受けない。強力なカードは日常的に実体化させて戦わせる事ができるが、魔獣は実体化させたカードをすり抜けてしまう。そのため、強靭な肉体を持つ者たちでないと倒せないのだ。


「ハンターだ!ハンターが来たぞ!」


 魔獣を倒す専門家、ハンター。彼らはカードよりも己自身を鍛え上げることで、魔獣に対抗する。とても大事な人々だ。しかし、そんな彼らの評価は低い。


「おせーぞハンターども!」


「魔獣がもう村に入ってきてしまっているじゃないか!」


「さっさとそいつらを倒せよ!」


 カードバトルの強さが重要視されるこの世界で、カードバトルの腕を鍛えないハンターのカーストは低い。魔獣には強くても、人間に弱すぎるからだ。そのせいか、才能がなくてカードバトルがそもそも弱い人間が仕方なくハンターになる、というのが一般化してしまっている。元々弱い人間が強くならないのだから、当然、弱いのだ。


「畜生!やってられっかこんなもん!」


 魔獣退治が行われた日の夜、とある小さな酒場にて、一人の男が叫ぶ。バンッと木製のジョッキが勢い良く机に叩きつけられるが、水滴一つ飛ばないすっからかんだ。真っ赤な顔からも、彼が酔っ払っている事が伝わる。


「落ち着け馬鹿野郎。」


 そんな彼を相席する少年が宥める。言葉遣いこそ荒々しいが、口調は穏やかだ。一応少年と書きはしたが、それは外見が背が小さく子どもっぽいというだけで、彼は既に成人している。声は寧ろ一般的な成人男性より低い。


「いつもの事だろ。」


 この2人はハンターだ。この日の魔獣退治にも当然参加していた。命懸けで戦っていた。にも関わらず貰えたのは罵声とちっぽけな報酬だけ。しかしそれはハンターの日常であった。


「でもよ!少しぐれえいい思いしたっていいだろうが!魔獣目の前にして逃げてやろうか!」


「そんなことしたら仕事なくなるぞ。」


「畜生めぇ!」


 ハンターになるような人は、ハンター以外の仕事が見つからなかった人である場合が多い。そのため、安い報酬でも働かざるを得ないのだ。いわば人生の負け組なのである。


「他の国だと奴隷とかが魔獣退治をしているらしいからな。ハンターとして報酬を貰えるだけマシなんだろう。」


「ハンターは奴隷と同列ってか…はぁ…」


 机に突っ伏した男はそのまま寝てしまった。


(ジョッキ1杯のエールだけで酔いつぶれるか…財布に優しい体質だな。)


 少年が寝落ちた男を抱え、帰ろうとした時だった。


「うおっとぉ!」


 すれ違った男性の手からジョッキが滑り落ち、少年に酒がぶちまけられる。だがどういうわけか、少年の抱える男には酒は全然かかっていないようだ。ぐっすりと眠っている。


(こいつ、恐ろしく運が良いな。)


「おいおいこのガキ。何ぶつかってくれてんだおい。」


 ぶつかっていない。男性と少年はすれ違っただけで接触はしていないのだ。


(またか…)


 少年はその外見とハンターという職業のせいか、とても絡まれやすい。


「俺の酒どうしてくれるんだよぉ!」


 店内をざっと見回してみるが、案の定、少年を助けようという人はいない。


(面倒くせえ…)


 こういうのは黙って無視するに限る。少年は男性を見向きもせずに立ち去ろうとする。が、当然止められる。


「おい、弁償しろや。」


 顔を近づけ威圧するように話す男性。その息はかなり酒臭く、相当酔っている事がわかる。この手の輩はしつこいから面倒だと思いながらも、力任せに押し通ろうとする少年。少年もハンターだ。この体格でも相当の筋力がある。酔っ払った中年男性の一人や二人、押し飛ばす程度はわけない。

 だがこの時、想定外の事態が発生する。


「何をしているの!」


 鋭い少女の声。声のした方向を向くと、小綺麗な少女がいた。服装などは一般市民のそれと同じようなものだが、染み一つない綺麗な物であり、燃えるような赤い髪もかなり丁寧に手入れされているようだ。


(大商人か貴族のお嬢様ってところか。なんでこんなところに…)


「子どもにたかろうとするなんて…恥を知りなさい!」


(子どもじゃないがな。)


「へえ…嬢ちゃんあれを庇うのかい…けどなぁ、あいつらは…」


 少女の方を向いてねっとりと喋る酔っ払い。酔っているせいか正常な判断ができなくなっているのだろう。喋りながら少女の至近距離まで近づく。少女の方は引くことなく毅然と睨み返しているのだが、その表情は強ばっている。そして男性が叫んだ。


「あいつらはなぁ!ハンターなんだよ!ド底辺の!雑魚の掃き溜め!ハンターなんだよ!」


 店の外の通りにまで響くほどの大声だが、負けじと少女も言い返す。


「ハンターだからって何をしても良いわけ?」


「良いに決まってるだろうが!」


 店の出入り口付近で言い合いを始める2人。店から出たい少年にとってこれはかなり邪魔であった。酒で濡れた金を、嫌そうな顔をする店員に雑に押し付けた少年は、2人に向かって言う。


「邪魔だ。どけ。」


 低く、ドスの効いた声であったので、思わず一瞬固まってしまう2人。その間にスタスタと店を出ようとする。


「…待てよ!ふざけてんのかガキ!」


 がしかし、男性に肩を掴まれ止められる。その瞬間、男性の方を振り向いた少年は逆に彼の腕を掴み返した。その力は強く、振りほどくことはできない。


「なんだ!やろうってのかぁ!」


 そう言って掴まれていない方の手を懐に入れる男性。デッキを取り出す気だろう。


「良いのか?それを出せば俺はお前の腕をへし折るぞ。」


 そう言ってギュゥゥっと握る力を強める少年。万力のようにギリギリと絞め上げる。その力は強く、本当に腕をへし折れてしまいそうで、男の手は懐から出ることなく止まる。


「忘れるな。お前は俺より弱い。ただデッキが強い()()だ。」


 さらに握りしめる力を強める少年。痛みに声を上げた男性は、懐のデッキを落としてしまう。手を離すと、男性は大急ぎで散らばったカードを掻き集める。それを尻目に少年は店を出た。

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