黒い妖精
「お前、筋力やべえな…」
「へ?」
攫われたはずの少年との戦いにベニテが勝利し、気絶した少年をAが担ぎ上げる。彼は既に気絶した少女も担いでおり、同程度の体格の人間2人を同時に担ぎ上げている状態だ。
「俺はお前が人間だということが疑わしく感じてきたぜ。お前も妖精なんじゃねえのか?」
「なんでそう思うの?」
「ちっちゃいから以外に理由があるのか?」
「26でその身長は、妖精の中でも小さい方ですよ。」
「ゑ。」
ベニテの発言に対し、驚きを隠せないでいるカツラ。なにせ彼の目の前にいる妖精の少女は22歳でありながら少年Aを下回る身長なのだ。
「なんだ?妖精ってのは25歳くらいで急成長するのか?」
「そんなわけないじゃないですか。成長のしかたは人間と一緒ですよ。」
「ゑぇ!」
「…なんですか?」
「いや…かわいそうだなと思って…」
「余計なお世話です。この外見で不便したことはありませんから。」
「おうわかった。じゃあ、気にせず嬢ちゃんって呼ぶことにするわ。」
「…もうちょっと年上への敬意が欲しいものです。」
「その外見だと難しいぜ。」
「ぐぬぬ…」
「いたずらな妖精さんってあれかな?」
「「!!」」
それに真っ先に気が付いたのはAだった。崖の上からこちらを見下ろす黒い影。ベニテ同様にアゲハ蝶のような翅を背中につけた、髪も服も真っ黒な少女が立っていた。
「あら、下僕がやられたようなので見に来てみたら…お姉様じゃあありませんか。」
黒い妖精の少女は、良く通る声でそう言った。これに反応したのはベニテ。少女の言葉から、ベニテはあのいたずら妖精の姉だと推測ができる。その上で2人を見比べてみると、髪と服の色、そして目の開き具合が違うこと以外、瓜ふたつとわかる。
「ボテン…!」
いたずら妖精の名前はボテンと言うのだろう。ベニテが呟いたその名前に反応した者がいた。当然、空気の読めないAである。
「美味しそうな名前だね。」
「何でだよ。てか前にも似たような事言ってなかったか?」
「イボテン酸。」
「やっぱり毒じゃねえか!」
なお、イボテン酸というのは、赤に白のツブツブがついた特徴的な傘を持つ毒キノコ、ベニテングタケ等に含まれる毒で、強い旨味成分でもある。
「ま、どうでもいいか。おーい!ボテンさんとやら!他にも攫った子がいるだろう!返してもらうぜ!」
どうでもいいと言いながら、イボテン酸とも聞こえるように煽っていくカツラ。その言い方にカチンときたのか、言い返すボテン。
「人間如きが…煩いですわ!下僕達!あの煩い人間をやってしまいなさい!」
森から子ども達が現れる。その数4人。一気に数的不利状況に立たされた3人だが、この状況を打開したのはカツラだった。
「びびってんのかいボテンさん?子ども達を使わなきゃ俺一人にも勝てないって事かい?」
「何が言いたいのですの!」
「こいつで俺とタイマン張りな!それともなんだ?5対1でバトルするか?人間相手に人数でマウント取らねえと戦えない雑魚妖精の烙印を押されるかもだけどな!」
「そっちだって3人いるじゃない!」
「おおっと、ここの2人は見てるだけだぜ?お前の相手は俺一人だけだ!」
カツラは賭けに出ている。ボテンがここで挑発に乗らない場合、彼は同時に5人を相手しなくてはならなくなるからだ。そのリスクを踏まえた上で、ボテンとの1対1の可能性に賭けているのだ。だが、彼は何も考えずにこのような博打に出たわけではない。ボテンの性格を読み、この挑発に乗る可能性が高いと判断した上での行動だ。イボテン酸煽りは布石だったのだ。
「言いですわ。その喧嘩、買ってやります!後悔しないことですわ!」
乗った。崖からゆっくりと降りてくるボテン。ニヤリと笑うカツラ。彼の読みは外れていなかった。だが、カツラがバトルするには、1つ大きな課題がある。
「魔力足りる?」
Aが指摘する通り、カツラは決定的に魔力が足りない(らしい)。だが、その事を理解していた彼は、ちゃんと対策を用意していた。
「俺にはこれがある!」
そう言って鞄から瓶を取り出し、中の液体を一気に飲み干す。
「魔力ポーションですか!」
魔力を急速に回復させる高価な飲み薬。それが魔力ポーションだ。瓶1本だけでもかなりの値段なのだが、カツラはこれを1度に飲み切った。この魔力ポーションの最大の利点は、魔力が最大値の状態で服用しても、液体として体内に残留するため、服用後およそ1日の間、魔力が減少した瞬間に回復が可能になる。実質一時的魔力最大値の増加が可能となる点にある。
「最終手段だぜ。俺の3年分の稼ぎがこれで吹っ飛んだが、構わねえ!」
瓶1本分の魔力ともなると、かなりの量だ。一般人の魔力量は軽く上回る。過剰にも思われるが、これでもカツラは若干不安そうである。
「これならバトル1回は保つだろうな…さあ!バトルだ!」
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