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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
帰郷:越えるはかつての憧憬
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別行動

 朝早くからバー・アリエルにいる白衣の男、女騎士、少年の三人。


「船、時間がかかるって言ってたけど、その間どうするんだ?」


 ソリッドがこのごろ気に入っている角砂糖を四つ入れたコーヒーを飲み干し、融け切らない砂糖をじゃりじゃりと鳴らして尋ねた。


「一つは武具の調達、チェシャ君が言っていたミスリルの採取からだな」

「ミスリルって魔力で硬くなるのよね?」

「あぁ。原因は分かっていなかったが、魔圧のことを考えれば何かしら説明は付きそうだな……これは実験用の分も採れれば調べてくる」


 ミスリルはそれ単体では確かに硬くはあるが、最硬とまではいかない。本質は魔力を流すとダイヤモンド並み、もしくはそれ以上のの硬さを得ること。

 故に魔力を流せなければ費用対効果が見合わず、自然とミスリル製の武具は上級者用の装備となっている。


「そんなことは正直どーでもいいけどよ。オレの装備とかねぇのか?」


 ソリッドはあまり防具を持っていない。勿論急所は守れる程度は付けている、が、本人が重いのは嫌だと言っているのと、役割の関係上機敏に動ける方が良いのが理由だった。


「アリス君が使っていた(magic)(burst)の原理が分かれば二代目の錬金砲──練金ではなくなるが、作るつもりはある」


 増幅と充填によって放たれる圧倒的魔力の力押し。どちらも魔術には存在せず、ボイドからすれば未知の技術。だからこそ、解き明かしたい気持ちはあった。しかも魔力バカのソリッドと相性が良い。一石二鳥なこれを放置する理由はない。


「ほー。じゃっ、気長に待っとくよ」


 ソリッドはそれを見ているので期待を募らせて待つことを決めた。いつ出来るにしても、まずは彼自身が魔法と魔術を使いこなせなければ意味はないのだ。それでも、練習のモチベーションにはなったであろう。


「あたしは船作りに詳しく無いけれど、一朝一夕で出来るものじゃないのよね? 一節はかかるの?」

「だろうな……。本国に要請は入れたが、理由を説明してパニックになられても困る。理由もなく急がせることは出来ん」

「言っちゃダメなのか?」

「ダメでは無いんだがな、もしそれをすればアリス君の説明がいる」

「でしょうね」


 唯一の手がかりとでも言うべき彼女が連れて行かれるのは言うまでも無い。そうボイドは言う。

 クオリアもそれには納得だった。

 そうなれば面倒なのは確実だ。


「アリス君が取られてはグングニルの探索は出来ない。それに、アリス君の言うままで良いのか、確証が持てんのだ」

「ロックの解除。だっけ?」

「ああ。最終プログラムとやらの中身は知らんが、動きの遅い本国にアリス君を送っても時間がかかるだけに違いないからな」

「国に言えば、兵隊の奴らがくるじゃねぇかよ」

「その兵隊は神の試練を一から探索するのか?」

「あっ」


 そう。神の試練の転移装置は番人を倒さなければ任意の場所へは飛べない。それに行軍には時間がかかるのだ。迷宮探索には向かない、だからこそフットワークの軽い探索者が存在する。

 そもそも神の試練は数の暴力を許さない。過去にも大群での攻略は全て突然現れた神の悪意で滅ぼされているのだから。


「地図を提供したとしても、時間はかかるわね。しかも上の奴らって大抵頭硬いしねぇ」


 近衞騎士として国の会議に出たことのあるクオリアが思い出すように言った。多人数を動かすに当たって様々な障害があることは彼女も理解してはいるが、納得できるとは限らない。


「そう言うことだ。船をここまで運べと言うだけでも問い詰められたんだ。これ以上は言えん」


 内陸地方に小舟だとしても、船を運べ、というのはなかなかに難しい要請である。


「なんて説明したの?」

「素直に迷宮探索に要るとだけ言ったさ。一応成果物の一部は向こうに送っている。未知の場所を探索するとなれば納得は得られた」


 チェシャとアリスと違い、ボイドは仕事として来ている。所長故にある程度の自由はあったが、その権限は仕事を果たしているからこそのものであった。


「面倒ねぇ」

「必要なことだからな」


 口ではともかく、そのしぐさは面倒そうだった。皮肉げに笑っていた彼は表情を変えると言葉を続ける。


「……少し相談がある」


 *


「おはっよう~!」


 鈴の音。同時に飛び込んでくる元気な少女の姿。

 バンッ! と開け開かれたドアをチェシャが律儀に閉めてから入ってくる。彼女の姿を見てクオリアはニヤリと笑う。


「おはようアリスちゃん。上手くいった?」


 まだドア付近でサイモンと話をしているチェシャには聞こえぬ声量でクオリアがアリスに尋ねた。

 返ってきたのはパチンと音が鳴るようなウインク。


 意味深な会話にボイドとソリッドは疑問符を浮かべる。


「おはよう」


 遅れてチェシャが手を挙げて挨拶をした。

 三人はそれぞれその挨拶を返す。


「船の話、どうなった?」


 当たり前のように五つの椅子が用意されている机の椅子にチェシャは腰掛けて尋ねる。


「どういう方法かは分からないが、用意はしてくれることにはなった……が、時間がかかる」

「そっか」


 船が手に入るならとチェシャは頷く。


「その時間をどう埋めるかだが、とりあえずはチェシャ君の言っていたミスリルの採取のつもりだ」

「ん。でも、防寒具持ってきてないや。取りに行ってこようか?」


 第三試練を探索するとなれば手袋が無ければ金属製の槍など持てるわけがない。


「今日はいい。話はむしろ変わる」

「え?」

「ミスリルの採取は私たち三人で行う」

「は?」


 チェシャは達が第四試練を攻略したとはいえ、第三試練も決して手を抜ける場所ではない。ましてや3人では。チェシャはぽかんと口を開けたまま固まった。アリスも大量の疑問符を浮かべている。


「アリス君から聞いた話だと帰省しなければならないと聞いている」


 ああ、とチェシャは得心が言った顔で声を上げた。

 同時に気を利かせてくれていることに罪悪感を抱いた。


「そこまでして貰わなくても……」

「肉親は──大事にすべきだ」


 淡々と、けれど気迫の入った声。

 チェシャ以外もその言葉を否定するどころか肯定する様に頷く。


「……分かった」


 それを断ることなど、出来なかった。


「でも、どうして三人? アリスは?」


 チェシャが行くことに納得はしたが、アリスが数に入っていない。


「何を言っている? 君についていくに決まっているだろう」


 これにはアリスも驚いた。近くにいるクオリアにほんと? と尋ねている。


「……どうして?」

「詳しくは知らないが、心的負感情を持ち帰られては困るからな、調整役だ。アリス君以外に適任は居ないからな」


 チェシャはアリスに何処まで話したんだと問いたくなったが、皆に心配をかけているのを同時に理解してしまった。ちらりと目をアリスに向けると、申し訳なさそうに目を伏せる彼女の姿が視界に入った。


「……ごめん」


 アリスに悪気がにないと分かる彼に怒りなど湧かなかった。

 それに彼女を、ひいては仲間たちを心配させた自分の落ち度なのだから。


「気にするな。それに、カナン達にも声をかけてある」

「……なら、安心だ」


 連携の面はともかく、いつもより一人多い。実力も申し分ない。素知らぬ相手でもないのだ。これ以上チェシャが心配することもなかった。


「連絡は……そうだな、十日以上かかるなら……その前に、チェシャ君の故郷はどのくらい遠くにある?」

「えっと、行きは早朝に出る馬車で行けるところまで……泊まってを繰り返したけど、それで五日だった」


 チェシャは指を折りながら数え、答えを出す。


「ふむ。なら、村着いてから滞在予定期間についてだけ手紙で送ってくれ。宛先は組合でもいい」

「分かった」

「話は以上だ。他に何かあるか?」


 ソリッドが漸く終わりか!? と話を聞くのが面倒になって突っ伏した頭をがばっ、と上げた。


「ミスリルが採れる場所って教えたっけ?」


 チェシャが思い出したように尋ねる。

 ミスリルの話を詳しく話した覚えはないし、チェシャもきちんと覚えていなかった。


「いや、聞いてないな。何か注意事項でも?」

「朝にザクロ……俺が武器とか揃えてるところの店主が、手紙でミスリルの話について送ってくれた」

「その手紙は?」

「持ってるよ。けど、こっちには詳しいことはそんなにない。後で店に顔出してくれって話だから」

「そうか、とりあえず手紙だけでも見せてもらえるか?」

「ん」


 ソリッドは話が長引きそうなことを悟り、喜色満面だった頭を下ろした。


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