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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第一試練:響くは獣王の雄叫び
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探索・グングニル

 

 転移装置によって転移した先はセントラルではなく、チェシャの見知らぬ場所だった。


「ここって?」


「ココノテ村よ」


 ココノテ村はセントラルから南下した位置にある村だ。距離的には馬車で半日程、チェシャはその距離を一瞬で移動したことになる。


「ここで古代技術(ロストテクノロジー)で出来た遺物が発見されたという報告がうちの研究所に来てな。もちろんここの村人が古代技術(ロストテクノロジー)だと気づいたのではなく、セントラルに向かう考古学者が教えてくれたらしい」


 とボイドが訳を説明した。


「そんで、ボイドが色々調べた結果、転移装置って事が判明して今日は転移先の調査に来たって訳さ」


 ソリッドが締めくくった。


「それより、彼女から話を聞きたいのだが……」


 そう言って、ボイドに対してチェシャを盾にするような位置取りで隠れるアイスの方を見る。


「だって」


 アイスには流すチェシャ。


「乱暴、しない?」

「しないとも」

「チェシャが付いてくるなら」

「だそうだが?」


 ボイドがチェシャを見る目には無言の圧力が籠もっていた。脅すというより熱意に近い何かはチェシャを反射的に頷せる。


「まあ、いいけど」


アイスに盾にされるほど信頼されている理由も分からないチェシャは断る理由もないのでとりあえず頷く。


「ならば私が借りている宿へ行こう。部屋代は私が出すから気にしなくて構わん」


 一行は、宿というよりは民宿のようなレベルの宿につき、それぞれ部屋に荷物を置いた後、ボイドとソリッドの部屋に集まった。


「手狭だが、我慢してくれ。本題の前に確認したい事を思い出したのだが、チェシャ君、君はセントラルの神の試練に入った瞬間急に飛ばされた。と聞いたが、他に何かなかったかい? なんでも構わない」

「なにも……。あ、たしか認証? がどうのとかグングニルとか言ってた」

「割と重要そうな情報じゃ無いか...。だが、無条件で飛ばされたわけではなさそうだな。心当たりはあるかい? おそらく君はそれより前も迷宮に潜っているはずだから、前と今日の間に何かあったら筈だ」


 二人が話始めた裏でクオリアとアイスがじゃんけんを始めた。


「昨日、小鹿の水飲み場って迷宮でビッグディアーの異常個体が出て、それを倒そうと他の探索者たちと戦ってた」

「ふむ。それで何かあるかい?」


 クオリアが勝ち、クオリアが木の棒でアイスの頭を叩くが、アイスは小さな丸盾で防ぎ、もう一度じゃんけんが始まる。


「その異常個体は倒せなくて、逃げられたけど、逃げる前に俺は雷で撃たれちゃったんだ。でもなんともなかった」


 今度はアイスが勝ち、クオリアの頭を木の棒で叩くが、巧みに丸盾で防がれる。


「雷で撃たれた……ふむ、続けてくれ」

「その次の日、今日採集でもしようかなって神の試練に入ったら、ってね。後は説明した通りだよ」


 なかなか終わらないアイスとクオリアの勝負。焦ったそうに横で見ていたソリッドが、じゃんけんに夢中になる二人の中、バレないようにそっと丸盾を引きずって二人から遠ざける。


「なるほどな、ところで、雷に打たれたのは君だけかい?」

「ううん、俺の先生的な人も。今はその戦いでの傷で休んでる」

「状況的に仮説は出来た。チェシャ君、明日も我々についてきてもらっても構わないかい?」

「宿代も出してもらってるから全然大丈夫」


 膠着したじゃんけんを制したのはアイス。木の棒を手に取りクオリアに振り下ろす。

 対してクオリアは本来ならあったはずの丸盾を掴もうとして空を切り、手だけが頭に添えられる。


「ありが──」

「ったぁーい!!」


 ボイドの声をかき消すクオリアの悲鳴。

 何事かとチェシャとボイドが振り返る。


「ちょっとソリッド!」

「ふへへ──ん? どうし──待て待て、ごめんってよぉ!」


 無言で木の棒を振り下ろそうとするクオリアと逃げるソリッド。


「はぁー……」


 ため息をつくボイド。


「明日についてはまた朝に話す。今日はゆっくりしてくれ、私はあの二人を止めなければならん」


 こめかみを抑えながらそう言った。

 チェシャは頷いて、困惑するアイスを引き連れ外に出た。


「賑やかだね。あの人たち」

「ふふ。面白かったわ」

「そういえば、アイスはどうするの?」

「どうするって?」

「これからのこと」


 右も左もわからぬ少女が一人で生きていける程、甘くは出来ていない世である。


「分かんない……」


 そうこぼすアイスをしばしじっと見た後。チェシャが口を開いた。


「俺は難しいことはあんまり分かんないけどさ。アイスがここに居るのは俺のせいもあるからさ、いつでも頼ってよ」


 そう言った後、ハッとして付け加えた。


「俺も蓄えがあるわけじゃないから、大したこと出来ないけどなっ」


 彼はアイスを元気付けるように笑い飛ばす。

 それに動かされるようにアイスも笑った。


 

 翌日の朝。

 チェシャ達は宿で朝食を取りながら今日についての話をしていた。


「今日は我々では入れなかったエリアに行こうと思う」


「あの変な扉のとこか?」


 ソリッドが思い出すようにいう。


「そうだ。私たちではアクセス権が足りないと言われたやつだな。仮説が正しければ、チェシャ君とアイス君がいれば通れるはずだ」

「そこまで分かるんだ」

「これでもそこそこ調査はしているからな。……今のところ大した成果は得られていないが」


 自嘲するボイドは薄く笑った後に手をパンと叩いて気持ちを入れる。


「とにかく、今日の目的はそこの探索だ。……あと、アイス君、これを受け取ってくれ」


 そう言ってあのL字型の物体を渡した。

 その後、小さなケースのようなものも渡した。


「君にも来てもらう以上、自衛手段は必要だからな、恐らくこれも一緒にあったものだから何かに使えると思って持ってきた」


 アイスは少し驚いたように目を瞬かせたあと、お礼を言って受け取った。


「では出発……お前らはいつまで食べているんだ……」


 ボイドが呆れた視線を送るチェシャとソリッドがお互い競い合うようにパンをひたすら咀嚼していた。



 *


 転送装置に乗ってグングニルの中に再び入った一行。


「さて、行こうか」


 地図のようなものを広げて先行するボイドとその傍らで大楯を構えたクオリアを先頭に進む。


 その切り替えにチェシャとアイスは意外そうな顔を見せたが、彼らに影響されて顔を引き締め、それぞれの武器を構えた。


 とはいえ、昨日だけでも二体としか遭遇していない。特に何もなく時間は過ぎる。


 五人の空気が少し弛緩し始めた頃に駆動音が聞こえ始め、自動で開いたドアからラクダもどきが現れた。


「ちょうどいい、うちの護衛の力を見てくれ。二人は下がってて構わんよ」

「いよっしゃあ! 出番だぜ! クオリア、時間稼ぎよろしくっ!」


 そう言ってソリッドはボイドから瓶を受け取り、グローブの様なものに付いている穴に流し込み、蓋を閉めた。グローブが震え出して駆動音を鳴らし始める。


「よし、任された!」


 クオリアがラクダもどきの前に立ちはだかる。


 ラクダもどきが突進をするが、最高速度になる前にクオリアが大盾を押しつけて威力を出させない。


 そうして、ラクダもどきが暴れる中巧みに攻撃をいなす。


「クオリア!」


 ソリッドからの声。瞬時にクオリアがその場から飛び退く。


「たらふくくらいなっ!」


 グローブに付いているボタンを押すと、拳の先に穴が開き、炎が放射される。炎はラクダもどきの鉄をたちまち融解させ、支えを失なったそれを倒れこませた。


「いっちょあがりぃ!」

「おつかれ」


 何でもないように戻ってくる二人。


「こんな感じだ。君たちはこれに合わせる形で動いて貰いたい。無理そうなら任せてくれ」


 まさかそんな武器だとは思っていなかった二人はぽかんとしていた。


「ああ、あれもアイス君に渡したものと同じさ、古代技術(ロストテクノロジー)で出来たものだよ。こっちは設計図と出来合い品があったから使い方は分かっているのさ」


 と説明した。

 ラクダもどきとの遭遇はそれ以降なく、無事に目的地の扉の場所に来ていた。


「この扉の横にある手形のようなプレートなんだが、この部屋にあった手記曰く入るための条件があるらしくてな。どちらでも構わないからこの手形に手を合わせてくれないか?」

「じゃあ──」

「わかった。わたしが行く」


 手を挙げようとしたチェシャを制しながらアイスは立候補する。


 そうして、L字型武器を左手に持ったまま右手を当てる。手形と彼女の手は寸分の狂いなく一致していた。


『アクセス権レベル1以上の認証を確認。ロックを解除します。』


 とアナウンスが響き渡ると何かが回る音がした。


「開いたみたい」


 ドアノブを軽く捻ったアイスが報告する。


「ここまで上手くいくのも複雑だが..….。仮説が立証されたのもまた.…..」

「あーも、早くいくわよ!」


 ぶつぶつと言い始めたボイドをクオリアが引きずりながら五人は部屋に入った。


 中はこれまでの部屋とは違い、真ん中にグングニルに来るときに使ったものと同じ転移装置がある。


「あれは……!」


 ボイドは目を輝かせながら駆け寄る。四人も続々と部屋に入り、最後に入ったソリッドがドアを閉じた瞬間、また何かが回る音がした。


 夢中になる一人を除いて全員がドアに注目する。


「ソリッド、あんたどうしてドアを」

「オレじゃない!勝手に……」


『第一、第二層転移経路に侵入者検知。侵入者のアクセス権を確認します。』


 突如響くアナウンス音。五人の顔に緊張が走る。


『……アクセス権レベル1以上を確認。又、特殊アクセス権所持者を確認。音声を再生します。』


 すると、小さなノイズと共に、人の声が聞こえだす。


『あー、あー。テステス。いけているな?ここに来たということは、神の試練でなんらかの試練か、特殊項目を達成した。という事だろう。』


『あるいは■■■か……。さておき、僕からお願いがある。もし神の試練を攻略する意思が有るのならば、グングニルを探索して欲しい。このグングニルは神の試練の攻略に伴って次の層にいけるようになっている。二層へも恐らく第一試練を突破しなければならないはずだ。』


 あまりの情報量に全員が無言でそれを聞く、ボイドもアナウンスに気づき、慌ててメモ帳を取り出しながらペンを取った。


『神の試練の■■■■■■が、くそ、これもダメか。とにかく、神の試練を攻略するのならば、ここも攻略して欲しい。ここには金銀財宝に匹敵するものも存在するはずだ……よろしく頼む。』

『再生を終了します。』


 アナウンスはそこで途切れた。そして、ドアからもう一度何かが回る音がした。


「今の、なに?」

「分からん、情報を整理するぞ」


 五人はボイドのメモ帳を囲む。


「一部聞こえないというより制限されているようなものを感じたが、奥に進むには神の試練を攻略しなければならないというのが一つだな」

「あいつはここの奥に行って欲しい感じだったよな?」


 ソリッドが思い出すように言う。


「ええ、そうね。あたしたちとしてはどちらにせよ神の試練に行かなければならない感じかしら?」

「よく分からないけど、とりあえず今はこれは使えない?」


 チェシャは転移装置を指差して言う。起動されていないそれは光を灯さず、黙り込むのみ。


「だろうな、試してみたいが、いちいち認証やらをしている以上危険性が高い。やるべきことも見えてきた。一度戻ろうか」


 アイス以外が話し合い、一度戻る流れとなって全員がドアから出て、最初転移装置まで戻った。


 チェシャはアナウンスを聞いてから無言になっているアイスを気にしていたが、話しかけはしなかった。




 *


 ココノテ村に帰還した一行は、時間的には夕方とまでは行かなかったため、セントラルに移動しようという話になった。


 しかし、ボイド達は一度研究所に戻りたいという話もあり、チェシャとアイスが先行してセントラルへ向かうことになった。


「これもらっていいの?」


 アイスはL字型の武器を見せながら問う。


「あげると決めたわけではないが、恐らく君も神の試練に行くのだろう? その際に一緒に行くための楔のようなものさ」

「よく分からないけど、ありがとう」


 なんて会話はともかく、一時別れることになった。


 セントラルに向かうための寄り合い馬車に乗り、しばらくなかった緩やかな時間を過ごす。


 馬車がセントラル付近の草原を駆ける頃。

 草原に吹く優しい風が眠気を煽ったのか、チェシャの肩に頭を預けて寝てしまった。


「仲が良いんだねぇ。兄妹かい?」


 チェシャ達の向かい側にいた老婆がにこやかに笑いかける。


「ううん。……仲間、かな」

「そうかい、そうかい。性別が違うと問題もあるだろうけど、皆人間なんだ。お互いよろしくやりなさいよ」


 老婆が巾着袋から飴玉を二つ取り出してチェシャに渡した。


「うん、ありがと」


 受け取ったチェシャは一つは自分の口に入れ、残りは彼の鞄にしまった。



 *

 セントラルに着いてから、チェシャは寝ぼけているアイスに話しかける。


「起きてる?……口開けて?」


 言われた通りに軽く口を開けるアイスにもらった飴玉を放り込むチェシャ。


「んんっ!?」


 アイスは突然の出来事に目を開くが、甘いことに気付いて、そのままそれを味わい出した。破顔している所を見るにはどうやら甘いものは好みらしい。


「よし、起きたね。俺の今住んでいるところに行くから、そこまで行くよ、アイスの部屋も頼まないとだから」


 飴玉を舐めているせいでうまく喋れないアイスは頷きで返す。そのまま時間を彷徨わせ、街ゆく人々や建物を興味深そうに見る彼女はここにきたときのチェシャの行動と一致していた。


 兄弟の上の子が下の子を慈しむような微笑みをチェシャは浮かべていた。そんな彼は時々来るアイスからの建物や屋台の食べ物の質問に答えたりして、二人はハルクの家に着いた。


「ここで待ってて」


 アイスを家の前に待たせて先に家に入る。


「ハルクー? いるー?」


 返事は返ってこない。


「まだ病院かな」


 ハルクの傷を考えれば妥当でもあるが、探索者の鍛えられた器であればどちらの可能性もあり得た。


「……まあいいか。空いてる部屋あるかな」


 ハルク一人で住むにしては大きすぎる家の中を探索するチェシャ。勝手に部屋を貸すのもダメな気はしたが、それなりの事情もあるので、後で報告はしようと決めておく。


「ここいけそう」


 チェシャが使っているものと同じ程度の部屋を見つけた。


 少なくとも安定して宿を取れるようになるまでの短期間を過ごすには困らないであろう程度には家具は揃っている。部屋の中を見渡して頷いたチェシャは家の前にいるアイスを呼んでそこに連れて行った。


「……汚い」


 しかし、大きな家をハルク一人で管理しきれるわけもなく、使われてなかった場所を逐一掃除されていないため、部屋は埃に塗れていた。


「掃除しようか」


 二人は箒を片手にあっちこっちの埃をかき集めて塵取りで集めてを繰り返し。


「まだよ。塵取り構えて」

「もう取れたよ……これ、塵取りじゃ取れなくない?」


 地面に落ちた埃を粗方掃き終えると雑巾を使って窓や家具にたまった埃を拭き取った。


「……。ここ、拭いて」

「はいはい」


アリスとチェシャとの身長差は頭二つ分程。腕の長さも違うので彼女の届かない場所はチェシャなら容易に届く。


「……。笑わないでくれる?」

「笑ってないよ、顔が勝手に緩んでるだけ」

「……」

「ごめんってば」


 たまったゴミを外に出し、雑巾を洗って水を絞り出した。


「あー冷たっ!」

「寒くはないだろ?」

「そうだけど……」


 昼過ぎから始まった部屋の大掃除は夕日が見える頃までの時間を代償に綺麗なアイスの部屋が出来上がった。家具は後程揃えるとして、とりあえず数日過ごす分には問題ないだろう。


「ん〜! 終わったぁ!」


 アイスはうんと伸びをして晴々とした顔を浮かべる。


「疲れた……」

「お疲れ、ありがと。手伝ってくれて」

「このくらいならね。終わったし何か食べない? お腹減ったんだ」


チェシャがお腹をさすりながら提案する。同時に彼のお腹も鳴ったので思わずアイスが声を漏らして、頷いた。


「ふふっ……そうね、何かおいしいものが食べたい」

「何が食べたい?」

「さっき美味しそうな匂いがしていた串焼きの屋台? に行きたいわ」

「ん、りょうかいっ」


 二人は夕陽の下並んで歩き出す。彼らの後ろ姿は兄妹といっても過言ではなかった。






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