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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第一試練:響くは獣王の雄叫び
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研究者

 

「で、どうする?」

「どうするも何も……何ができるのよ」

「なんにも?」

「あなたねぇ……」


 運命的に見える出会いはともかく、現状に進展はない。交わされる会話は空虚だった。

 チェシャはそもそも満身創痍、アイスは記憶喪失、のんびりと会話を交わす元気は二人ともない。


「だってさ、俺も来たくてここに来たわけじゃ無いし」

「それは聞いたわよ」


 二人は軽い情報交換を行い、お互いの状況を軽く把握している。


「しかも、記憶ないってさぁ。もうお手上げだよ」

「うぐ、悪かったわね」

「まあ、後で奢ってもらうからいいや」

「奢る!? あなた、女の子に奢らせる気? しかもお金なんて持ってないわよ!」

「じょーだん」

「……」


 多少は身のありそうな会話をしていると、ラクダもどきがぶち破ったドアから三人の人影が現れた。


「厳重警備指定対象はここの筈だ」

「こんなとこに人なんてくるのかぁ? 機械がミスっちまっただけだろ、どうせ」

「気持ちは分かるけど、警戒しなさいよ」


 本来のものより少し動きやすそうな白衣を着た緑髪緑眼の青年。

 右腕にだけやたらと分厚いグローブ型の大砲のようなものをつけている茶髪に黒目、軽装の少年。

 軽鎧を全身にまとい、大盾を持つ、青髪に空色の目の女性の三人。


「こんにちは……?」


 チェシャが声をかける。

 瓦礫で向こうからは見えなかったらしく突然現れた少年少女に驚く三人。


「本当に人が居たのか、ならばなおさら……」

「おーい、面倒そうなのはあとにしよーぜボイド」

「相変わらずね。……こんにちは、二人は何処から来たの? なかなかこれる場所じゃ無いのだけれど」


 軽鎧の女性は抜かりなく、片手が腰の片手剣に据えられている。

 わずかにその手が動き、軋んだ音を立てた。


 チェシャはその音と同時に自分の服の裾が引っ張られるのを感じた。ちらりと引っ張られた裾の方をみやるとアイスがチェシャの陰に隠れている。


 チェシャと同じ体格が大きい女性の隠されていない警戒心。それがアイスの恐怖心を煽っていた。


 縦にされる程度にチェシャは信頼を得ていたらしい。


「警戒させて悪いけど、こっちも急に飛ばされたからさ、何も分からない。あと、この子は記憶がないんだってさ。出来るなら連れていっ……後ろに隠れるなよ」


 ある意味で警戒の現れなのか、チェシャは敬語を使わない。

 穏便にことを逃れるつもりなら敬語を使い、友好的に接するべきだったが、彼も若いということだろう。


 同年代では比較的大柄なチェシャの体を盾にアイスは隠れる。彼女が比較的小柄な分尚更チェシャが丁度良い盾となっていた。


「あら、可愛い子じゃない。そんな怖がらなくてもおねーさんこわくないよー?」


 流石に怯えられている相手がいる状態で警戒態勢を丸出しにするのは憚られたのか、剣の柄から手を離し、柔らかい表情で話しかける軽鎧の女性。


「……」


 しかしその行為も虚しく、アイスはチェシャを盾にするのみ。

 せめて頭くらいは出してほしかったチェシャもこれには苦笑する。


「なんか、ごめん」


 居た堪れなくなったチェシャが頭を下げる。彼にも頭を下げられては色々と尊厳を傷つけられた軽鎧の女性が頬をひきつらせた。


「いいのいいの。おねーさん気にしてないから。とりあえず、君から話を聞かせてよ」


 チェシャがここまで来た経緯をざっと話す。


「──なるほどね。やっぱりあの時のアナウンスは君たちの仕業って訳かぁ」

「お前ら、背中にこぶのある変な生き物はどうしたんだ? あいつくそかてぇからその辺の武器じゃ倒すのに時間がかかるぞ?」


 ぶつぶつと言い出した白衣の青年を諦めて会話に入ってきた謎グローブの少年。


 よくよく観察してみると彼の手の平には何かの蓋のような丸い縁取りが見えた。


「それは……あれ。あそこでボコボコにしたら動かなくなった」


 そう言ってラクダもどきの成れの果てを指差すチェシャ。


「どれどれ?……こりゃボコボコだ。よくやるもんだ」


 それを覗き込み、ラクダもどきの有様に少し引きながらチェシャを褒めた。


「君たちは帰れなくて困ってるんだよね? おねーさん達仕事中だから、終わったら出れるところに連れていってあげるよ?」

「ほんと!?  ……あっ」


 その言葉にチェシャを盾にしていたアイスが反応する。

 しかし、少し顔を赤くしてすぐに引っ込んだ。

 彼女の様子をニヤニヤしながら見つめる軽鎧の女性は無言でチェシャに反応を求める。


「こちらこそお願いします」


 こちらから頼みたいほどだ。断る理由などあるわけがなかった。


「それじゃあ決まり! あたしはクオリア! そっちの男二人のバカそうなのがソリッド。変なのがボイドよ」


 雑な紹介でも彼女の説明はなんとなく的を得ている。


 馬鹿と変人。それなりにクオリアが苦労していることは察したチェシャとアリスが苦笑する。


「バカってなんだよバカって!」


 ある意味予想通りというべきか、ソリッドは憤慨している。


「あら? 正しい表現よね?」


 チェシャとアイスに同意を求めるクオリア。

 二人はまた苦笑いを返すしか無かった。


 そうしてあーだこーだと騒ぐうちに、ボロボロになったラクダもどきを調べていたボイドが帰ってきた。


「割と興味深いサンプルがいくつか採れた。今日はこの辺りにしよう。話をゆっくりと聞きたいこともあるしな」


 そう言ってボイドが持っている試験管や包装紙で包まれた箱をパックパックにしまい出す。


「了解よ。さっ、行きましょうか」


 そうして、歩き出す三人について行く二人。


「ここからどうやって出るの? 正直何処も同じ景色だから全然わからなくてさ」

「話を聞いたところ、正規の入り口ではないようだ。本来は我々が使った転移装置を使って入るからな」


 チェシャの問いに答えるボイド。続けて補足が入る。


「オレら、サリエル研究所の研究員なんだよ。まあ、オレとクオリアは研究より、ゴリ押しで解決することだけだな」

「ここはグングニルって所で、少なくとも今の人間には過ぎた科学技術で作られていて、中には量産されれば色々と危ない物も有る。ってぐらいしか分かってないのよねぇ。何のためにあるのかさっぱりだし、この建物が何処にあるかもね」


 ソリッドとクオリアの補足を聞く二人。

 どちらかと言えばアイスの方が真剣に聞いている。


「例えば……。これとかだな」


 そう言ってボイドはL字型の物体を取り出した。90度になっている部分には小さな輪っかのようなものが付いていて、長い辺の先には穴が開いている。

 大きさはボイドの片手には少し余るくらいだった。


 それは、見る人が見れば拳銃だと分かっただろう。


「おそらく武器なのだろうが使い方はよく分かっていない、あまり研究が進んでいないのは下手に触って壊すのもというのもあってな」

「それ、貸して?」

「……ああ、構わないが壊さないでくれよ?」


 不意にアイスが口を出した。急な申し出に眉を持ち上げたボイドは少し、考え込む素振りを見せてからアイスにL字型の物体を渡す。


 それを受け取ったアイスは手慣れた様子でそれの輪っかと大体対象の位置にある小さなレバーを動かして、離れたところにある機械に穴が開いている部分を向け、彼女の小さな手の人差し指が輪っかを引っ掛け──


 引っ張った。


 ダァン!


 破裂音のような物が響き、アイスがL字型の物体にある穴が開いてある部分を向けていたところにある機械が音を立てて壊れた。


 武器の穴からは煙が伸びていた。沈黙と共に火薬の匂いが辺りに広がる。それを行った少女は自分でやったにも関わらず、目を見開いていた。


「き、君! 何をした!?」

「落ち着きなさい、この子も困ってるから」


 想定外の事態にボイドがアイスの両肩を掴み、揺らす。もちろんそんな状態でまともに喋れるわけもないので、クオリアが間に入って止めた。


「分かんない……でもなんとなく、こうかなって」


 クオリアによって安寧を得たアイスが落ち着いたのちにポツリと溢した。彼女の言葉を聞いたボイドは思考の海に沈んだのか、ぶつぶつと呟きだす。


「はぁ。今はとにかく帰るわよ」


 一気に静かになったその場をクオリアが率いて、彼らが使ったという転移装置まで移動を再開する。

 そして、四隅に柱が立つ不思議な円盤が敷かれたところまでやってきた。


「ボイド。動かして」


 思考の海から戻ったボイドがその円盤の横に立っている薄い板、もしくは画面のような物を触り出す。


 その板はボイドが指で触れるのに合わせて板の表面が変化していた。


 ボイドがそれから手を離した時、円盤上に光の球体が生まれる。


「さ、これに入って」


 言われるままにおっかなびっくりと乗る二人と慣れた様子で光に入る三人。

 光に飲まれた五人は瞬時に姿を消した。


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