表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第四試練:唸るは英雄の剣
69/221

黒騎士

 

 ──ガキンッ!


 鳴り響いたのは瞬時にチェシャ達までの距離を詰めた黒騎士が振るった槍と、間一髪でその対象となったアリスを庇ったクオリアの大盾が衝突した音。

 凄まじい速度が乗った槍は完全に受け止めた筈のクオリアを大きく仰け反らせた。


「疾い!」


 体制を崩したクオリアに追撃する黒騎士。

 彼女を助けるため、チェシャは慌てて黒騎士に向かって槍を突き刺した。


 ──カンッ!


 先程よりも軽い音。

 チェシャの槍は黒騎士の大盾にあっさり弾かれる。


「かったッ!」


 反動で仰反るチェシャはその反動に身を預けて倒れ込む。

 彼の体が下に倒れると、アリスの射線が通る。


 ──カカカンッ!


 アリスの銃撃も黒騎士の大盾には通用しない。

 いともたやすく弾かれる。チェシャよりも早い一撃とクオリアに並ぶ硬い防御。


「離れろっ!」


 ボイドの声に三人が一斉に飛び退く。

 残された黒騎士に飛来したのはボイドの脱力の魔術である黒い球体。

 揺らぎながら迫るそれを目にした黒騎士は僅かに顔を俯け、槍が淡く光らせた。

 彼はその槍を振るうと黒い球体は切り裂かれてその効力を発揮することなく消滅する。


「ッ!」


 その現象にボイドは狼狽する。魔術が効かない相手ならまだしも、魔術そのものを無効化されたのは初めてのこと。


 代わりにチェシャが槍をなぎ払った黒騎士に接近。

 黒騎士は素早く槍を引き戻し、突っ込んでくるチェシャに向けて突き出す。

 彼はそれを半身で避ける。


 何事もなく過ぎるその刹那はチェシャの見開かれた目と革防具で守られていない揺れる布地が裂かれていることから見た目以上に危険な交錯だった。

 その交錯の先に進んだチェシャは槍を黒騎士の兜で守られた顔に向かって突き刺す。

 その一閃を黒騎士は首を曲げる事で避け、お返しとばかりにチェシャの体に大盾で勢い良く体当たりする。点ではない面の攻撃、至近距離では避けることも出来ず吹き飛ばされた。


「がッ!」


 彼の体は宙を舞い、追撃せんと一歩踏み出した黒騎士の前に今度はクオリアが立ちはだかり、彼女が黒騎士に向けて大盾を構えて突撃した。


「つぅゥゥ!」


 帰ってきた衝撃を堪えようと歯を食いしばりながら加えた一撃は黒騎士を僅かに揺るがすのみだった。

 攻撃は容易く防がれ、黒騎士が薙ぎ払った槍を腹に入れられてせりあがった胃液を吐きながら地面を転がる。

 弾を入れ替えたアリスが銃撃。

 大盾に防がれるが、着弾したのは爆発弾。

 小規模な爆風にさしもの黒騎士も体を揺らした。


 そこへボイドが魔術で火球を飛ばす。

 四つの円で組み合わされた印は連続で火球を吐き出す。


 着弾。爆発。

 大盾を通り抜けて胴部分に命中し、さらに体勢を崩させる。


「っああァァ!」


 叫び声と共にチェシャが横から渾身の体当たり。

 槍を持っていた右側からの体当たりによって黒騎士は槍を取り落とす。


「っっううッ! らあッ!」


 刺々しい鎧に体当たりした事で体中に刺し傷を作りながらも黒騎士の槍をアリスに向かって放り投げた。


「ボイド、壊して!」


 アリスはチェシャから貰ったそれを宙に投げる。

 彼の意思を無駄にしまいと普段以上の力で放り投げられた槍はアリスの想像以上に空を舞った。


「急に言うんじゃない」


 文句を言いながらも素早く描かれた印。

 二重円に交差する直線が入った印、さらに縦にも線が入った印は、火球を吐き出して黒槍に着弾して大きな爆発を起こした。


 バラバラと黒い破片になったそれを見てチェシャは痛みに耐えながらしてやったりと笑う。

 黒騎士は黒槍の一部始終を見ていたが、視線を武器を失った右手に向け、右手は前へと突き出す。

 バキバキと何かが無理矢理成長するような酷く痛そうな音共に右手から先ほど破壊した黒槍が生えてくる。チェシャ達がクロウして壊した黒槍そのものだ。


「こんのッ!」


 そうはさせまいとチェシャは槍を振るうが、黒騎士は重装備に似合わぬスピードで大盾を構えながら後ろに下がっていく。


 大盾を掠めただけに終わり、舌打ちをしながら太腿に挿しているナイフを投擲。 

 防がれないように顔に向けた物と足元に向けて器用に投げ分けられたナイフは黒騎士へと迫る。

 しかし、アリスの弾丸やチェシャの槍を簡単に防ぐ盾には心許ない。そもそも鎧に通るかも怪しい。


 黒騎士は顔へのナイフだけを大盾で弾き、足元へのそれは見向きもしなかった。

 無視されたそれは鎧に弾かれて地に落ちる。

 しかし、その脅威度の薄いそれらに紛れて投げられた球体に黒騎士は気付かなかった。


「目ぇ瞑って!」


 閃光。

 チェシャが投げたのは八百万で買っていた閃光玉。

 チェシャが目を開けると黒騎士は大量の光に視界を奪われ、僅かに体を揺らしている。

 あれだけの閃光を直視して尚立っていられることにチェシャは驚くが、その感情を押し殺して接近する。


 立っていられるとはいえまともに槍は振るえないだろうと思いつつも反応はすると今までの戦闘で判断し、

 直前までは真っ直ぐに突っ込む。

 そして、槍の間合いに入ってからすれ違い様に体をずらし、


 槍ではなくナイフを兜と鎧の隙間目掛けて一閃。

 チェシャの予想通り、槍を振るっていれば穂先が当たり、防げる位置に大盾があった。

 短くなったことでその位置にはもう何もない。


 手応えアリ。鮮血が噴き出る音と感触が帰ってきたのを感じ、ニヤリと笑う。

 肉を抉る感触が彼の気分を高揚させていた。


 黒騎士が噴き出した血は赤ではなく黒。

 どこまでも黒しかないその騎士に四人は不気味に感じ、一様に顔を歪める。


「krrr……」


 黒騎士が不気味に呻く。

 三人はそれを見て傷を負わせたことに顔を緩ませたが、チェシャだけは逆に眉をひそめて距離を取った。

 アリスがそれに気付いて首を傾げた瞬間。


「grrアァァァ!」


 超加速。黒騎士の姿が消えた。


「がッ…!」


 瞬く間にチェシャの体から血が飛び散る。

 三人がそれに気付いた時は黒騎士が槍を振り切った姿勢で、チェシャはその場に倒れ伏せていた。


 黒騎士の持つ槍はただの重槍から取り回しの良い、薙刀を模した槍に変わっている。

 さらに大盾を手放して機動力を追求していた。

 チェシャはその攻撃性の増した槍に切り刻まれ、浅い傷ではあれど体中に切り傷を負っていた。


「チェシャッ!」


 アリスが悲痛な声で叫ぶ。

 そして、怒りをぶつける様に発砲。

 合計六発、全弾発射。


 しかし、アリスの手に収まる程度の銃は黒騎士には心許ない威力。

 鎧に弾かれ、パラパラと落ちた。そして、黒騎士の狙いが彼女へ移る。


「アリスちゃんッ!」


 カカカンッ!

 クオリアが咄嗟に間に入って防ぐが、重く速い連撃にクオリアの腕が大盾の共に上に跳ね上げられる。


「うッ……!」


 そして、腹に蹴りを入れられてその場を転がる。

 無防備になったクオリアを守るためにボイドが連続火球の魔術で時間を稼ぐ。


 が、槍で払われ、避けられる。

 稼いだ時間はクオリアがなんとか立ち上がろうと手をついて、体を持ち上げるまでの僅かな時間。


 まだ足りない。


 アリスが弾倉から薬莢を吐き出して再装填。時間を稼ぎにかかる。


 発砲。

 全弾発射の六発より二発少ない四発。

 しかし、冷静になった彼女はチェシャが与えた傷──鎧と兜の隙間目掛けて的確に撃つ。


 傷目掛けて飛来するのは二発。

 避けられても命中する様にその左右に二発。


 黒騎士は弾丸を見て槍に淡い光を纏わせる。

 光を纏った槍を振るうと強風が吹き荒れ、銃弾を逸らした。


 しかし、アリスの冷静な一撃は黒騎士に傷を負わせることはなくとも、クオリアが立ち上がって大盾を構える時間は稼ぐことができた。


 黒騎士の中で現状危険視しているのはアリスらしく、二人には見向きもせず、攻撃しにかかる。

 それを庇う様にクオリアが立ち塞がり、大盾で防ぐ。


 防ぐ。

 避ける。

 防ぐ。


 連続で受けてはならない事を理解した彼女は後退しながら相手の攻撃を防御と回避を半分ずつこなす。

 弾くなどと調子の乗ったことを狙えばまた盾が打ち上げられてしまうことは彼女はよく理解している。

 堅実な立ち回りで時間を稼ぎ、アリスが首の傷を狙って銃撃。

 このままいけば黒騎士といえどもいつかはアリスの弾丸が命中するかもしれない。


 だが、このままいけばの話。

 アリスが銃のリロードに入り、クオリアへの援護が減る。

 ボイドが先程から火球を飛ばしてはいるが、魔力の減少に伴って頻度も減っている。

 そうなればクオリアも強気には動けず、連撃を嫌らって下がる。


 そのタイミングを読んだ黒騎士が前進しながら追撃。


 カッ、カッ、カンッ!


「ッ!」


 下からすくい上げるような連撃にクオリアの大盾が上に跳ねあげられる。

 先程と同じように腹に蹴りを入れられる地面を転がる。ついに前衛が二人とも落ちる。


 これで黒騎士の邪魔はいなくなった。


 と誰もが思ったその瞬間。


 ──キィィンッ


 高く、澄んだ音が響いた。

 黒槍が回転し、影を伸ばして縮みを繰り返した。


 ゆらりと現れた人影が黒騎士の槍を持つ右手に一撃を加えていたのだ。

 予想外の攻撃に黒騎士が槍を手放したまま硬直する。

 しかし、すぐさま我に返ると、槍を拾いながら距離を取って自分に攻撃してきた敵を見た。


 そこには血塗れになりながらも不敵に、そして楽しげに微笑む少年が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ