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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第四試練:唸るは英雄の剣
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大樹への道

 

 突然の青い閃光を放ったのは門番だった。

 彼が行使した何らかの術はソリッドの炎を全て消し去り、木に飛び火していた炎さえも完全に消えていた。


「はぁ、二人とも熱くなるのはともかく周りのこと、考えてください」

「いやぁ、すまないね。だが、悪いのは向こうじゃないか?」

「元はと言えば突然力試しなんて始めた長のせいですよ。彼はあくまで長の余興に付き合わされただけです。彼に非があっても収めるのは長の仕事でしょう?」


 村長が子供の様に口を尖らせて言った。

 しかし、門番は彼の駄々に子供を叱る保護者の如く即答でつらつらと言葉を並べる。

 その様はどこか慣れた口ぶりで、以前に似たようなことがあるようだった。

 門番の正論には村長も思うところはあるらしく、反論せずに苦々しく頷くと逃げる様にソリッドの元へ行き、話しかける。


「大丈夫か?」


 ソリッドは体力が多いわけでもないため、先程の一撃の後、地面にへたり込んでいた。


「見ての通りっ。……てかよ、あの変な光とかなんだよ! ずりーじゃん!」

「それを使った私を一時的にとはいえ追い込んだお前も十分なんだがな」


 苦笑しながら手を差し伸べてソリッドを助け起こす。

 周りの村人達は戦いが終わったことを悟ると暫く沈黙が続くと誰から始まったのか(まば)らに起きた拍手が波紋の様に広がった。


「ほら、観客達もそう思っている」


 二人に向けられた素直な称賛を示す拍手にソリッドはにやけた顔を隠す為に俯いた。

 分かりやすく周囲に称賛されるのは孤児院の時以来で、それを受け取るのに彼は慣れていなかった。


「こういう時は堂々とするんだよ」


 村長はソリッドの頭を掴み、前に向ける。若干の照れは有りつつも胸を張って村長と共に村人達の輪から歩いて出て行く。

 村長宅に近づく頃には後ろから聞こえる拍手は次第にフェードアウトしていった。

 それを確認するとソリッドは肩の力を抜いて大きく息を吐いた。


「あぁ~! 疲れたぁぁぁ!」

「客人様の部屋がある。そっちでゆっくり休んでくれ」

「うい、ありがとよ。あ、結局力ってやつは見られたのか?」

「そうだな、十分だ。しかし……勝ちでは無いからな、あの子の──」

「それは良いからよ、──魔法ってやつ、教えてくれよ」


 ソリッドは手をぶんぶんと振って彼の言葉をかき消し、顔を引き締めると自らの願いを話した。

 自分が今よりも強くなるのにあの力は丁度いいものだった。なにより魔術と関連性があるのが尚よい。


「……君なら使えるかもしれんが……少なくとも一朝一夕では出来んぞ?」


 挑発する様にいう村長にソリッドは不適に笑った。

 一朝一夕ではできない力を習得して、仲間への手土産とする。それで許してもらえないかという悪い算段もあったが、火力を追い求めるにあたって、ソリッドの渾身の魔術すら捌くポテンシャルを秘めたそれの習得は最善の道にも見えた。


「構わねぇよ。どうせ、待たなきゃなんねぇしな」

「仲間達のことかい?」

「ああ、悪いことしちまったからな、謝んないと」


 ソリッドは罰が悪そうに頰を掻く。

 後悔はなかった。結果論であれ、エマは敵でもなんでもなく、むしろ味方だったのだから。

 それでも、あの状況では説明できなかったし、エマもこちらを襲ってきたのだから逆もしかり、仕方のないことなのも理解できた。


「そうだな、もしわざわざここまで来る様な人達であれば怒りはすれども許してくれるはずだ」

「じゃあ、大丈夫だ。それより、早く休ませてくれよぉ」


 何でもないように淡々と言い切り、目の前にまで来た村長宅に足を早めた。

 それを聞いた村長は意外そうに目を細めた。ここに来る道のりに立ちはだかる困難をソリッドが知らないのだとしても、即答できるのは仲間への信頼があってこそだからだ。


「それほどに信頼のおける者達……なるほど。アグニが倒されたのも必然か」


 当然ながら鍵を閉められているのでドア前で地団駄を踏むソリッドを遠目で見つけ、小さく噴き出しながら彼は呟いた。


 *


「入れないんだけど」


 チェシャが文句を垂れる。

 彼らは等身大の虫達に四苦八苦しながら目的の大樹にたどり着いたが、入り口は見当たらず、探索者組合の建物いくつかを余裕で包み込めそうなくらいに大きい幹を一周してもそれは見当たらなかった。


「でも、ここなのよね」


 クオリアは大盾を下ろして座り込んでいる。彼女の重装備は所々で細い枝や硬い草花に引っかかるため余計に体力を消耗していた。


「そうだとは思うけど……」


 アリスがぐるりと辺りを見渡す。

 突然の出来事でこの場では混乱があったようで触発された虫や獣達が争った後と見られる体が転がっている。

 どれも霧散しない程度には生きていたため、アリスとチェシャが入り口を探しながらとどめを刺していた。

 それでも尚周囲には瀕死の虫や獣達がいるため本来であればこの大樹の周りは大量の迷宮生物がいたのだろう。


「考察するとすれば、だが」


 地図と睨めっこをしていたボイドが口を開く。


「神の試練は古代人達が作ったのはグングニルで確認できた。ならば、人が手を入れた物、ましてや試練としてアクセス権を手に入れられるなら、簡単には大迷宮へ入れない様になっていると考えられる」

「そう?今まではそんな物、無かったわよ?」


 クオリアが宙に視線を向けて記憶の引き出しを探る。


 第一試練の深緑の森。

 第二試練の断崖の城。

 第三試練の氷炎大空洞。


 どれも一応は直通で行くことが出来た。


「第一試練だけが例外だが、残り二つは仕掛けがあったじゃないか。第二試練は空を通るための気球、第三試練は氷の壁と水が張られた通路とかな」

「言われてみれば、確かに回り道させられてる」


 チェシャがうんうんと首を振る。

 気球に関しては先駆者のお陰、氷の壁は無理やり融かしたせいで感覚がマヒしていたのを改めて自覚した。


「あくまで考察するとすればにすぎん。だが、この通りなら何かしらの回り道が必要ということじゃないか?」

「だとしても、ヒントが少なくない?」


 アリスが疑わしげに言う。

 自分の父が開発に携わったとして、そんな分かりにくい物を作るだろうかと。


「否定はできんが、元より私たちの様に駆け足で進める物でもないだろう」

「ここまで来たのにねぇ。仕方ないわ、一度戻りましょう?」

「ん、賛成」


 チェシャとクオリアの防具は傷だらけで軽装のチェシャに至っては肌が見えている部分もあった。

 彼らの姿を見てはアリスも強くは言えず、首を縦に振るしか無かった。


「アリス君、皆も心配している。これもまた急ぐ為の回り道だ」

「分かってる」


 闇雲に動いたところで足元を掬われると、暗に示す。

 そう諭されてしまえば、何も言い返せないアリスは少し不満げながらも荷物を纏め始めた。


「ねぇ、ボイド、ソリッドは大丈夫だと思う?」


 チェシャが耳元で囁いた。


「分からん、が。森人と同種の迷宮生物は一度も見なかった。ならば、ここには集落らしきものがある可能性がある。ソリッドはそこに居ると……願うしかないだろうな」


 確証はない。

 魔術に長けた森人の集落、此処にあるのが迷宮ではなくそれであれば集落に辿り着くにはまた別の困難が生じる。

 仲間たちの士気を下げかねない事実、それを今は口にする事はなかった。



 *


 ハルクから借りている家の食卓。

 チェシャとアリスはいつも通り向き合って今夜のご飯である保存の効く肉と野菜を挟み込んだサンドイッチをいつもとは異なり互いに無言で食べていた。

 夕食に向く物ではないのは帰ってきたのがそこそこ遅い時間であったこと、二人ともご飯を作るのが面倒だった事の二つが起因している。


 チェシャとしては彼女の好きなものを作りたかったのだが、そんな体力もなく、別の機会で良いやと投げやりにサンドイッチにかぶりつく。

 いつもであれば、二人の話し声がする食卓は始まってから一向に会話がない。

 それはアリスがずっと何かを考え込む様に黙っていて、チェシャはそんなアリスに話しかけようとはしなかったからだった。


「ねぇ、チェシャ?」

「何?」


 そのアリスが漸く考えが纏まったのか、口を開く。

 沈黙が辛かったのか、チェシャが聞き返す声には喜色がやや見え隠れしていた。


「第四試練にはあの綺麗な子の仲間達が居るところがあると思うの」


 ボイドが敢えて話さなかったその情報は、頭の良いアリスは自力でたどり着いていた。


「うん」

「じゃあ、そもそも迷宮じゃないとしたらさ、どうやって入るのかな?」

「あの木の何処かに村みたいな所があるって事?」

「あれ程大きな樹だもの、きっと有る筈よ」


 何処か自信ありげに言い切った。しかし、彼女にも根拠はなかった。

 漠然とそうであるはずだという自信のみが溢れていた。


「うーん、じゃあ、穴でも開ける?」

「流石に無理よ……」


 たかが木、されど樹。

 あれほどのサイズの木であれば年輪の厚さがどうなっているのかも想像が付かないし、そんな物に穴を開ける余裕があるとは思えなかった。


「じゃあ下から入るとか?」

「まるでもぐらね」

「でもさ、お城とかさ、何かあった時のために地下通路があるみたいなの、お話で有るじゃん?」


 アリスが持っていた本に一国のお姫様が燃え盛るお城から地下通路を通って脱出するという場面があった。

 チェシャは少し前に借りていたのでその場面から連想していた。

 ちなみに、彼がお姫様の話の様な興味を引かなそうな本を借りていたのはこのお姫様がかなりアグレシッブでアリスが思っていたのとは違うと読むのを辞めてしまい、逆にチェシャが興味を惹かれたからだった。


「確かに……有るのかも」


 アリスが思考の海に潜り込み、可能性を模索する。

 無言で食べていたので、とうにサンドイッチは二人の腹に収まり、アリスが考え込んだ隙にチェシャは食後のお茶を注ぎに席を立った。

 高価な魔石、魔力を蓄えられるそれが固定された型に魔力を流し込むと、自動で術式印を描き、冷気を発する。


 そうして出来ている箱からお茶の入ったポッドを取り出す。

 次に棚から二つコップを取り出してお茶を注ぐ。


 外では彼らが知る本来の大きさの虫もまだ鳴いている。

 涼しくなってはきたが、まだ冷たい物が美味しいとは感じる時期。

 クオリアから貰った茶葉はチェシャのお気に入りだった。コップに注がれるお茶から香る匂いにチェシャが顔を綻ばせている。


 ポッドを魔石の埋められた箱にしまい、二つのコップを食卓にへと運ぶ。


「はい」

「ん、ありがと」


 チェシャはアリスにコップを渡し、席についてから口を開いた。


「収穫祭、もうすぐなんだってさ」

「……収穫祭?」


 思考の海に潜っていたアリスは耳慣れぬ言葉に引っ張り出された。


「サイモンさんが言ってた。次の年も沢山採れます様にってお願いするとかなんとか。それは名目で実際は色んなご飯が食べられるんだって」

「へぇ……!」


 色んなご飯。

 アリスの意識はそちらに向けられた。

 主に甘味に。


「サイモンさんの所の掲示板も収穫祭の為の依頼で一杯だった。資材とかが大半だったけど」


 お祭り用にテーブル、イス、屋台などと資材の使い道は山程有るが、一気に増える需要に供給は追いつかない。

 勿論前もってある程度は貯められているが、需要があると分かれば値段も上げられるのが商売の常。

 等価交換とは異なるバー・アリエルの掲示板、最近ではチェシャ達以外の探索者の利用者も若干増えているおかげで神の試練の素材が安く手に入ると一部で噂になっていた。

 しかし、受けてくれる探索者がいるとも限らないし、一パーティで受ける都合上、量も依頼できない。

 結局のところ、多くの探索者から素材を買い取り、それをまとめて卸す組合のほうが商人にとって都合がよかった。


 だが、量が得られにくいとあっては別。チェシャ達が居るのは最前線。入手物は市場には滅多に流れぬ物。それらが比較的安く手に入るとあっては名が広がり始めるのも必然だった。


「ふーん、じゃあそれを手伝ったら食べられるご飯も増える? ……甘いものとか」


 食後だと言うのに彼女の意識は以前未知の食べ物への期待に向けられている。


「うん、掲示板の依頼の報酬が収穫祭での食券? とかだからさ。……正直割りに合うか微妙だけど」


 収穫祭はお金がかなり行き来する為、混乱を防ぐ為に一度食券を都市が発行。

 それを購入して各場所で食事と交換することができる。

 店側は後日食券を換金してもらうと言う形になる。この食券は複製などを防ぐために特殊な処置が施されているらしく、偽造していた場合はもれなく罰せられる。

 つまる所ただの紙切れではないので発行する都市側は発行することに関しては赤字。狙いは人を集め、税による収入を得る事にあった。


「ついでで出来るものだけやれば良いでしょう?」


 チェシャ達が掲示板の依頼をこなすときはついでに出来るものしか受けない。

 そもそも彼らの目的はお金を稼ぐことではない。神の試練の攻略だ。

 単純に報酬が多い訳ではないのも理由であり、お金が欲しいだけなら素直に採取物を探索者組合に売った方が効率がいい。


「まあね」


 しかし、こう言ったボランティアに近い物の報酬というのは依頼者の人の良さなどが反映される物。

 ついででなくともこなせば美味しいものもあり、たまにはこれらを目的に探索を行うこともあった。

 アリスの今の顔を見れば、余裕が出来ればそれ目的に探索するのがチェシャの目に見えていた。


「でしょ?」

「だったら尚更ソリッドを早く見つけなきゃ。何か思いついた?」


 そこでようやくアリスはチェシャがこの話題を突然出した理由に気付いて苦笑した。

 それとなく気をまわしてくれている相棒に感謝をしながら、自分の考えを述べ始める。


「ええ、時間はかかるけれど──」



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